第5話:パーティー変更!?

【sideカズマ】


俺が殺された数日後のこと。

「おい、もう一度言ってみろ」

煮えたぎるような怒りを不屈の意思で抑えつけながら、静かな声でぽつりと言った。

先日二度目の死を迎えた俺は、数日ほどの心身のリハビリを費やした末、そろそろ簡単な荷物持ち等のクエストでもと、ギルドの掲示板で探していたのだが……

「何度だって言ってやるよ。荷物持ちの仕事だと?それだけ上級職が揃ったパーティーにいながら、もう少しマシな仕事に挑戦できないのかよ?大方お前が足引っ張ってるんだろ? なあ、最弱職さんよ?」

言って、同じテーブルにいた他の仲間と笑い合う戦士風の男。

我慢だ。

俺は大人な対応ができる男だ。

普段のアクアの冷やかしに比べれば、こんな三下Aの挑発は取るに足りないものだ。

「まあお前が足を引っ張ってるとしても、情けねぇことには変わりねぇがな。……なあ『赤碧の魔闘士』さんよ?ケッ、ご大層な通り名で呼ばれてようが、所詮はガキってこと-うぎゃらばっっっ!?」 

「遺言はそれでいいんだな?ならもう安心して死ね」

「へぶぅっ!?……あがぁっ!?……やめ、……いやすいませんでしたマジで!ぐがっ!?……自分調子に乗ってました!」

矛先をみんちゃすに変えた途端即ぶちのめされるチンピラ。最弱職の俺が我慢したんだからお前もちょっとは耐えろよ……。

「みんちゃす式殺法その七・爪剥ぎ」

「ちょ、やめ、それマジで洒落になら-うぎゃぁあああああっ!?」 

「あー、みんちゃす。流石に不憫になってきたからその辺にしといてやれよ。アクア、可哀想だから回復してやれ」

俺は大人なので、ヤクザ魔法使いに生爪を剥がされたチンピラも助けてやる。

……この男の言う事も一理ある。

存在自体が反則なみんちゃすを抜きにしても、他三人も一応は上級職だ。もっと上手い立ち回りができれば、良い稼ぎも期待できるのかも知れない。それに俺が《冒険者》という最弱職に就いているのも事実だ。

……だが、アクアに回復してもらったチンピラは、みんちゃすが興味を無くし読書に耽り出したことを見届けてから、懲りずに俺に絡んできた。 

「……ったく。いい女を三人も、しかも全員上級職ときてやがる。どうせ『赤碧の魔闘士』様のおこぼれなんだろうが、さぞかし毎日このお姉ちゃん達相手に良い思いしてんだろうなぁ?」

それを受け、ギルド内に爆笑が巻き起こった。しかし以前の俺達の活躍を知る者の中には、注意しようとする奴もいた。

俺は思わず拳を握ったが、そんな人達がいてくれるだけで我慢できる。耐えられる。

我慢を続ける俺に、めぐみんやダクネス、アクアが止めに入った。

「カズマ、相手してはいけません。私なら、何を言われても気にしませんよ」

「そうだカズマ。酔っ払いの言う事など捨て置けばいい」

「そうよカズマ。あの男、私達を引き連れてるカズマに妬いてんのよ。私は全く気にしないからほっときなさいな」

言われなくてもわかってる。目の前の男は漫画なんかでよくいる、典型的な雑魚キャラだ。

「おいチンピラ、紅茶」

「はい只今!」

その証拠にボコられたみんちゃすには、完全に低姿勢になってるというプライドの低さ。こんな浅ましい奴をわざわざ相手する事なんか無いのだ。

「なんで紅茶注ぐ前にカップ温めてねーんだテメー。こんなもん初歩中の初歩だぞクズが」

あづぁぁあああっ!?」

歯を食い縛り何とか耐えようとした俺だったが、みんちゃすに頭から紅茶をぶっかけられ悶絶しつつも、男が言った最後の一言には耐えられなかった。

「っ……っ……上級職におんぶに抱っこで楽しやがって。苦労知らずで羨ましいぜ。おい、俺と代わってくれよ兄ちゃんよ?」


「大喜びで代わってやるよおおおおおおおおおおおおっ!!!」


俺は大声で絶叫していた。

冒険者ギルドの中が静まり返る。

「……えっ?」

俺に絡んでいた戦士風の男が頭の紅茶を拭いながら、思わずマヌケな声を出した。

「代わってやるよって言ったんだ!おいお前、さっきから黙って聞いてりゃ舐めた事ばっか抜かしやがって!ああそうだ、確かに俺は最弱職だ!それは認める。……だがなあ、お前!お前その後なんつった!」

