第10話:ノーライフキング②

【sideカズマ】


赤碧の魔闘士様が唐突にトチ狂ったことを言い出したなう。

「オイみんちゃす、いきなり何バカなこと言ってんだよ?お前だけはまだまともだと思ってたのさ、俺の勘違いだったのか?」

「まあ黙って俺の話を聞け。……ウィズ、この件に関してはアンタの代わりにウチのプリーストが定期的に浄化に行けば、それで全て解決する」

「ちょっとみんちゃす!なんで私が-」

「オメーさっき、そんな善行はアークプリーストの自分がやるからリッチーは引っ込んでろっつってたじゃねーか」

「うぐっ……!」

余計な労働を押し付けられそうになったアクアはみんちゃすに抗議するが、一瞬で論破されて黙り込む。

ふむ、確かにアクアはプリーストとしての能力は優秀だから、適材適所かもな……それがどうしてみんちゃすと戦うことに繋がるんだ?

「しかしだウィズ、アクアにだってプライドのプの字くらいあるんだよなー。……なあアクア、アークプリーストがアンデットの頼みを無条件で引き受けるなんて、普通に考えてありえねーよな?」

みんちゃすに振られたアクアは、これでもかと言うくらいオーバーに頷いて同意する。みんちゃすはそわなアクアの反応に満足そうに頷くと、

「そこで、だ……アンタも元とはいえ冒険者なら冒険者らしく、望みは己の力を以て勝ち取るんだな。俺と勝負して勝ったらアクアに定期的に浄化に行かせる。こいつが渋ろうが適当に酒でも奢れば安請け合いするだろうし」

みんちゃすは知らないとは言え、仮にも神に対してあまりにも冒涜的なみんちゃすの言い分。しかし当のアクアは「酒」という単語に反応して目を輝かせてる。こいつ、アクアの扱いがやたらと上手いな……。

「言うまでもなくアンタに不利な勝負になる。こっちはアンタを殺そうが、アンタは分類上モンスターだからなんの問題も無いが、俺を殺せばアンタは正真正銘、凶悪なモンスターでしかなくなっちまう。そうなればアクアにアンタを浄化させない理由が無くなる。つまりアンタは必然的に殺傷力のある呪文全般が使えねーってわけだ。ただの人間とリッチーの勝負のハンデとしてはちょうど良いかもしれんが、それでも不平等な戦いではあるなー……で、どうする?俺の挑戦、受けるか?」

みんちゃすが挑戦的な笑みを浮かべ返答を待つ中、ウィズはしばらく悩んだのち、覚悟を決めた表情になる。

「……わかりました。その挑戦、引き受けましょう」

「フハッ、そうこなくちゃ。至高のアンデットとやらの力、お手並み拝見だなー」




「みんちゃす、頑張んなさいよー!私の沽券がかかってるだからねー!」

「リッチーとの戦いか、羨ましい……至高のアンデットとはいったい相手にどんな攻め苦を与えるのか、想像するだけでもう……!」

「ゾンビメーカー討伐の楽なクエストの筈が、どうしてこんなことになったんだ?」

「仕方ありませんよ。みんちゃすは筋金入りの戦闘狂バトルジャンキーですから、リッチーと戦う機会なんて、彼が逃す訳がありません」

俺達四人は邪魔にならないように、少し離れた場所で二人の戦いを見物することに。俺達の目線の先では、激しい戦いになることを危惧して、必要な装備だけ身に付けた二人が向かい合っている。

