⒋明日の約束

「マリーちゃん、何処に行きたい?」

「そうですね、綺麗な物が沢山ある場所に行きたいです」

「それなら、私、いい場所を知ってるよ。……和仁、スマホ貸して」

 和仁からスマートフォンを取り上げ、花凛は歩き始めました。

「ねえ、マリーちゃんってさ、次世代型のAIなんだよね。普通のとどう違うの?」

 彼女は博士ドクターの娘である割に、人工知能については詳しくないようです。

 私はスマートフォンを操作し、五年前のネットニュースを表示しました。


『2052年、人間の脳をモデルにした次世代型AIがついに完成』

『心を持ち、自分で考えるAI、EVEイヴ

『消えた人工知能、開発者は病死』


「こんな感じです。まあ、一番の特徴は感情を持っている事ですね。ただ、弱点もあって、自分の身体として認識出来るアバターが無いと何も出来ないんですよ」

 人間だって、身体が無かったら困るでしょう。それと同じ事です。

「へえ……。じゃあ、本当に心を持ってるんだね」

 それから彼女は、何かを深く考えるように、黙り込んでしまいました。

 私達は、黙々と坂を下って歩きました。

「あ、着いたよ!」

 花凛が足を止めたのは、ガラス細工の店の前でした。

「確かに、ここなら綺麗な物が沢山あるだろうな。花凛、よくこんな店知ってたな」

「昔、お母さんに連れて来て貰ったの。さ、中に入ろう?」

 アンティーク調の白いドアを開けると、店内に並んだキラキラと輝くガラス細工が目に飛び込んできました。

「すごいです!ガラスって、色付きのもあるんですね!私、全部透明だと思ってました」

 きっと今、私の目はここにあるガラス細工に劣らないくらい、輝いているのでしょう。私の顔を見た和仁が、微かに微笑んでいます。

「色付きのガラス細工はこっちの方が沢山置いてあるみたいだぞ」

 和仁に案内され、私達は店の奥に進みます。

「和仁、花凛!見て下さい!これ、とっても綺麗です!」

 私が目を留めたのは、打ち上げ花火が描かれた風鈴でした。ふちだけが水色に着色された濃紺のガラスに、赤や黄色などの色とりどりの花火が描いてあって、それはそれは綺麗なのです。

「それは花火大会の様子を描いた風鈴だね。毎年、8月にやってるんだ。今年は明日開催なの。一緒に見に行く?」

「はい!約束ですよ!和仁も一緒ですからね!」

「おう、約束だ」

 それは、私が初めて交わした約束でした。こうして純粋に「明日」を楽しみに出来るなんて、昨日までなら考えられなかった事です。

 私は今、これまでに無い幸せを感じていました。

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