「カ……、カズマ?」

おろおろするアクアが、怒り狂う俺におずおずと声を掛ける。そして、いきなり激怒した俺に若干引きながらも男が口早に言ってきた。

「そ、その後?その、いい女三人も連れてって……」

俺は思い切りテーブルに拳を叩きつけた。

その音にギルド内の皆がビクリとする。

「いい女!?おいお前、その顔にくっついてるのは目玉じゃなくて素敵なビー玉ですかー?どこにいい女が居るんだよ俺の濁った目玉じゃどこにも見当たらねぇよ!お前いいビー玉付けてんな俺の濁った目玉と取り替えてくれませんかねぇ!?」

「「「あ、あれっ?」」」

矢継ぎ早に捲し立てられる俺の言葉に三人が、それぞれ自分を指差しながら小さな声で呟いた。

「なあおい!教えてくれよ!いい女?どこだよ、どこに居るってんだよコラッ!テメーこの俺が羨ましいって言ったな!言ったよな!オイコラ?」

男の胸ぐらを掴みいきり立つ俺に、背後からおずおずと声が掛けられた。

「あ……あのう……」

恐る恐る右手を上げて、三人を代表するかの様なアクアの声。だが俺はそれを無視してなおも続ける。

「しかもその後なんつった?上級職におんぶに抱っこで楽しやがって!?百歩譲って強さだけは申し分ないみんちゃすにならともかく……この三人に?おんぶに抱っこ?挙げ句苦労知らずだぁ?ははは…………


ぶち殺されてぇのかテメェエエエエエエエエエ!!!ウォォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

ここぞとばかりに溜め込んだストレスを思いっきり叩きつける俺。最弱職と侮っていた相手の想像を絶する剣幕に気圧されたのか、アルコールを消し飛ばされたかのように狼狽えるチンピラ。

「……そ、その……。ご、ごめん……俺も酔ってた勢いで言い過ぎた……。で、でもあれだ!隣の芝生は青く見えるって言うがなあ!お前さんは確かに恵まれている境遇なんだよ! 代わってくれるって言ったな?なら、一日。一日だけ代わってくれよ冒険者さんよ?」

「……別に良いけど、みんちゃすに頼るのは無しな?あいつが本気になればグリフォンだろうがドラゴンだろうが一人でどうにかできてしまうから」

「ま、マジか……あいつそんなに強ぇのか……って良いのかよ!?おい、お前らもいいか!?」

俺に胸ぐらを掴まれたその男は、言って、テーブルの仲間達に確認を取る。

「お、俺は別にいいけどよお……。今日のクエストはゴブリン狩りだしな」

「あたしもいいよ?でもダスト。あんた、居心地が良いからもうこっちのパーティに帰ってこないとか言い出さないでよ?」

「俺も構わんぞ。ひよっ子一人増えたってゴブリンぐらいどうにでもなる。その代わり、良い土産話を期待してるぞ?」

絡んできた男と同じテーブルに居た仲間達は口々に言った。

「ねえカズマ。その、勝手に話が進んでるけど私達の意見は通らないの?」

「通らない。おい、俺の名はカズマ。今日一日って話だが、どうぞよろしく!」

「「「は、はあ……」」」

絡んできた男の三人の仲間は、若干戸惑い気味の返事を返した。

ちなみにみんちゃすは今回、どちらのパーティーにも入らず、一人で鍛練に勤しむそうだ。曰く、「リーダーをころころ変える趣味はーし、どこの馬の骨ともわからん輩の指示なんざ御免だ」とのこと。

……アイツにおんぶに抱っこすれば楽できるんだろうが、それをすると人としてどんどん堕ちていきそうなので、それは崖っぷちに立たされたときの最後の手段に取って置こう。






剣と盾を携え重い装甲鎧を着込んだ、みんちゃす曰くどこの馬の骨ともわからん輩が、俺を値踏みする様に眺め回しながら言ってきた。 

「俺はテイラー。片手剣が得物の《クルセイダー》だ。このパーティのリーダーみたいなもんは。成り行きとはいえ、今日一日は俺達のパーティメンバーになったんだ。リーダーの言う事はちゃんと聞いてもらうぞ」

