第3話《瑠衣の覚醒》

クリーチャー瑠衣・3

『瑠衣の覚醒』



Creature:[名]1創造されたもの,(神の)被造物.2 生命のあるもの 



『都立希望野高校校長 人事異動内示書の違法公開!』『許せぬ民間人校長のパワハラ!』


 そんな見出しが各紙面のトップに踊っていた。報道各社は、いっせいに都庁二号庁舎にある都教委と学校に押し寄せた。

 瑠衣は都教委の廊下で待っていた。すでに廊下にはテレビ局や新聞社の記者で溢れている。

 やがて、校長が緊張した顔で記者たちにもみくちゃにされながら階段を上がってきた。

 途中まではエレベーターを使っていたが、狭いエレベーターの中で、記者たちに質問攻めにあうことに耐えられず、校長は発作的にエレベーターを降り、十五階分階段を上がってきた。記者たちも同時にエレベーターを降り、体育会系バラエティー番組のように、一気に十五階を校長を囲む集団で取り囲みながら上がってきた。

「校長、極秘であるべき内示書を何十枚もコピーして職員室で撒いたんですか!?」

「内示書が、極秘扱いになっていることはご存じだったんですよね?」

「パワハラになるという自覚あったんですか!?」

「内示書の中には個人情報が含まれてますよね!?」


 校長は、記者たちの質問には一切答えず、教委に指示されていた会議室へと向かった。


 校長は、嘘の答弁を用意していた。

「大切なものなので、取扱いに注意し、問題は職員みんなで共有しなくちゃなと教頭に話し、教頭はそれを誤解して印刷、職員室に積み上げたもの」

 これだけでは監督不行き届きにしかならない。驚いたことには生徒から集めた教材費をプールし、二重帳簿を作っていた。これは管理職はみな承知のことで、いわば運命共同体であり、教頭にも泥を被せたのである。


 会議室は遮音されていたが、なぜか会話は丸聞こえである。これが自分の力であるという自覚は瑠衣には無かった。


「こ、こ、こ……」

「校長先生、落ち着いてください」

「この件は、普段私の意に従わない教職員への見せしめであり、校長が学校で最高の権威者であることを、みんなに思い知らせるために……」

「正気ですか、校長先生?」

「え、あ、いや……」

 校長は狼狽したが、思ったことがそのまま口に出てしまう。

「内示書の中には、とても重要な個人情報が含まれています。年齢や履歴、さらに指導専従という記載のある先生は、それだけで本人が隠していた国籍まで分かってしまいますよ」


 瑠衣は意外だった。あの内示書には本名そのものが書いてあると思っていたから……それは、瑠衣の能力が高く、そこまで深く読んでしまったということが分からなかった。

「本日付で、休職していただきます」

「え……休職?」

「これが最終決定ではありません。事の重大さと、今の先生の答弁は予想を超えて問題があります。教育委員会に諮り、以後の措置を検討します。別命あるまで自宅で待機なさってください」


 その後、校長がマスコミから、ほとんど非難と言っていい取材に晒されたことは言うまでも無い。


 校長は方がついた……そう思った瞬間瑠衣は、学校の英語科準備室に瞬間移動してしまった。目の前に岸本先生がいる。

「岸本先生」

「わ、なんだ立花、いつの間に入ってきたんだ!?」

「先生、内示書見ましたね」

「あ、ああ、職員室に無造作に積んであったからな。なにか問題でもあるのか、あれを公開したのは校長だぞ」

「そのことはいい。先生は、あれを見て高坂先生が外国籍だということに気づいて、心変わりしたでしょう」

「そ、それは」

「高坂先生がどれだけショックだったか分かる!?」

「そんな、オレの責任じゃ……」

「先生にも、高坂先生と同じ目に遭ってもらう……」


 岸本は校舎の外階段の最上部まであがり、そこから飛び降りた。



 グシャ



 瑠衣は、そこで愕然となった。

「なんて、恐ろしい力……!?」


 瑠衣が、自分の力が覚醒したことを自覚した瞬間であった。

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