第4話:六鬼衆①

【sideみんちゃす】


「うわ、ホントにもう集まってるし……」

姐さんと別れ『上弦の間』についた俺は、フスマ越しで4つの強者の気配と、1つの口では説明しにくい妙な気配を感知……ホントにケティまでいるし、なんかテンション下がるな……。しかしカズマの裁判まで時間も限られているわけだし、気持ちを切り換え俺はフスマに手をかけ横にスライドすると……



「お待ちしておりましたわみんちゃすきゅん久しぶりのクンクンハスハスペロペローーーっっっ!」


物凄いスピードで変態ショタコン女が俺めがけてダイブしてできたので、


「《フレイム・ウエポン》」

「熱ぅぅうううぁぁあああっ!?」


俺は炎を纏った手でそいつの顔面を掴んで捨てた。変態とはいえ女の顔をこんがり焼くなんて、流石に俺でも通常ならドン引きものの外道行為である。そう、通常なら……焼かれたのがこいつ以外だったらの話だが。


「久しぶりの再会だというのにこの仕打ちはあんまりですわ!?すぐ治るとはいえスゲー痛かったんですのよ!?」


この通り変態は平然とすぐ起き上がってきた。顔の火傷は何事もなかったかのように綺麗さっぱりなくなっている。

相変わらず憎たらしいほど回復早いなこいつ。

「毎度毎度会うたびダイブしてきやがぬて、どうしてテメーは懲りねーんだアヤネお嬢様よー……」

「それは愚問ですわ……世界中の可愛らしいショタっ子達を!ぺろぺろちゅっちゅして[自主規制]して最後に[自主規制]することこそわたくしの悲願なのですわ!だからこそ私は何度でも立ち上がり-あっ、振りかぶった手を下ろしてくださいまし。重ねて申しますが痛みは普通にあるへぷぅっ!?」

六鬼衆『般若』……《バーサーカー》の月代綾音つきしろあやね。名前からわかる通り、サイガ親分とキャロルの姐さんの娘だ。

姐さん譲りのエルフ耳に親分譲りの黒目、そして深緑色の長い髪が特徴的の、黙っていれば清楚でおしとやかな美人。そしてそのイメージ跡形もなく消し飛ばす趣味嗜好の残念さ具合とララティーナとは方向性の違う変態性、そして脳カラ具合。『可愛らしい美少年が好きですわ!もちろん[自主規制したい的な意味で!』と真剣な顔で宣言する実にイカれた女だ。

……どうもこいつは苦手だ。舎弟共が言うには普段はもっと上品で慎ましい性格らしいが、俺はこいつのアレな面しか見たことない。できることなら関わり合いたくないが、俺が月代組に所属している以上そうもいかないよな……それに実力主義の六鬼衆に属しているだけあってこいつも相当強い。バーサーカースキル《超速再生》のスピード本人の魔力に比例するのだが、こいつの魔力量は現時点のめぐみんよりも上という、前衛職にあるまじき膨大さだ。それに加えて姐さんがこいつに刻んだ《自然治癒》のルーンも加わることで、常識では考えられないほどのしぶとさを誇っている。性格的には問題外だが、こと荒事に関してだけは頼りになる奴だ。こいつが六鬼衆の椅子から滑り落ちるのはまず無いよな……あーあ。

そんな感じで黄昏ていると、長身の男が俺達を一瞥して呆れたように溜め息をついた。

「まったく……アナタ達会う度似たようなやり取りしてるわねー。いい加減飽きないの?」

「俺だってうんざりしてんだよ。会うたびこのバカ女が飛びかかってくるんだから、俺も迎撃するしかねーだろうが」

「もうこの際おとなしくいただかれちゃったら?アヤネちゃんも見てくれは悪くないんだし」

「嫌に決まってんだろーが。重度の女好きで平気で二股とかする無節操のオメーじゃねーんだからよ」

「じゃあみんちゃすがアヤネちゃんの好みの対象からから外れるしか……あ、無理ね。アナタ今後一生ショタっ子キャラだろうし-っとぉ危なっ!?」

ナチュラルに喧嘩を売ってきた馬鹿に無言で腹めがけて修羅滅砕拳を放つが、咄嗟に片手で受け止められた。『上弦の間』全体に轟音が鳴り響いた後、男は手を痛そうにひらひらさせながら恨みがましい目で睨んでくる。