口ではああ言ったが、リッチーなんて超大物にみんちゃすがどう立ち回るのか、内心ワクワクしているのは内緒だ。

「『パワード』、『プロテクション』、『マジックゲイン』、『マジックガード』、『ラピッドリィ』!……それじゃあ行くぜ!悪鬼羅刹掌!」

「っ!」

強化魔法とやらで魔法力やただでさえ高い身体能力をさらに底上げし、みんちゃすは目にも止まらぬスピードでウィズの懐に飛び込み、無防備な腹に渾身の掌をぶち込んだ。

「っ……続いていくぜ!修羅滅砕拳!鳳凰剛健脚!仁王空裂絶刀!もっかい悪鬼羅刹掌!」

「うぐっ…!…っ……!」

さらにみんちゃすは高速で動き回り、ウィズの前後左右から次々と拳や蹴りや手刀を浴びせる。端から見たら完全に暴漢だな……。

「……羨ましい」

こんなときでも変態ダクネス変態ダクネスだし……。

と、少し気になったことがあったので、知ってそうなめぐみんに聞く。

「なあめぐみん、あの修羅滅砕拳とか悪鬼羅刹掌ってのは、みんちゃすの魔法なのか?」

「違いますよ?みんちゃすは意外とマメな人ですから、格闘技の一つ一つにも必殺技をつけているのです」

やはりアイツも紅魔族だったらしい。たかが殴る蹴るにご大層な技名つけやがって……。

「言っておきますが魔法で強化したみんちゃすの格闘技は、大半のモンスターを一撃で沈められる文字通り必殺技ですよ?少なくともカズマが喰らえば即死でしょうね」

全然名前負けしてなかった。言われてみれば一発一発の衝撃音が明らかにデカ過ぎる。……というかアイツはそんな物騒な攻撃を躊躇なく喰らわせてんのかよ!?

このままじゃ本当にウィズが死ぬかもしれないし、これ止めた方が良いんじゃ……?

「……しかし相手はリッチーですので、物理的な攻撃は効きません。魔法で強化したみんちゃすの馬鹿力なら申し訳程度のダメージが入るようですが、それでも有効打には程遠いでしょう。それにいくらみんちゃすが相手でも、あのリッチーがただ一方的にやられっぱなしとはとても……」

めぐみんの言葉通り、攻撃を喰らいまくっていたウィズが平然としている中、一方的に攻めていた筈のみんちゃすが片膝をついた。おまけに一回も攻撃されてないというのに、何故か口から血が出ている。

「チィ……リッチーが様々な状態異常を操るのは知ってはいたが、まさか攻撃の合間にジワジワ仕込まれるとはな……!」

「口から血が……!?もしかして、『昏睡』を無理矢理振り払うために自分で口の中を!?」

今の会話やウィズの慌てようからすると、あの口のケガはみんちゃす自身で負ったらしい。

「……どうやらウィズは攻撃を受けつつも、接触のたび『眠り』の状態異常を蓄積させていたようです。あの口のケガは『昏睡』を強引に解除するべく、みんちゃすが唇か歯茎を無理矢理噛み千切ったのでしょう」

そんな攻防が水面下で行われていたとは。……ヤバい、俺は異世界に来た甲斐があるって初めて思う。

これだよ!こういうのを求めてたんだよ!間違ってもカエルとかキャベツじゃなくて!

「物理攻撃がどの程度通じるか小手調べのつもりだったが、それでやられかけてちゃ世話ねーな……ここからは魔法攻撃主体でいくぞ!『フレイム・ウエポン』!からの修羅滅砕拳・業火!」

