第11話:引っ越してきた魔王軍幹部

【sideカズマ】


「知ってるか?なんでも魔王軍の幹部の一人が、この街からちょっと離れた丘にある古城を乗っ取ったらしいぜ」

ギルドに併設された酒場の一角。

俺は昼間から酒を飲んでだべっている、相席している男の話を聞いていた。

俺はと言えば酒ではなく、男と向かい合いながらネロイドのシャワシャワを飲んでいる。

ネロイドとは何か。

シャワシャワとは何なのか。

みんちゃす曰く「酒飲めねーくせにイキりたい奴が飲むチンケな飲み物」らしいが、興味本位で飲んでみた。美味いのかと言われたらこう答えるしかない。で、飲んだ感想はというと……


……うん、分からん。


だが、シャワシャワの意味は分かった。

飲んだ後シャワシャワする。

だが炭酸ではない。自分でもシャワシャワするの意味が分からないが、これはシャワシャワとしか表現できない。……つーかみんちゃすの奴やたら酒に詳しいけど、まさかあの年で飲み慣れてるのか?いくら異世界だからってそれはなあ……。目の前で飲もうとしてたら阻止しようか?……無理だな、うん。

俺はネロイドとやらを飲み干しテーブルに置き……。

「魔王の幹部ねぇ……。物騒な話だけど、俺達には縁の無い話だよな」

「違えねえ」

目の前の男が、俺の無責任な言葉に笑いながら同意した。

冒険者ギルドで駄弁っている連中は意外に多く、面白い話が色々聞ける。どこそこで危険なモンスターを見かけたから、しばらくはあの辺でのクエストは控えるべきだとか。あのモンスターは柑橘系の臭いを嫌うとか。

情報収集はゲームにおいて最も大事なフラグ回収作業だ。酒場でのこういうやり取りはいかにも冒険者っぽくて心地よいし。

「ま、何にせよ廃城には近づかない方がいい。王国の首都でもないこんな所に、何で魔王の大幹部様がやって来たのかは知らないがね。幹部ってからには、オーガロードやヴァンパイア、はたまたアークデーモンかドラゴンか。いずれにしても俺達が会ったら瞬殺される様な化け物が住んでるのは間違いない。廃城近くでのクエストも、避けた方が無難なとこだな」

男に礼を言って席を立ち、自分達のパーティーのテーブルへと向かう途中、数人の冒険者に囲まれてるみんちゃすを見かけた。そのパーティーはこの駆け出しの町にしてはかなり上位の実力を持つ面々だが、その冒険者達は全員涙目でがっくりと肩を落としながらギルドから去っていった。

「みんちゃす、何を話してたんだ?なんかあの人達わかりやすいほど落ち込んでたけど」

「あー?…ああカズマか。別に、ちょっとヘッドハンティングのお誘いがあっただけだ。そう珍しいことでもねーよ」

いつも通りの間延びした暢気な声色で、つまらなそうにみんちゃすはそう言い捨てる。まあそれはそうだろう。みんちゃすは多少性格に難はあるが、それを補って余りある戦闘力を持っている。力を抑えていたとはいえリッチーに痛手を与えられるようなこいつを、欲しがるような奴はごまんといるだろう。

「あの人達の落ち込みようからして断ったみたいだが……良かったのか?問題児だらけのポンコツパーティーのままで」

「余計な探り入れてんじゃねーよ。心配しなくても、自分に指示する奴をコロコロ変える趣味はねーからよー。……なんか『お前には最弱職がリーダーのパーティーとなど釣り合ってない』とかゴチャゴチャ言ってたが、『ならオメーらのパーティーとは釣り合ってるとでも?思い上がってんじゃねーよ半端モン共が』と言ってやったぜはははー」

