第5話:六鬼衆②

【sideみんちゃす】


あれから数日が経過。激闘に次ぐ激闘の連続だった『アクロバティック相撲百番勝負』も、俺とラムダの25戦目でいよいよ大詰め。


「バカめ隙ありだ、紅魔撃滅拳!」

「っ、しま-ぐぅう……っ!」


ほんの一瞬生じた隙を逃さず、怒濤の連続攻撃をラムダに浴びせる。しかしラムダも俺に負けず劣らずの近接戦の名手。最初の数発は直撃したもののすぐさま対応し、大きく後退したものの大したダメージにはならなかった。

相変わらず堅いなこいつ……流石の俺でも強化魔法や闘気無しでこのララティーナとタメ張れるレベルのタフネスお化けをブチ潰すのは無理だ。


……まあでも、


「……なんとか耐えきったけど、ギリギリでフィールドのライン越えちゃったから、この勝負アタシの負けね……」

「惜しかったな。……これで通算13勝11敗1分け、今回もギリで俺の勝ち越しだ」

「アナタのことだから腕が鈍ってるとは思ってなかったけど、まさか以前より強くなってるとはね。アタシも以前より実力をつけたのに、自信無くしちゃうわ……」

「そう落ち込む必要なんざねーんじゃねーの?このアクロバティック相撲は殺傷力のある攻撃を禁止している以上、あくまで手合わせの域を出ねーんだからよ。……そんな訳でリュウガとケティ、俺に勝ち越したからっていい気になんじゃねーぞコラ」

「はいはい、なってないなってない。いちいち噛みついてこないでよ面倒臭い」

「それに総合勝率では……流石に一位はケティだったが、今回は俺とお前は同率二位なんだから良いじゃないか」

「良くねーよボケ。真の最強ってのはな、どんな条件だろうと勝つから最強なんだよ。そして二位以下なんて興味ねーよ。やるからには欲しいのは頂点のみ。ケティ、俺はいずれオメーを打ち倒し、六鬼衆最強の座を奪い取ってやる」

……と口では強がってみたものの、何でもアリアリの実戦だったらケティには余計に勝ち筋が見えないんだがな……。こいつは素でもやたら強い上にがワケわからな過ぎて、単純な強弱の物差しじゃ計れない。まだ冬将軍ぶっ倒す方がやり易いかもしれない……俺が最強を目指す以上は、いずれ打ち倒さなきゃならない壁の一つだ。

「そんなフワッとしたノリで打ち倒されたら、たまったもんじゃないっての。好き勝手暴れんのは嫌いじゃないけど、だいたい私は最強とか別に興味無いんだから放っておいてよ」

「ナチュラルに心読むな鬱陶しい。……それとアヤネ、いつまでもそんな隅っこで膝かかえて蹲ってんじゃねーよ」

「ぐすん……ケティさんの次に勝率高いみんちゃすさんに、勝率1割以下の負け組の気持ちなんてわかりませんわ……」

「いやオメーの黒星大半が反則負けじゃねーか。いつになったらオメーは手合わせの意味が理解できるんだ?テンション上がるとすぐに殺し合いに持ってこうとしやがってコノヤロー」

わたくしとて手合わせであることは承知しておりましたわよ!でも戦っている内になんか楽しくなってきてしまい、

つい……」

「オメー絶対カタギとして生きていけねーよ……」

《バーサーカー》は、判断力の低下と引き換えに身体能力が上昇し、さらに傷を負うごとに補正値が上昇していく『狂化』スキルが持ち味の上級前衛職。そのリスキーな能力からこの職を選択する奴は血の気が多い奴ばかりって話だが、ここまでの沸騰脳みそは世界中探してもそうそういないよな……。

「……さてマルチェロ、あと二時間でカズマの裁判が始まるんだな?」

「えぇ。数日前にアクセルに遣わせた密偵からそう報告を受けています。……あと、みんちゃす殿のパーティー仲間達が、王立刑務所の付近で連日爆発騒動を起こしているという報告も」