「勿論だ。というか、フダンハ俺が指示する立場だったから、そっちに指示してもらえるってのは、楽だし新鮮でいい。よろしく頼むよ」

その俺の言葉に馬の骨改めテイラーが驚いた表情を浮かべた。

「何?てっきりリーダーは『赤碧の魔闘士』だとばかり……」

「いや俺だってそれがいいと思うんだが、みんちゃすはそういのガラじゃないって断られたんだよ」

「ってことは、あの上級職ばかりのパーティで、冒険者がリーダーやってたってのか?」

「そーだよ」

当たり前の様に頷く俺に、三人が絶句する。

青いマントに皮を羽織り、まだどこか幼さを残した女の子。

「あたしははリーン。見ての通りの《ウィザード》よ。魔法は中級魔法までは使えるわ。まあよろしくね、ゴブリンぐらい楽勝よ。あたしが守ってあげるわ、駆け出し君!」

その子が、俺を年下の後輩みたいに扱いながらにこりと笑った。 

多分俺の方が年上だと思うのだが、確かに本職の魔法使いなら心強い(流石にみんちゃすに比べれば頼りないが、はたしてアレを魔法使いのカテゴリに加えていいものか……)。ぜひとも頼りにさせてもらおう。

「俺はキース。《アーチャー》だ。狙撃には自信がある。ま、よろしく頼むぜ?」

言いながら笑いかける、弓を背負った軽薄そうな男。俺に絡んできたチンピラ程じゃないが、こいつも結構小物臭がするが、アクアじゃあるまいし余計なことを言って空気を悪くするのはよしておこう。

「じゃあ、改めてよろしく。名はカズマ。クラスは冒険者。……えっと、俺も得意な事とか言った方がいい?」

「いや、別にいい。というか、荷物持ちな仕事を探していたんだろう?カズマは俺達の荷物持ちでもやってくれ。ゴブリン討伐くらい三人でもどうとでもなる。心配するな、ちゃんとクエスト報酬は四等分してやるよ」

テイラーがからかう様に言ってくるが、そんな事はどうでもいい。

上級職におんぶにだっこで楽しやがってと言われたが……荷物持ちだけで報酬貰えるとか、こっちこそ楽過ぎるだろ。

まあこいつらが言い出した事なので、遠慮なく甘えさせてもらおう。

……と、その時。クエストが張り出してある掲示板の方から聞き慣れた声がした。

「ええー。ゴブリン退治ー?なんで街の近くにそんなのが湧いてるの?もうちょっとこう、ドカンと稼げる大物にしない?一日とはいえ他所にレンタルされるカズマやサボってるみんちゃすに、私達が日頃どれだけ有り難い存在かを見せ付けないといけないの」

俺に絡んだ男に、アクアが難癖付けているらしい。

「い、いや、あんたらが実力があるのは分かるが俺の実力が追いつかねえよ。アークプリーストにアークウィザードにクルセイダー。これだけ揃ってればどんな相手でも楽勝だろうけどよ、まあ今回は無難な所で頼むよ。……ところであんた、武器も鎧も持っていないが、まさかその格好で行く気なのか?」

「大丈夫だ。硬さには自信があるし、武器を持っていてもどうせ当たらん」

「当たらん……?いやその……、……?ま、まあいいか……」

ダクネスとそんなやり取りをしているあいつは、今回は無難なところでとか言っているが、次も組むつもりなのか。


まあ俺はちっとも構わないがな、うん。


そんな向こうの様子をちょっと気にしながら、テイラーが立ち上がった。

「本来、冬のこの時期は仕事はしないんだがな。ゴブリンの討伐なんて、美味しい仕事が転がってきた。という訳で、今日は山道に住み着いたゴブリンの討伐だ。今から出れば深夜には帰れるだろう。それじゃ新入り、早速行こうか」


こうして俺は異世界に転生してようやく、真っ当な冒険譚の一ページを刻む機会を得たのである。








【sideみんちゃす】


「さてと、それじゃ今日はどうすっかな……」

せっかくのオフだ、いつも通りの自己鍛練じゃ味気ないよな……お、いいこと思いついた。

俺はローブの中をまさぐり、透き通るような白い刀を取り出す。そう、ご存じ冬将軍から強奪した『雪月華』だ。センスの欠片も無い銘だが性能と見た目の格好良さは申し分ない。『ちゅーれんぽーと』は俺の魂、俺が『敵』と認めた相手じゃけりゃ抜きたくないし、サブウエポンにはお誂え向けだ。今の内に試し切りでもして慣れておくか。 

「……それにしても、」

掲示板の方で問題児共とどのクエストを受けるか話し合っているチンピラを一瞥しながら、ある疑問を思わず口にする。


「なんであのライン=シェーカーが、こんな駆け出しの街で腐ってやがるんだ?」

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