「『ファイヤー・レジスト』!」

みんちゃすの繰り出した燃え盛る正拳突きを、ウィズは名前からして耐火魔法らしき魔法でガードする。

「『スタン・ウエポン』!大般若鬼哭爪・雷撃!」

「『サンダー・レジスト』!」

「くっ……『エアロ・ウエポン』!悪鬼羅刹掌・烈風!」

「『ウインド・レジスト』!」

みんちゃすも負けじと雷や風を纏わせて攻撃するが、それぞれの属性に対応した防御魔法で的確に防がれてしまう。

「『フリーズ・バインド』!」

「うおぉっ!?…『プロミネンス』!」

突然氷漬けにされたみんちゃすだが、全身から炎を放出して瞬時に氷解させる。

「『ボトムレス・スワンプ』!」

あぶねっ!?『エア・ウォーク』!」

続いてウィズはみんちゃすの周囲を沼地に変えるが、みんちゃすは足が沈み込む前に空を飛んでそれを回避する。

みんちゃすもウィズの迎撃をどうにか捌いてるが、端からみてもいっぱいいっぱいなのがわかる。

その後も両者は魔法をぶつけ合うが、戦況はウィズ有利のまま一向に逆転しない。どうやら実力は一枚も二枚もウィズが上手うわてのようだ。

「……マズいですね。このままだと間違いなく、みんちゃすの魔力が先に尽きてしまいます。……それがウィズの狙いなんでしょうが」

いくらみんちゃすが高レベルのアークウィザードとは言え、人間とリッチーでは魔力の絶対量が違うだろう。このまま拮抗状態が続けば先にへばるのは間違いなくみんちゃすの方だ。

状態異常で無力化しようとすると自傷してでも抵抗するので、どうやらウィズはみんちゃすが魔力を使い果たすまで耐えることにしたらしい。


「ふはっ……ははははははは!やるじゃねーかウィズ!どれだけ攻めてもまるで通用しねー!一方コッチハアンタの攻撃を凌ぐので精一杯と来た!ここまで圧倒されたのは母ちゃんや親分以来だ!……ハナからわかっちゃいたが、アンタならこいつを抜いても良さそうだな!」


突然みんちゃすは楽しそうに笑い出したかと思えば、おもむろにウィズから距離を取り、懐から例の鮮やかな赤い刀身の長ドスを取り出して構えを取る。それを見たウィズが、何やら目を見開いて驚愕する。

「その鮮やかな赤の金属……まさか、幻の金属ヒヒイロカネ!?」

「御名答。流石はリッチー、博識なことで。こいつに使われている金属を知っているなら、どういう芸当が可能かもわかるよな?……『フレイム・ウエポン』!」

長ドスの刀身が真っ赤に燃える。それも先程拳に纏わせていたものとは比較にもならない、離れた俺達まで火傷しそうな程の勢いだ。

「ヒヒイロカネは炎エレメントの燃焼を桁外れに促進する。俺は上級魔法を習得してねーが、こいつを媒介にして斬撃を放てば、最高位の炎魔法にも匹敵する。それに加えて俺の剣技があれば、上級魔法なんざ軽く凌駕するぜ。……喰らえ、火焔竜演舞!」

「っ、それはティアマットさんの!?」

剣に灼熱を纏わせたまま、みんちゃすは一瞬で斬撃を四度も繰り出した。四つの斬撃の炎は互いに結び付き、一つの巨大な業火となってウィズへと襲いかかる。……みんちゃすの奴、完全に殺しにかかってないかこれ!?

「『ファイヤー・レジスト』!…あぁぁあぁあああ!?」

ウィズは再び耐火魔法を唱えつつ斬撃の炎を両手で受け止めるが、荒れ狂う業火はリッチーの魔法防御をもたやすく貫き、たまらずウィズが悲鳴を上げる。炎の勢いが収まった頃には、ウィズの両腕は火傷でかなり黒ずんでいた。

い、痛そう……。

「う、うぅ……」

「……っ、まさかこの技を喰らって、その程度の火傷で済むとはな。こっちは灰も残さねーつもりでやったってのに」

涙目のウィズを見ながら、みんちゃすは苦虫を噛み潰したような表情で悔しがる。……いやお前、こんな善良な人……人じゃないけど……こんな善良なリッチーにそんな技ぶち当てるとか、鬼か悪魔か?