あいつら何やってんだか……。

ララティーナの覚悟を見込んでこの件を預けたが、見込み違いだったか?……いや、カズマの有罪が確定するにはまだ猶予がある。ギリギリまでは成り行きを見守るか。

……有罪が確定しちまったら俺達『六鬼衆』の出番だ。多少荒っぽい手段でも構わないから、カズマを救出してこのクリアカンで保護する。とはいえ王都の連中にもメンツってもんがあるだろうし、下手したら大規模な戦争が始まるかもしれないな。そうなったらどちらが勝とうが漁夫の利で魔王軍の天下が確定してしまう。……まあベルゼルグが滅ぼうがどうでもいい。俺の仲間を、街一つ救った人間を処刑するようなクソ国家なんざ、たとえ滅びちまっても惜しくもなんともない。だがこのクリアカンは俺の第二の故郷。できることなら巻き込みたくはないが……。

「……オメーら最後に確認しとくが、俺の我が儘に命を預けて構わねーんだな?」

どんな返答が返ってくるかわかりきった問いを投げ掛けると、


「ははは、愚問ですねみんちゃす殿。我々は仁義を重んじる任侠団体『月代組』ですよ?」

「盃を交わした家族を見殺しになど、わたくし達がするとお思いで?」

「そうね。そんなダッサい真似したら、今後ことあるごとにそれが脳裏にチラついて、女の子口説いても楽しくなくなっちゃうわ」

「ガラにもなくごちゃごちゃとまどろっこしいわねアンタ。要は敵っぽい奴を手当たり次第ブチのめしゃ良いだけでしょうが」

「まあそういうことだ。……それに奴等とはいずれぶつかる運命だったのは間違いない。そいつが少しばかり早まっただけさ」


何人かアレなのもいるが、予想通り概ね俺に力を貸すことに依存無いらしい。まあそりゃそうか。今までも、そしてこれからも……月代組はいつだって、『力』と『仁義』で繋がっているんだからな。

さて、具体的な段取りや指揮はリュウガに丸投げするとして……

「俺は直接カズマの裁判を見届けつつ作戦決行の是非を窺う。俺が腕のこいつを通して合図を送ったら、いっちょド派手に頼むぜオメーら」

俺が巻き付いた包帯を取りつつ左腕を差し出すと、他の五人もそれに倣い左腕を出し一つの円を作る。


リュウガの『柳に燕』


マルチェロの『藤に不如帰』。


アヤネの『菖蒲に八橋』。


ラムダの『萩に猪』。


ケティの『芒に雁』。


そして俺の『桐に鳳凰』。


六鬼衆であることを示すマークが、お互いに共鳴して淡く光り出す。そして次期組長にして六鬼衆のまとめ役であるリュウガが話の締め括りを行う。


「我ら月代組『六鬼衆』の名の下に!この世の仁義なき下衆共に……」

「「「「「鉄槌を!」」」」」


円陣を済ませた俺は、再び左腕に包帯を巻き付けながらテレポートの詠唱をし始める。

「みんちゃす、忘れ物だ」

おもむろにリュウガが投げ渡してきたのは、親分に預けていた我が愛刀『ちゅーれんぽーと』。正式名称『ちゅーれんぽーと弐式』……否。返っててきたということは、こいつもう『ちゅーれんぽーと参式』へとグレードアップしているのだろう。

「おーもう打ち直し終わったのか。流石親分、仕事がはえーな」

「オジキとて別に伊達や酔狂で、世界一の鍜治屋を自認してるわけじゃないってことだ」

相変わらず多芸だなあの人も。

「それじゃ改めて、行ってくる」

「仲間の危機だからって、焦ってドジ踏むなよ、?」

「オメーにだけは言われたくねーんだよ天然ドジっ子が……


『テレポート』」

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