第4話:雪原からの帰還
【side:カズマ】
「あ、やっと見つけたぞみんちゃす。いったいどこに-って何だその怪我!?」
「全身ボロボロじゃないですか!いったい何があったんですか!?」
先に帰っていろと言われたが、何か嫌な予感がするというめぐみんの言葉が妙に引っ掛かり、引き返して雪原を捜索すること小一時間、ようやく見つけたみんちゃすは全身血塗れのTHE・満身創痍といった状態であった。
顔色は病人のように蒼白で呼吸も乱れていて、いつも身に付けている魔法使いのローブはズタズタに切り裂かれ、露出した肌も血が滲んでいてこの上なく痛々しい。そして右腕は(ベルディアの時ほどではないが)特にズタボロになっていることから、また五光神滅覇を使ったようだ。
魔王軍幹部とすら互角に渡り合っていたこいつを、ここまで追い込むような敵と言えば……
「……なあみんちゃす。お前もしかして、俺達と別れてから冬将軍に挑みに行ったのか?」
「なっ……いくらお前でも危険過ぎる!なんでそんな無茶を……!?」
アクアが回復魔法で傷を癒すなか、俺はそうだと確信しながらもみんちゃすに問い質す。狼狽するダクネスを一瞥してから、みんちゃすはおもむろにローブの中をまさぐり、
「生き返ったとは言え仲間がやられたんだ、落とし前つけさせなきゃならねーだろ」
そう言いつつ見覚えのある白い刀を取り出した。忘れようもない、俺の胴体と首を泣き別れさせた冬将軍の刀だ。
「た、倒したのですか!?冬将軍を!?」
「……いや、残念だが取り逃がした。死に際に覚醒した俺は冬将軍を追い詰め、切り札である五光神滅覇を放ったが、すんでのところで急所を外され腕を消し飛ばすだけに留まり、冬将軍は何故か突然煙のように消えた。冒険者カードを確認したが、仕留めたわけじゃねーみてーだ。……正直俺も限界だったし、あのまま居座られてたら確実に死んでたな俺」
「そんなシリアスなことをさらりと言わないでください!?どこまで暢気なんですかあなたは!」
「それが俺のアイデンティティ」
「やかましい!あまり人のことを言える立場ではないのは承知しているが、あまり無茶して心配をかけないでくれ!」
「ホントに言える立場じゃねーなオメーは」
めぐみんやダクネスの追求を面倒そうに捌くみんちゃすを見ながら、ふと俺はちょっとした疑問を抱く。
街の人達からヤクザ魔法使いとか揶揄されてるけど、落とし前とか言動までそれっぽいよなこいつ……まさかガチで仁義の道の人なのか?
……いやいやないないない、仮にもファンタジー世界でヤクザってお前……。
……まあヤクザだろうがマフィアだろうが、こいつが誰よりも仲間想いってことに変わりはないか。
街へと帰って来た俺達は、そのまま報酬を貰う為ギルドへ向かう。
「しかし、合計で26匹。260万か……。稼ぎはデカイが、死んだのが割に合わないな。あの冬将軍ってのは特別指定モンスターとか言っていたな。あいつにはどれだけの賞金掛かってるんだ?ダクネスの剣が一撃で折られたりみんちゃすがズタボロにされたり……尋常じゃない耐久以外は、三億の賞金掛けられてたベルディアよりも強いんじゃないか?」
「冬将軍は雪精にさえ手を出さなければ、あちらからは何もして来ないモンスターですからね。それでも二億エリスほど掛かっていたはずですよ。魔王軍の幹部で明確な人類の敵だったベルディアは、その危険度から賞金が高かったのですが……冬将軍の場合、本来はあまり攻撃的でないモンスターなのに二億もの賞金が掛かっています。この破格の賞金は、それだけ冬将軍が強いって事ですよ」
めぐみんの説明に、俺は思わず黙り込む。
……二億。
それだけあれば借金返しても、しばらく遊んで暮らせてしまう。
「……めぐみん、あいつを爆裂-」
「爆裂魔法では冬将軍は倒せませんよ。見た目は人型ですが、あれは精霊ですから。精霊は本来、魔法的要素が強い存在です。最上級クラスの精霊ともなれば、そりゃあもう魔法抵抗力も凄い物です。爆裂魔法ならどんな存在にもダメージは与える事はできますが、一撃で仕留めるのは難しいでしょうね。……と言うか、あんな怖いの相手に爆裂魔法撃ちたくないです」
「というかアイツの居合いの速さを考えると、撃つ前に確実にバッサリいかれるよなー……多分俺も、次戦って勝つのはまだ厳しいな。俺が互角以上に闘えたのも向こうが動揺していた隙を上手くつけたってのもあるし、精霊には知能があるから俺の新しい力の欠点である、長時間戦えないことを学習してるだろーな」