「……もう俺の魔力も残り少ねー。アンタの狙いはもうわかってる、俺の魔力を切らすことで無力化しようとしてんだろ?……喜びな、おそらく次が俺のラストアタックだ」

みんちゃすは再び長ドスを構え、

「『フレイム・ウエポン』」

再び業火を纏わせた。よ、容赦ねぇなこいつ……止めてやりたいのは山々だが、今のみんちゃすは横槍を入れようものならそいつごと葬りそうな気迫を放っているので、俺達が割って入ってもあまり意味無いよなぁ……まあさっきのダメージを見る限り、火傷は酷くなるだろうが死にはしないだろ-

「並びに……『ウインド・ウエポン』!」

「えぇっ!?エレメントの合成!?」

ウィズが驚いているが、俺も内心ビックリしている。まだ上があんの!?つーか属性付与って重ねがけアリなのかよ!?

どうやら風属性のエンチャントには相当な量の魔力が注ぎ込まれたらしく、ヒヒイロカネとやらで増大した炎と同規模の風のエレメントが剣を覆う。やがて風と炎は混ざり合い、そのまま膨張するかと思いきや逆に収縮していき…


どこかで見たことのある光となって、そのまま剣に纏わりついた。


「あ……あれは……!」

俺の隣で、焦りと興奮と少しの喜びが入り混じった複雑な表情で驚愕しているめぐみんを見て、俺はあの光の既視感を理解した。あの光は多少淡いものの、爆裂魔法の光によく似ていた。

「いくぞウィズ!死にたくなきゃ死ぬ気で耐えろよ!」

「えぇっ!?ちょっ、待っ……」

慌てるウィズをよそに、みんちゃすはドスを構えたまま、もの凄いスピードでウィズとの間合いを詰め、


「奥義……紅魔爆焔覇!」


ウィズに向かってドスを振り下ろした。

「ら、『ライト・オブ・セイバー』!」

ウィズの唱えた魔法で両手が白く輝き、みんちゃすのドスを白羽取りしようと刃に触れたその瞬間、


共同墓地を大きな爆発が襲った。


「うおわぁっ!?」

「ぎゃぁああ!?」

「……ッ!この威力、爆発魔法に匹敵する……流石ですね、それでこそ我がライバルに相応しいでしょう!」

「……羨ましい」

吹き荒れる爆風は離れた俺達にまで届き、低ステータスの俺や完全に油断していたらしいアクアは無様に転がされる。馬鹿なこと言っている変態はいつものこととして、めぐみんはというとやはり複雑な表情のまま、この光景を一瞬たりとも見逃してなるものかと言わんばかりに、舞い上がる煙で見えなくなっているみんちゃす達の方向を食い入るように凝視している。

……それにしてもなんて威力だ。流石にめぐみんの爆裂魔法には及ばないとはいえ、こんなとんでも火力を人(?)に向けて平然とぶっ放すとか……やっぱりみんちゃすもアクア達と同レベルの問題児だったようだ。

やがて煙が張れると、


「あ、あぅぅ……」


衣服の大半が焼け焦げ、全身至るところ火傷だらけになり、綺麗さっぱり両腕が消し飛んだ、おそらく激痛で涙目になっているウィズと、


「ぐっ……俺の……負けだ……!」


その場にうつ伏せで倒れ伏したみんちゃすが姿を表した。おそらくは爆裂魔法を撃った後のめぐみんの様に、限界を越えて魔力を注ぎ込んだ代償だろう。

それにしても……どうしよう、年上の美人がほぼ全裸になってるのに、全然色っぽくない。 

しばらくすると吹き飛んだ両腕も再生し、火傷もほとんど完治していた。リッチーぱねぇ……その際にいかがわしい目を向けてしまい、ウィズはノーパンノーブラでロープにくるまって涙目でその場を後にした(アクアとめぐみんに白い目を、ダクネスに興奮した目を向けられたのは言うまでもない)。






「お前といいめぐみんといい、紅魔族ってのは限度っつーもんを知らないのか!?」

「いやいやそれがさー、俺も最初は軽い手合わせのつもりだったんだがよー……『氷の魔女』クラスの強敵と戦う機会なんて早々無いわけじゃん?それで戦ってる内に何か楽しくなってきて……最終的にああなった。まあ仕方ねーな」

「仕方なくねーよ!?」

現在、力を使い果たしたみんちゃすは俺が背負い、メンバーを引き連れて墓場から帰る途中である。……というかこいつも爆心地の中心にいた筈なのに、なんでこいつは無傷なんだ?