「グッジョブと言いたいところだが、言動に容赦が無さ過ぎる」

自身が知らない所でコケにされていたにもかかわらず、思わず同情してしまう俺。そんなこと言われたら俺でもヘコむわ……。

そしてみんちゃすと共に、今度こそ自分達のパーティーのテーブルへと向かうと……。

「……どうした?俺達をそんな変な目で見て」

アクアとダクネスとめぐみんの三人が、テーブルの真ん中に置いた、コップにさした野菜スティックをぽりぽりかじりながら、俺達を見ていた。

「別にー?二人が他のパーティーに入ったりしないか心配なんてしてないし」 

アクアはそう言いながら、ちょっとだけ不安そうな目でチラチラ見てくる。

「……?いや、情報収集は冒険の基本だろうが」

「カズマにも言ったが、仲間をコロコロ変えるほど薄情じゃねーからなー?」

俺達は三人のテーブルに座り、野菜スティックに手を伸ばす。

クイッ。

みんちゃすの手には無抵抗に収まったのに、俺の方の野菜スティックは伸ばした手から逃れるように、ひょいと身をかわした。

……おい。

「何やってんのよカズマ」

アクアがテーブルをバンと叩くと、野菜スティックがビクリと跳ねる。一瞬動かなくなった野菜スティックを、アクアが一本つまんで口に運ぶ。あと、野菜達はみんちゃすにはやはり無抵抗だ。

「……むう。それにしても楽しそうでしたねカズマ。他のパーティのメンバーと随分親しげでしたね?」

めぐみんが拳を握ってテーブルをドンと叩き、怯ませた野菜スティックをつまみ、口に運んだ。

その一方、とうとうみんちゃすの伸ばした手に、野菜スティック自ら飛び込んでいくようになった。

「くっ……何だこの新感覚は?カズマが他所のパーティで仲良くやっている姿を見ると、胸がもやもやする反面、何か、新たな快感が……!もしやこれが、噂の寝取られ……?」

おかしな事を口走るどうしようもない変態が、コップのフチをピンと指で弾き、そのまま野菜スティックを指で摘まむ。

挙げ句の果てに手を伸ばしてもないのに、何本かの野菜スティック達がみんちゃすの下へと群がり出した。

「なんだ、どうしたお前ら。こういった場所での情報収集は基本だろうが……?」

言いながら俺はバンとテーブルを叩いてから、野菜スティックに手を……


ヒョイッ。


「……………………だああああらっしゃああああああああ!」

「や、やめてええ!私の野菜スティックに何すんの!た、食べ物を粗末にするのはいくない!」

俺は野菜スティックを掴み損ねた手で、今度はスティックが入ったコップを掴むと、それを壁に叩き付けようと振りかぶるが、半泣きのアクアに手を掴まれる。

「野菜スティックごときに舐められてたまるか!てゆーか今更突っ込むのも何だが、なんで野菜が逃げるんだよ!?ちゃんと仕留めたヤツを出せよ!」

「なに言ってんの。お魚も野菜も、何だって新鮮な方が美味しいでしょ?」

「活き作りも知らねーとか、カズマは相変わらずの箱入りっぷりだなー」

こんな活き作りがあってたまるか。

……あと、野菜共はなんでみんちゃすには無抵抗どころか、自分から食われにいくんだ?イケメンだからか?世界はこんなとこでもイケメンが得するようにできてるのか?

俺は野菜スティックを食うのは諦め、そのままイスに座る。

「はあ……。まあ、野菜は今はどうでもいい。それよりお前らに相談があるんだよ。レベルが上がったら、次はどんなスキルを覚えようかと思ってな。チート性能のみんちゃすを除いたら、俺達はハッキリ言ってバランスの悪過ぎるパーティーだ」

「終始俺頼みだとオメーら、周りの冒険者から寄生虫呼ばわりされるかもしれんしなー……。オメーら四人とも、特にめぐみんはそんなの絶対嫌だよなー?」

みんちゃすの問いかけに、俺達四人は(変態ダクネスは結構迷っていたが)頷く。

「という訳で、駆け出しの内は基本みんちゃすには極力頼らない方針で行こうと思うんだが、そこで自由の効く俺が足りない穴を埋める感じで行きたい。で、現時点でのお前らの戦闘スキル構成を聞いておきたい」

そう、効率よくクエストをこなしていくなら、パーティメンバーとの相性を考えたスキルを取っていく方がいい。

そう思ってパーティーメンバーのスキル構成を把握しておこうと思った訳だが。

「私は《物理耐性》と《魔法耐性》、《各種状態異常耐性》で占めてるな。後はデコイという、囮になるスキルぐらいだ」

「……《両手剣》とか取って、武器の命中率を上げる気はないのか?」

「無い。私は言っては何だが、体力と筋力はある。攻撃が簡単に当たる様になってしまっては、無傷でモンスターを倒せる様になってしまう。かといって、手加減してワザと攻撃を受けるのは違うのだ。こう……、必死に剣を振るうが当たらず、力及ばず圧倒されてしまうと言うのが気持ちいい」

