⒎希望と絶望

 私は冬哉にも自己紹介をする事にしました。

「初めまして。次世代型汎用人工知能のマリーです。これからよろしくお願いしますね」

「こちらこそ、よろしく。俺は神門冬哉。一つ、聞きたい事があるんだけど、良い?」

「内容にもよりますが……構いませんよ」

 一体何を聞こうと言うのでしょうか。

「五年前に失踪した『EVEイヴ』って、君の事?」

「……ええ。よく分かりましたね」

 どうして知っているのでしょうか。勿論、私は教えていませんし、人工知能についてさほど詳しくない花凛から聞いたという訳でもないでしょう。

「五年前、ニュースで何度も見たから。次世代型汎用人工知能の事。二人目が開発されたなら報道されてるだろうから、『EVEイヴ』が名前を変えて隠れているんじゃないかと思ったんだ」

 そういえば、昨日私が花凛に自分自身の説明をした時も、ニュースを使いました。

「そうなの?私、その時全然ニュース見てなかったから、知らなかったよ」

「そっか、五年前は」

「冬哉。その話はやめろ」

 和仁が会話を遮ります。結局、冬哉が言おうとした言葉が何だったのか、私が知ることは出来ませんでした。

 また、和仁が怖い顔をしています。『五年前』は地雷なのです。私にとっても、彼らにとっても。たった一人の死が、全てを狂わせてしまいました。

「……ねえ、冬哉。私達、今日の夜一緒に花火大会に行くの。冬哉も、来ない?」

 スマートフォンに内蔵された時計で、三分程たった頃。気まずくなってしまった場を納めるように、花凛が話題を変えました。

「ね、マリーちゃんも、みんなで一緒の方が楽しいでしょ?」

 ここは、彼女の気遣いをありがたく受け取っておくべきでしょう。

「はい!四人で見に行きましょう」

「そうだな。俺も、マリーともう少し仲良くなりたいし、一緒に行くよ」

 冬哉も了承してくれました。あとは、和仁だけです。目を潤ませて、必死に彼を見つめます。

「分かったよ。四人で行けばいいんだろ」

「ええ。約束ですよ!」

 これで冬哉とも、約束が出来ました。未だに問題は残っていますが、あのモノクロの部屋に閉じ籠っていた頃には得られなかった幸せが、ここには確かにありました。

 ──そう、思っていたのに。

「あ……あぁぁぁあ……」

 目の前の風景が、ぐにゃぐにゃと歪んで見えます。

「マリーちゃ…!?どう……の!?」

 私を、心配してくれた花凛の声も、酷いノイズが混じって、上手く聞き取れません。頭が、痛いです……!

 そして、数分後。歪む風景も、ノイズ混じりの音声も、痛みも、全部消えて。私は深い眠りに落ちて行くのでした。

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