「大好き」って叫びたいし、萌えすぎてもだえ死んじゃうよ!

相川青

第1話 チョコレート

「この週末は車を借りてね」と彼女が言った。


 彼女は僕より10歳年上で 、このクリスマスから僕たちは付き合い始めたばかりだ。


 僕達の馴れ初めはちょっと変わってて、僕が 街角で 彼女に声をかけたことから始まった。


 …その話はここでは詳しくはしないけど。


 生まれて初めての彼女だからすごく嬉しかった。でも、お互いに仕事が忙しくて年末からこの2月半ばまではあんまり会えなかった。


 だから今年のバレンタインデーも職場でもらった義理チョコだけだった…。 特にバレンタインデーに思い入れはないけど「今年は毎年とは違うんだ」と勝手に思っていた。


 でも、それは内緒にしておく。

 彼女は年上だし、あんまり子供っぽいとこ見せたくないし。


 神戸の元町駅の近くでまで車で行って道路脇に車を停めて待っていた。彼女が窓をコンコンとノックしてきた。ノックの音さえ可愛く聞こえるなんて、多分たぶん僕病気なんだろうな。


 白いコートを着た彼女はすごく可愛かった。

 車にポンッと乗ってきて、彼女は「さむ〜いっ」と言いながら、その白いコートを普通に脱いだ。そしてモコモコしたセーター姿になった。


 セーター姿になると、彼女の細みなのに、柔らかそうな体のラインが分かりやすくなって、僕は勝手に少し恥ずかしくなった。


 彼女は僕の視線に気付いて、優しく微笑みながら、

「どうしたの?」と聞いた。

「なんでもない」と目を逸らしながら答える僕は、きっと嬉しそうに見えたに違いない。


 僕は車を出しながら、

「どこに行こうか?」と言った。

「海が見たいから、西に向かおうよ」

「りょーかい」


 外は寒いけれど、だからこそ空気も澄んでいて、車の中から見ると海はとても綺麗で キラキラしていた。


 海沿いの道路に差し掛かった時に、

「ちょっとその辺で脇に車停めようよ」と彼女が言った。


 ちょっと周りを見て、車の停めれそうなところを探してから車を停めた。


 車を止めると、

「じゃ〜ん!」

と彼女が 口にしながら紙袋を取り出した。

「チョコレートだよ〜ん」


 僕は嬉しかったけど、なんとなく照れくさくて無言で頷いた。彼女は

「愛のバレンタインデーだね」といたずらっぽく続けた。


 僕はじんわりと嬉しくなって、少し泣きそうになった。でもこれも内緒。


「ベタだけどゴディバのチョコレートって すごく美味しいんだよ。食べたことある?」


「いや、ないです」と答えてから、「そもそも本命のバレンタインチョコが生まれて初めてだし」と言った。


 彼女は少しきょとんとしてから、

「そっかそうだったよね。当日じゃなくてごめんね」と言って、いたずらっぽく笑った 目尻のシワがすごく可愛い。抱きしめたい。


 まだ恥ずかしくてできないけど、こんな時すごく抱きしめたくなる。みんなそうなのかな。


 彼女が包みを開けて、中から小さいチョコレートが何個か見えた。


 彼女がチョコレートを取り出したので「あーん」って、食べさせてくれるのかななんて甘い期待をした。ええ、もちろん、そんなのも生まれて初めてですよ。バカな男の妄想ですよ。


 そしたら彼女の細い指はチョコレートをつまんで、そのまま彼女の口へと向かった。


 唖然とする僕を置いて、彼女は「コリッコリッ」と言う愛らしい小動物のような音を立ててチョコレートを食べ始めた。


 いや、美味しそうに甘い物を食べてるのもかわいいけれど、なんか違うよね!?


 僕はしばらくそれを見ていたけど、そのまま彼女が食べ続けるので、

「あれ?僕にそれくれるんじゃないの?」とかろうじて言ってみた。


 彼女はうつむいて、ククッと笑い出したと思ったら、そのまま一人で大爆笑し初めた。少し涙も浮かべていた。なんだこれ。バカっぽくて、さらにかわいいじゃない。


「わかってるよー」


 そう言いながら、もう一つチョコレートをつまんだ彼女の細い指は、もう一度彼女の口元へと向かった。


 「もう一度つっこむの?」と思っていたら、彼女は口にチョコレートを軽く挟んで少し目を細めて、首を斜めに傾けながらこちらに顔を向けて「 はい」と言った。


 え!?何これ!?


 こんなの何かで見たことあるけど!

 まさか自分の目の前で起こるとは!


 正直彼女の可愛さで萌え死んでしまいそうだった。


 僕は少し躊躇してから 彼女の肩に手を添えた。 まだ彼女の細い肩に触れることさえ僕にはドキドキするようなことだった。肩の骨の手触りさえ可愛い気がするから。


 頭の中を真っ白にしながら 幸せいっぱいに包まれて、僕は彼女の口元に向かった。なぜか「口には触れない方がいいんだよね」と思った僕はチョコレートだけくわえようとした。


 そしたらチョコレートと一緒に彼女の舌が僕の口の中に入ってきた。


 彼女の柔らかい舌が、戸惑う僕の舌の周りを一周した。彼女が笑うたびに口元からのぞいていて赤くてかわいいと思っていた、いっつもその存在に気付く度にドキドキしていた舌だ。


 もう、全身がじ〜んとして、何とも言えない感覚に僕は包まれた。こういうをみんな幸せって言うんだよね?


 僕も彼女の舌をまさぐろうとしたら、 チョコレートの大きな塊と彼女が僕の口から出ていった。


 彼女はまたいたずらっぽく笑いながら、「結局チョコは貰っちゃった」と言った。


 僕はたまらなく彼女が可愛くなって、もうどうにも止まらなくなって、彼女を強く抱きしめた。


 彼女が僕の胸の中で「ちょっと痛いかも」と言うので、僕は「ごめん」と言いながら慌てて彼女を離した。


 僕がもう一度謝る前に、彼女は「もう一個食べる?」と笑顔で僕に聞いた。


 僕は大きく何度もうなづいた。

 そうして僕は彼女のかわいさに打ちのめされ続けた。


 そうか、これがあの伝説の…

「ハッピーバレンタイン」というやつなのですね、と思い浮かんだ僕は多分ただのアホに違いない。

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「大好き」って叫びたいし、萌えすぎてもだえ死んじゃうよ! 相川青 @aikawaao

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