第4話『瑠衣が真実を知った結果』
クリーチャー瑠衣・4
『瑠衣が真実を知った結果』
Creature:[名]1創造されたもの,(神の)被造物.2 生命のあるもの
岸本先生は四階の外階段から落ちたが一命は取り留めた。救急車の中で「痛い、痛い……」と子供のように泣き叫んだ。
瑠衣は、高坂先生への詫びの言葉が出ないことが悔しかったが、それ以上に自分の力が恐ろしくなった。
――高坂先生を無傷で助けたのも、校長の悪巧みを知って制裁をくわえたのも、都庁まで往復のテレポーテーションをやったのも自分の力なんだ――と理解した。
ショックだった。自分がまるで化け物のように思われて、その日とあくる日は外にも出られなかった。
校長は、あくる日に懲戒免職になった。岸本先生は六カ月の重傷、そして高坂先生は、そんな岸本先生のことをまだ気遣っていることを家に居ながら知ってしまった。テレビからでもなくネットの情報でもなかった。これも自分の力だと理解した。理解はしたが、ただ恐ろしかった。自分は化け物中の化け物だと思った。
「瑠衣、ちょっと話があるの……」
母の心にはバリアーか何かがあるようで読めなかったが、なにか、より恐ろしい話が聞かされそうで、瑠衣は家を飛び出した。
あてもなく歩いた。無意識にテレポしてしまい、景色が渋谷、銀座、原宿、秋葉原などところころ変わった。
途中、歩きスマホをやっている人たちのスマホを全部壊した。
「あれ……」
歩道を猛スピードで走っていた自転車のニイチャンが前のめりになりながらたまげた。自転車のペダルが急に重くなり、歩道を走るのにふさわしい時速8キロにまで落ちてしまった。
コンビニを出ようとして、車のブレーキとアクセルを踏み間違えたオジイチャンは、車が飛び出さずにホッとした。
「いつのまに安全装置を付けたんだろう……?」オジイチャンは不思議に思った。
無意識ではあるが、全て瑠衣の力であった。
一時間後、瑠衣は母の部屋に連れ戻された。
「少しは落ち着いた? お母さんは瑠衣みたいな力はないから、連れ戻すのに苦労した」
「あたしは、いったい何者なの……?」
思ったよりも落ち着いた気持ちで訊ねることができた。かすかにラベンダーの香りがするような気がした。どうやら母の仕業らしい。
「瑠衣のお父さんは死んだって言ってきたけど、そうじゃないの」
「どういうこと……?」
「お母さん、二十二歳の歳にひどい失恋をしてね、今日の瑠衣みたいに街をほっつき歩いて、気が付いたら、あるビルの屋上にいたわ……で、飛び降りちゃった……高坂先生みたいにね」
「高坂先生のこと知ってるの?」
「わたしは、このパソコンを操作しなきゃ分からないけどね……聞いてね。お母さんを助けてくれた人がいるの、高坂先生にとっての瑠衣のように」
「あたしが、高坂先生を助けたの……?」
「そう、あとの不思議なできごともね。瑠衣の力が覚醒したのよ。いつかはと思っていたんだけど、急だったんで、慌てちゃって。でも、瑠衣は、悪いことには力は使っていない。少し安心した」
「どうして、こんな力が……」
ラベンダーの香りが少し強くなったような気がした。
「瑠衣のお父さんは……」
「あたしが赤ちゃんのころに……」
「亡くなってはいない……お父さんはシータ星の数少ない生き残りなの」
「宇宙人……」
瑠衣の頭にシータ星の宇宙座標や、シータ星の情報が流れ込んできた。瑠衣は悲しそうな顔になった。
「そう、滅びかけ……お父さんが、助けてくれたのは瑠衣と同じ『死なないで!』という良心から。お母さんお礼がしたくて、間をすっ飛ばして言うと、彼のために、あなたを産んだの。一か月ほどはお父さんいっしょにいてくれたけど、宇宙に散った仲間を探しに飛んでいってしまった」
「連絡とかは?」
「事情があって連絡できないの……瑠衣がインストールした情報で想像はつくでしょ」
「……そういうことなんだ」
自分の部屋に戻ってもラベンダーの香りは付いてきたが、瑠衣の心には大きな穴が開いた。そして母は最後に言った。
「力をコントロールできるようになりなさい。そしてなんのために力を使えばいいか考えてゆっくりでいいから」
瑠衣は、たった一人、海の真ん中に放り出されたように寄る辺ない気持ちになった……。
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