「痛たたたた……ちょっとした冗談なんだから、そんなムキにならなくても良いじゃないの」

「あー?『喧嘩を売ってきた輩は惨たらしくぶち殺す』のかヤクザの流儀だろーがよー」

「そこまで喧嘩っ早いのアナタだけよ……」

「しかし相変わらずムカつくほど頑強な奴だな……こっちは肉体を爆発四散させるぐらいのつもりで殴ったってのに痛いで済ませやがってクソが」

「いやそれ盃を交わした兄弟分への力加減じゃないでしょ!?」

六鬼衆『仁王』……《グラディエーター》のグレイセス・パトリック・ラムダ。

元上級貴族パトリック家出身の先代『仁王』と、かの大剣豪バサラの血を引くドワーフである先代『般若』の間に生まれた、ライオンの鬣のような貴族特有の金髪と碧眼が特徴的なハーフドワーフの……男だ。

女みたいな口調こそしているが、別にオカマとかではなく普通に女好き……というか常人より遥かに女好き。趣味は合コン特技はナンパ、こいつの行動原理の9割強がモテるためと言っても過言ではないくらいのキング・オブ・チャラ男。軽薄さが服を来て歩いているような奴だ。

母ちゃんほどではないとはいえ長身で、女受けが悪いという理由で髭は全部剃っていると、その外見にはドワーフらしさは欠片も無い。

《モンク》の上位職である《グラディエーター》であることに加え、貴族出身特有の高い身体能力と頑強さに、ドワーフ故の図抜けたタフネスと小器用さが合わさり、近接戦闘では洒落にならない強さを誇る。純粋な力比べじゃ六鬼衆1と言っても過言じゃないほどの、ゴリゴリのパワーファイターだ。

……ちなみになんで女みたいな口調なのかは知らん。何だったら本人すら知らんとのこと。物心ついたときには既にこの喋り方で、全く覚えてないらしい。矯正しようと思えばできるらしいが、意外と女ウケがいいのでこのままでいくと以前ほざいてた。

「ったく、来て早々疲れさせやがって……なあリュウガ。改めて思うが、現六鬼衆のメンバー変な奴多過ぎだろ」

「へんてこセンスのバトルジャンキーにだけは言われたくないわね」

「まったくですわ。……でも、ツンデレで意地悪なところもみんちゃすさんの美点ですし、そういうとこも実にそそります。じゅるり」

バカコンビの戯れ言は無視して、正座で藁半紙を広げている男の返答を待つ。

「まあそう言うなみんちゃす。こいつらも久方ぶりにお前に会って、少しばかりはしゃいでるだけさ。……それより少し静かにしてくれないか?今は日課である書道に集中したいんだ」

「ほーう?そいつは悪かったな。……ところでリュウガよー、俺の目がおかしくなっただけかもしれねーけど……オメーの握ってるそれフデじゃなくて、確かブンチンってやつじゃねーの?」

「む?……おお本当だ。なるほど、道理でいくら墨汁つけても上手く書けない訳だな」

「道理で、じゃねーだろ……普通そんな間違えあるか?一万歩譲ってあったとしても握ったときに気づけやこの天然ドジっ子が」

六鬼衆『夜叉』……《ソードマスター》の月代柳雅つきしろりゅうが

やはり名字からわかる通りアヤネと同じく親分達の子で、現在若頭を務めている月代組の次期組長だ。

妹のアヤネが姐さんの血を色濃く受け継いだのに対し、リュウガは親分の血が濃いようで黒髪かつ普通の耳だが、瞳の色だけは姐さんと同じで綺麗な緑色をしている。

そして似たのは外見だけでなく、親分譲りの剣技とカリスマ性を持つ。特に剣の腕はヤクザ者とは思えぬほど流麗にして優雅、繊細にして華麗な太刀筋を誇り、純粋な剣の技量なら母ちゃんにも引けを取らないほどの天才剣士だ。

さらにアヤネと違って姐さんの聡明さも受け継いでおり、まさしく月代組を引っ張っていくに相応しい器と言えよう。

……ただしこの男、ここぞというときの大切な場面ではちゃんとビシッと決めてくれるんだが、日常ではうっかりを乱発する重度の天然ドジっ子だったりする。けっこう洒落にならないドジもやらかすが、本人は一切動じないし気にしない。ある意味大物だが少しは省みてくれよ、300エリスあげるから。