「もういい、お前は黙ってろ」

「……んっ!自分から聞いておいてこの仕打ち……」

「オメーの器用値で《両手剣》捕ったところで、攻撃面は俺の足下にも及ばねーだろうけどなー」

「それは言わないでくれ、悲しくなるから……」

頬を赤らめたり落ち込んだり、色々と忙しいダクネスは放置する。

めぐみんを見ると、小首を傾げて口を開いた。

「私はもちろん爆裂系スキルです。爆裂魔法に爆発系魔法威力上昇、高速詠唱など。最高の爆裂魔法を放つためのスキル振りです。これままでも……勿論、これからもです」

「……どう間違っても、中級魔法スキルとかは取る気はないのか?」

「無いです」

こいつも駄目だ……。

「……一応みんちゃすも教えてくれ」

「あー?俺は強化魔法各種に《属性付与エンチャント魔法》、それに《上位属性付与スペシャルエンチャント魔法》だな。中~遠距離の攻撃手段はちゅーれんぽーとを媒介にした技があるものの、それも使う相手が強者に限られるから基本は近接戦闘オンリーだ」

凄く頼りになるけど、魔法使いとして色々と間違っているよなこのスキル構成……。

「えっと、私は……」

「お前はいい」

「ええっ!?」

自分のスキルを言おうとしたアクアを黙らせる。宴会芸とか宴会芸とか宴会芸とかそんなんだろう。

しかし…………。

「何でこう、まとまりが無いんだよこのパーティは……いっそのこと本当にみんちゃす連れて移籍を……」

「「「!?」」」

俺の小さな呟きに、三人がビクリとした。

「オメーなー……一応俺はめぐみんの頼みで加入したんだぜー?せめてこいつも連れていけよ」

「「!?」」

「ほっ……」

同族にやたらと甘いみんちゃすの言葉に、二名は再び愕然とする中、露骨にほっとするロリっ子。




例のキャベツ狩りクエストから数日が経過した。あの時収穫したキャベツが軒並み売りに出され、冒険者達にはその報酬が支払われたのだが……。

「カズマ、みんちゃす、見てくれ。報酬が良かったから、修理のついでに鎧を少し強化して貰った……これを、どう思う?」

酷い混雑のギルド内で、ダクネスが嬉々として自分の鎧を見せつけてきた。

「知るか。興味ねー」

「なんか成金趣味の貴族のボンボンが着けてる鎧みたい」

「……カズマはどんな時でも容赦ないな。みんちゃすに至ってはこちらを見もしないで……私だって素直に褒めて貰いたい時もあるのだが」

ダクネスが珍しくちょっとへこんだ顔で言ってくるが、今はそれよりも……

「今はお前より酷いのがいるから、構ってやれる余裕はないぞ。お前を越えそうな勢いのそこの変態を何とかしろよ」

「ハア……ハア……。た、たまらない、たまらないです!魔力溢れるマナタイト製の杖のこの色艶……。ハア……ハア……ッ!」

めぐみんが新調したマナタイト製の杖を抱きかかえて頬ずりしていた。

マナタイトとかう希少金属は、杖に混ぜると魔法の威力が向上する性質を持っているらしい。

高額な報酬で強化し、めぐみんは朝からずっとこの調子だ。何でも、爆裂魔法の威力がこれで何割か増すらしい。

ただでさえオーバーキル気味な爆裂魔法をこれ以上強化してどうするのか、そんなことよりも他に習得すべき便利な魔法があるんじゃないのか?など、言いたい事は色々あるが、今のめぐみんにはあまり関わりたくないので放っておく。

俺もすでに換金は終わってホクホクだ。ちなみにキャベツを換金せずどこかに輸送の手続きをしていたみんちゃすは、何事もなく優雅に紅茶を飲みながら『精霊の王アンサー・前章』という本を読んでいる。曰く、「今さら小銭稼いでもな……」らしい。