「……墓場の浄化は引き受けた訳だけど、あのリッチーを見逃すのはやっぱり納得いかないわ」

アクアは未だにむくれていた。時刻はすでに空が白みがかってくる時間帯。

「しょうがないだろ。つか、あんな善良な人を退治する気にはなれないし」

ウィズがみんちゃすに勝利したことで、これからは毎日暇を持て余しているアクアが、定期的にあの墓場に浄化に行くと言う事で折り合いがついた。最初は少々ごねていたが、みんちゃすが高い酒を奢ることで丸く収めた。

モンスターを見逃すという事に若干抵抗があっためぐみんとダクネスも、「先程の戦いで少なくとも25回、ウィズが自分を殺すチャンスははあった」というみんちゃすの言葉に納得し、ウィズを見逃す事に同意してくれた。……というかみんちゃす、そんなヤベー相手と戦ってたのにあんな楽しそうだったのか?

俺は、一枚の紙切れを眺めながら呟く。

「それにしても……リッチーが街で普通に生活してるとか、街の警備はどうなってんだ」

一枚の紙切れ。

それはウィズの住んでいる住所が書かれた紙。あのリッチーは俺達が住む街で普通に生活しているらしい。というか、小さなマジックアイテムの店を営んで普通に人として生活しているそうな。リッチーってダンジョンの奥深くに居るイメージがあったんだがと言ったら、生活が不便なダンジョンに、わざわざ住む必要性がありませんよと言われた。

いや、リッチーだって元は人間なんだから言ってる意味はわかる。わかるんだが、この世界に来てから俺の持っていた異世界観がどんどん破壊されていってる気がする。

こんなの、俺が期待してた異世界じゃない。

「それはそうとみんちゃす!」

「……あー?」

めぐみんに詰め寄られ、俺の背でグッタリしているみんちゃすがダルそうに呻く。

「あなたの奥義、紅魔爆焔覇ですが……我が名において禁術に指定します!」

「……いきなり何言い出すかと思えば、人の最大火力の技を何勝手に禁止してんだよ?」

「だって明らかに私とカブッてるじゃないですか!威力は我が爆裂魔法に及ばないとはいえ、その分周りへの被害も少なく使いやすそうですし……ただでさえ反則染みた強さのみんちゃすにあんなの使われたら、いよいよ私いらない子扱いになるじゃないですか!」

「凄く個人的な理由をどーも……わかったわかった、わかったから泣くんじゃねーよ」

お払い箱にされそうになる恐怖で今にも泣きそうなめぐみんに、みんちゃすは溜め息を吐きながらその要求を受理した。……なんだかんだ言って、めぐみんにはやたら甘いよなこいつ。

「つーかよ、心配しなくても紅魔爆焔覇を使う機会なんざめったにーよ。俺は強者と認めた相手にしか『ちゅーれんぽーと』は抜かねーと決めてるからな」

俺に背負われつつ懐からドスを取り出し、そんなことを……今なんて?