「だいたいオメーらも指摘してやれや。親友と実妹なんだからよ」

「リュウガの天然っぷりをいちいち指摘してもキリ無いし、むしろこっちがノイローゼになっちゃうわよ……」

「ですわね。兄様のドジっ子属性は呪いのようなものですし……わたくしは15年ほど前に改善を諦めました、ええそうですとも」 

二人とも心なしか目が死んでやがる……こいつらリュウガとの付き合いの長さは俺とは比べ物にならないし、きっと俺など及びもつかないほど苦労させられたんだろうな……リュウガ本人はいたって真面目なのが余計にタチ悪い。

まあ幸いなことに何故か戦闘中やシリアスな場面では何故か全くやらかさないし、受け入れるしかないのかね……。

そんな風にげんなりしていると、マルチェロがパンパンと手を叩いた。

「さあさあ皆さんようやく揃ったことですし、雑談はそのくらいにしてそろそろ臨時六鬼集会を始めましょう。……ほら、ケティ殿。お土産のアルカン饅頭パクつきながら菜箸でひたすら豆を別の皿に移してないで」

「…………んー、あともう少し」

敢えて視界から外していた方向に目を向けると、饅頭の空箱と饅頭を片手に菜箸で豆を掴もうと悪戦苦闘しているケティの姿が。…………こいつの奇行は今に始まったことじゃないが、一つ気になる点が。

「……土産?誰かアルカンレティアにでも行ってたのか?」

「え、私だけど」

俺の疑問に答えたのは、今まさに饅頭を貪っているケティ。豆掴みに集中しているせいかこちらを見向きもしやがらない。

「……てことはその饅頭って、オメーから俺達への土産じゃねーの?」

「? そりゃそうでしょ。何当たり前のこと言ってんのよ?」

「じゃあなんでオメーが食ってんだよ……」

「小腹が空いたからに決まってるでしょバカなの?」

反射的に顔面目掛けて修羅滅砕拳を放つが、菜箸で掴まれて防がれる……やはりノールックで。

ああもうほんと憎たらしいほど強いなこのクソアマ……。

六鬼衆『羅刹』……《アークプリースト》のケティ。

俺と同時期に六鬼衆に加わった女だ。黒いメッシュの入った、透き通るような白い長髪が特徴的な、どこか幻想的な雰囲気と神聖さを感じさせる、見た目だけなら文句無しの美少女だが……性格はこの通りいい加減かつ適当極まりない。どこまでもゴーイングマイウェイなちゃらんぽらん女だ。

遅刻やドタキャンなどザラ、音信不通など日常茶飯事。奇行も日常茶飯事。基本人の話をあまり聞かない、聞いても都合の悪いことはすぐ忘れたり、良いように歪曲したりと、コミュニケーション能力にも著しい欠陥がある。今回こうしておとなしく招集に応じたのが奇跡的レベルの、まるでテキトーさが擬人化したかのような女だ。

そして他に注目すべき点は、名前と職以外ほぼ不明なことだ。経歴、出身、年齢、趣味、特技、価値観、拠点、何もかもが不明。探りをいれても秘密主義なのか、適当な受け答えで煙に巻かれる……というか普段の言動からして一貫性もへったくれもないしワケわからん。

良く言えばミステリアス、悪く言えば不審人物のこいつが何故六鬼衆に加わることを許されたかというと、何でも親分の昔の知り合いだということ……そしてその無茶苦茶なまでの圧倒的な強さからだ。

アークプリーストとしてもアクアに比肩するほど優秀なのだが、そんなものオマケ程度にしか思えないほどの、色んな意味で理不尽にも程がある強さをこいつは持っている。もう憎たらしいくらい強い。

その実力は間違いなく現『六鬼衆』最強だろう。悔しいが、俺が紅蓮の闘気クリムゾン・オーラを全開にして戦っても果たして勝てるかどうか……。


そして最後に六鬼衆『宿儺』……《アサシン》マルディーニ・チェン・ロドルファス、通称マルチェロ。

唯一初代六鬼衆からの古株であり、問題児揃いの現六鬼衆の良心だ。……どうでもいいけど、俺以外の常識人が元凄腕暗殺者だけってどうなんだよ?常識人枠が暗殺者であることが異常なのか、暗殺者が常識人枠に収まるしかない六鬼衆が異常なのか……まったく、周りが変人ばかりだと苦労するよな。




その後集会は滞りなく進み、カズマの裁判が行われるかどうか確定するまでまで暇なので、特訓もかねて六鬼衆恒例イベント『アクロバティック大相撲100番勝負』を行うことになった。

……前回はケティとリュウガに勝率で負けて三位だったが、今回こそ絶対トップを取ってやる。

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