以前どれだけ貯蓄があるのか聞いたら、「1億越えてからは面倒になって数えてない」そうな。俺もいつかこんなブルジョワ台詞を言えるようになりたいと切に願う。

キャベツを追うモンスターを引きつけたダクネス。それをまとめて粉砕しためぐみん。普通に素手で次々と捕まえていたみんちゃす。

そんな皆の活躍を他所に、一人マイペースにキャベツを追いかけていたアクア。

キャベツ狩りで得た報酬は均等に分けるのではなく、それぞれ自分で捕まえた分をそのまま報酬にしようという事にって事になった。

それは、俺やみんちゃすに次ぐ収穫量だったアクアが言い出した事だ。

そして今、その言いだしっぺの換金を待っているのだが……。


「なんですってえええええ!? ちょっとあんたどう言う事よっ!」


ギルドに響き渡るアクアの声。

ああ……。嫌だなあ……。

ギルドの受け付けカウンターでは、案の定アクアが何やら揉めていた。受付のお姉さんの胸ぐらを掴み、何やらいちゃもんつけている。

「何で五万ぽっちなのよ!私がどれだけキャベツ捕まえたと思ってんの!?」

「そそ、それが……アクアさんの捕まえてきたのは、殆どがレタスで……」

「…………なんでレタスが交じってるのよー!?」

「わ、私に言われましてもっ!」

会話のやり取りを聞くに、どうも報酬額が納得いくものではなかったらしい。

これ以上受付けに言っても無駄だと踏んだのか、アクアが後ろ手に手を組み、にこやかな笑顔で俺に近づいてきた。嫌だなあ……来ないで欲しいなあ……。

「カーズマさん!今回のクエストの、報酬はおいくら万円?」

「百万ちょい」

「「「ひゃっ!?」」」

アクアとダクネス、めぐみんが絶句する。

そう、降って湧いた突発クエストで、いきなり小金持ちになりました。

俺の収穫したキャベツはほとんどが、経験値が大量に詰まった質の良いヤツだったらしい。

これも幸運度の差というものか。

「カズマ様ー!前から思ってたんだけれど、あなたってその……そこはかとなく良い感じよね!」

「特に褒める所が思い浮かばないなら無理すんな。言っとくが、この金はもう使い道決めてるからな、分けんぞ」

先手を打った俺の言葉にアクアの笑顔が凍りついた。

「カズマさあああああああん!私、報酬が相当な額になるって踏んで、この数日で持ってたお金、全部使っちゃったんですけど!ていうか、大金入ってくるって見込んで、全部で15万近いツケまであるんですけど!!今回の報酬じゃ足りないんですけど!」

「あー?払えねーなら別にまた今度でも構わねーぞ?踏み倒そうとしたら流石にぶっ殺すけど、返すつもりがあるなら多少遅れても気にしねーよ」

「……それでもまだ、ここの酒場に10万近いツケがあるんですけど!」

半泣きですがり付いてくるアクアを引き剥がし、何でこいつは後先考えないんだろうとか、みんちゃすも甘やかすんじゃないとか、言いたいことがありすぎて痛むこめかみを指で押さえた。

「知るか!そもそも今回の報酬は『それぞれが手に入れた分をそのままに』って言い出したのはお前だろ!」

「だってだって!私だけお金持ちになれると思ったんだもん!」

最低だな……。

「というか、いい加減拠点を手に入れたいんだよ。いつまでも馬小屋暮らしじゃ落ち着かないだろ」

通常、冒険者は家を持たない。

冒険者は安定を求めず、常にあちこちを飛び回る事が多いからだ。

まあ成功する冒険者など一握りで、ほとんどの冒険者はその日暮らしが多く、金が無いというのも理由の一つだが。

ぶっちゃけ魔王退治など、最弱職の俺には不可能だと既に諦めている。そんな過酷な戦いは先に送り込まれたチート持ちや、みんちゃすみたいな選ばれた強者がやればいい。俺は小さくてもいいから安定した居住地を持ちたい。後はのんびりと暮らして後は冒険は好奇心を満足させられる程度で良いと思っている。

アクアがいよいよ泣きそうな顔ですがりつく。

「そんなあああああ!カズマ、お願いよ、お金貸して!ツケ払う分だけでもいいからぁ!そりゃあカズマも男だし、馬小屋でたまに夜中ゴソゴソしてるの知ってるから、早くプライベートな空間が欲しいのは分かるけど-」

「よし分かった、十万でも二十万でもお安いもんだ!分かったから黙ろうか!!」

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