「え?何その、ちゅーれん……?」

「あー?『ちゅーれんぽーと』、こいつの銘だよ。確かドスっつって、カタナっていういう種類の剣の一つらしい」

「そのドスそんな変な名前だったのか!?」

「……あーあ、これだからセンスの無い奴は嫌になるぜ。なあめぐみん?」

「まったくです。どうしてこの素晴らしいネーミングがわからないのですか?理解に苦しみます」

俺を小馬鹿にしつつ頷き合うチビッ子コンビ。……イラッとするんですけど。

「おいみんちゃす、あまり俺を怒らせるなよ。普段ならともかく、今の動けないお前ならこの場に放置して帰宅しても-」

「この状態でもオメーの首の骨をへし折るくらいなら余裕だぞー?」

「今のは無かったことに」

「懸命だなー」

首筋にかかる負荷の強さに臆して俺は矛を収める。お前もう魔法使いやめちまえ。

……ん?柄の部分に何か文字が彫って-


『九蓮宝燈』


……『ちゅーれんぽーと』じゃなくて『九蓮宝燈チューレンポウトウ』じゃねぇか!?

「それにしてもみんちゃす……ヒヒイロカネで精製された武器なんてよく手に入りましたね?ヒヒイロカネは伝聞によると燃焼を促進させる性質や極めて熱に強い性質、そしてアダマンタイトよりも固い硬度があるため、武器として加工することが不可能とまで言われていたそうです。ただでさえヒヒイロカネ自体が幻の金属だと言うのに、ましてやそれを加工した武器なんて、数億エリスは下りませんよ?」

え、マジで?『ちゅーれんぽーと』ってそんな凄い武器だったの?……と思ったがあんなトンデモ火力攻撃ができる武器が、二束三文の訳ないか。

「………こいつはある人に造ってもらったものでな、武器というより俺の魂そのものと言ってもいい。有象無象の雑魚には触れさせたくもねーし、こいつを抜いたからには是が非でも勝利を掴みたいと思ってる。だからこそ俺は今、負けたことが死ぬほど悔しい……!たとえ勝ち目が無い戦いであったとしてもな……!あんだけハンデ貰ってこの体たらくとか、情けなすぎて自分が許せねー……!」

俺に背負われたみんちゃすは歯を食いしばり肩を震わせる。どうやら全身全霊で悔しがっているようだ。その口ぶりから、どうやらこいつは自身とウィズの力量差を理解して、なお挑んでいたらしい。

「……そして同時に嬉しくもある。最強への道はまだまだ遠く険しい……だが、だからこそ目指す価値がある!それを再認識できただけでも、今回の戦いには価値があった」

その理由がこれ。察するにこいつはガチで世界最強とやらを目指しているらしい。俺の隣で顔を輝かせて頷いているめぐみんも、おそらくそうだ。いずれ安定した収入を得て退廃的な暮らしを送りたいと考えてる俺とは、生涯わかり合えない価値観だろう。

それにしても……既に理不尽なほど強いみんちゃすを相手に、ウィズは力を抑えた状態で勝利したと考えると、軽く失禁しそうになる。

なんせアンデッドモンスターの元締めみたいなもんだしな。

リッチーのスキルを教えてくれるって言われたから喜んで名刺を貰ったが……スキルを習いに行く時は一応必ずアクアを連れて行こう。

「カズマ、その貰った名刺渡しなさいよ。ちょっとあの女より先に家に行って、家の周りに神聖な結界張って涙目にしてくるから」

「や、やめてやれよ……」

やっぱりアクアは連れて行かない方がいいかもな……。俺がそんな事を考えていると、ダクネスがぽつりと言った。

「…………そういえば、結局ゾンビメーカー討伐のクエストはどうなるんだ?」

「「「「……あっ」」」」


クエスト失敗。


………後日めぐみんに共同墓地近辺の住民から、爆発騒ぎに関する大量の苦情が押し寄せた。原因は勿論みんちゃすの紅魔爆焔覇なのだが、この町では「爆発音=めぐみん」が共通認識のようだ。

その後みんちゃすはめぐみんに涙目で掴みかかられていたが、流石にみんちゃすにも罪悪感があったのか、抵抗せずされるがままひたすら平謝りしていた。結局めぐみんの言うことをなんでも一つ聞くという条件で許してもらったそうだ。



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