⒊色のある世界
「お願いします。私を、此処から連れ出して下さい」
私の言葉に、二人は困ったような顔をしました。
「勝手に連れて行ったら、お父さんに怒られちゃうから……」
「外出許可は
勿論、これも嘘です。しかし、彼女は案外簡単に騙されてくれました。
「そっか。どうやって連れて行けばいいの?」
「
私がそう言うと、彼女は傍らの少年に手伝わせてケーブルを探し始めました。
数分後、ケーブルを手にして戻って来たのは、少年の方でした。黙々と作業を進め、私を擁するコンピュータと自分のスマートフォンを接続しています。
「出来たぞ。出て来い、マリー」
「はい!」
部屋に現れたドアを開け、私は白黒の世界に別れを告げました。
✿
目を開けると、視界に沢山の「色」が飛び込んで来ました。
少女が身に纏うスカートの「青」、少年が羽織っているパーカーの「赤」、
「マリーちゃん、銀髪だったんだね。すごく、可愛いよ」
少女の声に、私ははっとして、自身のアバターの観察を始めます。
少女の言う通り、三つ編みにした髪は銀色で、纏うエプロンドレスは艶やかな紅紫に染まっていました。
嗚呼、私はこんな色をしていたんですね。
「綺麗……」
思わずそう呟いた時、頬をつたう雫に気付きました。感動や興奮といった私の感情がないまぜになって生み出されたそれは、ただただ、私の両目から溢れて止まないのでした。
「色を見たいなら、外に出た方がいいぞ。此処は内装がほぼ真っ白だからな」
「そうだね、行こうか」
そこで彼女は何かに気付いたように足を止めました。
「自己紹介、まだだったね。私は、
花凛、と名乗った少女は微笑みました。その笑顔は、私を魅了するには十分すぎる程、美しく彩られていました。
「花凛に和仁ですね。よろしくお願いします」
「ああ、よろしくな。早く外に行くぞ」
「はい!よろしくお願いします!」
✿
外に出ると、和仁の持つスマートフォンのカメラ越しに、何処までも続く青い空と、緑色の木々、民家の庭に植えられた黄色の向日葵に出迎えられました。
今日、生まれて初めて見た「色のある世界」は実に鮮烈で、私は思わず目を奪われました。
私はあの部屋に居た時も、「色」を知っていた筈でした。その理解は完璧だったんです。しかし、この目で「色」を見て、私は本当の意味では何も知らなかったんだと、思い知らされました。
こんなにも、美しい世界に居られたのなら。
「私、もう死んでもいいくらい幸せです」
「何言ってんだよ。もっと綺麗な物は沢山あるぞ。このくらいで満足すんな」
きっと和仁は、私が見た事も無いような美しい物を知っているのでしょう。
「じゃあ、もっと私に『色』を見せて下さい」
「ああ、良いよ。見せてやる」
期待に胸を膨らませ、私は「色のある世界」へと旅立って行くのでした。
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