ダメか。ガクリと落ち込む俺を見て、アクアが得意気に笑みを浮かべた。
「ふふん、カズマ。なんか落ち込んでるみたいだけど、この私はただ土下座してた訳じゃあないわよ。さあ、これを見なさいな!」
言いながら、アクアが服の中から出したのは小さな瓶。
中には、雪精が入っている。
どうやらあの時雪精を全て開放したのではなく、一匹だけ残しておいたらしい。
「おっ!でかしたアクア、よし、そいつ貸せ!討伐してやる」
珍しく機転の利いたアクアを褒めながら、俺は瓶を取り上げようとした。
「なっ!?だ、ダメよっ!この子は持って帰って家の冷蔵庫にするの!夏場でもキンキンに冷えたネロイドが飲める様に……、いやよ、この子はいやあああ!もう名前だって付けてるのに殺させるもんですか!やめて、やめてー!!」
雪精の入った小瓶をお腹に抱き抱え、うずくまって予想外に激しい抵抗を見せるアクア。
くそ、倒せば一匹十万という、高額な報酬を貰えるモンスターだが……
今日はアクアに生き返らせてもらった事だ。勿体無いが見逃してやるか。
「名前と言えば……」
みんちゃすが、若干不機嫌そうに冬将軍の白い刀……『雪月華』を取り出した。首切られたのを思い出させるから、できればしまっておいて欲しいんだが……。
「精霊結晶で作られた希少な武器だってのに……せっかく格好良い名前を付けてやろうと思ったが、既に銘が刻まれてるとはなー……しかも何だよこの名前?『雪月華』?ダセーよ。所詮モンスターだな、センスの欠片もねーよ」
みんちゃすの愚痴に、めぐみんも同意するように頷く。……もし『雪月華』に意思があったら、変な名前付けられずに済んでほっとしてるだろうな。
「……ちなみに以前手に入れたベルディアの剣には、なんて名前を付けたんだ?まだ銘は刻まれてなかったって言ってたが」
「あー?『ぺむぱむちょ』だが?」
ベルディアは草葉の陰で泣いてるだろうな。
ギルドで精算を済ませ、借金から天引きされた報酬をそれぞれで分配する。少し早いが今日の稼ぎはそこそこ良かった事も考え、宿で部屋を借りて早めに体を休める事に。生き返ったばかりなので、あまり無理はしたくない。
みんちゃすは新しく目覚めた力とやらの鍛練にいくとか言っていたが、説教付きでめぐみんに止められ、安静にしているか監視のために強制的に俺達の借りた宿まで連行されることに。あまりの剣幕にたじろいでいたみんちゃすはかなり新鮮だった。紅魔族ってのは中2病だけじゃなく、仲間想いもデフォルトなのか?
しかし……一日にしてはいい稼ぎなのだろうが、借金の額を考えると焼け石に水だ。
先の見通しが暗い現実に、俺は思わず現実逃避気味に先ほど出合ったエリスの事を思い出す。
見た目は清楚な美少女。そして何より中身だ。
俺が死んだ事をあんなにも寂しそうな表情を浮かべて悲しみ、特例で生き返れるとなったら、内緒ですよと言いながらも優しく微笑んでくれた女神様。
この世界に来て出会う女性が
エリスの顔を思い出しているだけで、あっという間に宿の前に到着した。
「ふふっ、この子は大事に育てて、夏になったら氷を一杯作ってもらうのよ。そして、この子と一緒にかき氷屋を出すの!夏場の寝苦しい夜には一緒に寝て……ねえ、この子って何食べるのか知らない?」
「雪精の食べ物なんてちょっと分からないですね? そもそも精霊って何かを食べるんでしょうか」
「食うわけねーだろ。そもそも生き物のカテゴリに入れていいかすら微妙な存在なんだからよー」
「……ふわふわしてて、柔らかそうで、砂糖かけて口に入れたら美味そうだな……」
俺の後ろでは四人が、そんな色気の無い会話をしている。男であるみんちゃすはともかく……
宿のドアの前に立つと、振り返って三つの訳有り物件を見回す。そんな俺を捨て置き、みんちゃすはさっさとドアを開けて中に入っていった。
もう一度、エリス様の姿を思い出し。
そして、改めて三人の顔をじっと見る。
「「「……?」」」
そんな俺の行動に、キョトンとした表情を浮かべ、三人は俺を見返し黙り込む。
「……ハァ……」
「「「あっ!!」」」
俺の吐いた深いため息を見て、ぎゃあぎゃあと騒ぎ出した三人の声を聞きながら、俺はみんちゃすに続いて宿のドアを開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます