第8話:いざクエストへ!

【sideカズマ】


冒険者レベルが6になった。

キャベツ狩りでレベルが二つも上がった事になる。俺はキャベツを捕まえただけで、倒していないのに何故レベルが上がるんだろう。そもそも何故キャベツにこんな経験値があるんだろうか。

ツッコミたい所は山ほどあったが、考えだすとと頭が痛くなるのでスルーしたい。気にしたら負けというやつだ。

レベルが上昇とともにスキルポイントも増えた。何故レベルが上がるとこんなRPGみたいな現象が起こるのかとか、細かく突っ込んでいくと眠れなくなりそうなので、気にしないでおこう。これも気にしたら負けだ。

それはともかく、俺は手に入れたポイントをつぎ込んで、キャベツ狩りクエストの時に知り合った魔法使いと剣士から、《片手剣》スキルと《初級魔法》スキルを教えて貰った。

片手剣スキルはその名の通り片手剣の扱いが上達する修練スキルであり、これで俺も人並みに剣の扱いができるようになったらしい。みんちゃす曰く「修練スキルで上達した剣技は実戦経験を伴わないため、地道に鍛練を積んだ剣士にはどうしても遅れを取る」らしいが、実践で剣が上達するのを待つ余裕など俺には無い。

再びポイントが空になってしまったが、剣は元より魔法はぜひとも覚えておきたかったのだ。ファンタジー世界に来て魔法を使いたくない人間なんていない筈だ。

初級魔法スキルは火、水、土、風、氷の各種属性魔法が使えるようになるスキルらしい。

ちなみに初級魔法に殺傷力のある魔法は皆無で、普通は初級は取らずスキルポイントを貯めて、いきなり中級魔法を覚える魔法使い職が多いらしい。

中級魔法は習得に10ポイントほどのスキルポイントを使う。そんなにポイントを食うのなら、これといって魔力が高い訳でもない俺が、攻撃魔法を覚えるのは諦めた方がいいのかもしれない。みんちゃすの得意とする属性付与魔法も、それを活かす地力が伴っていないので却下。というか、みんちゃすのようにガンガン切り込んでいける力が俺にあるなら、カエルなんかに苦戦する筈がない。

それから才能の有無で、生まれつきスキルポイントを所持している奴もいるらしい。

腐っても女神のアクアは論外として、みんちゃすやめぐみんやダクネスも、最初からかなり優遇されていたのかもしれない。

片や俺がレベル1の時に最初から持っていたスキルポイントは0。

……落ち込むから深く考えないでおこう。

 


スキルも覚え、ようやく冒険者らしくはなってきた。となると後は装備を何とかしたい。

たまにこっちで買った服に着替える時はあるものの、何せ今の格好は最初に着ていたジャージにショートソードとダガーのみ。革製でいいから、鎧の一つも欲しい所だ。


と、いう訳で……


「……で、何で私まで付き合わされるのよ、その買い物に」

俺は文句をたれるアクアを連れて、武具ショップにやって来ていた。

「いや、お前も一応装備整えとけよ。俺はジャージだけど、お前も似たようなもんだろ?お前の装備、そのヒラヒラの羽衣だけじゃないか」

アクアは俺と一緒にこの世界に来たままの格好だ。

アクアの水色の髪と水色の瞳に合わせてあつらえた様な、淡い紫色のヒラヒラした薄い羽衣みたいな服を着ている。

毎日、寝間着に着替えた後は宿屋のバケツで羽衣をジャブジャブ水洗いして、馬のエサの藁を乾かす場所に、藁と一緒に干していたのを見た。

アクアは呆れたと言わんばかりの表情で、

「バカねカズマ。忘れてるみたいだけど私は女神なのよ?この羽衣だって神具に決まってるじゃない。あらゆる状態異常を受け付けず、強力な耐久力と様々な魔法が掛かった逸品よ?これ以上の装備なんて、この世界にそうそう存在しないわ」

そんな神具を、馬のエサと一緒に干すなと言いたい。

「それは良い事を聞いたな。いよいよ生活に困ったら、その神具を売ろうぜ。……おっ、革製だけど、この胸当てとかいい感じだな」

「……ね、ねえ、冗談よね?この羽衣は私が女神である証みたいな物だからね?う、売らないわよね?ね?……う、売らないわよ?」





「……ほう、見違えたじゃないか」

「おお……。ようやくちゃんとした冒険者みたいに見えますよ」

もはや溜まり場にもなっている冒険者ギルドにて、ダクネスとめぐみんが俺の格好を見て感想を言ってくる。今まで冒険者でなく、ただの不審者程度にしか見えなかったのかと聞きたい所だ。そしてみんちゃす、いくら興味が無いからって我関せずと紅茶を啜るな。協調性皆無か。

今の格好は、こちらの世界の服の上から革製の胸当てと金属製の篭手、同じく金属製のすねあてを装備している。ジャージ姿だとファンタジー燗ぶち壊しなので、先日服も数着買ってある。

属性付与系の魔法を除いた魔法系のスキルの使用する際には、片手を空けておいた方がいいとの事。

せっかく初級とはいえ魔法を覚えてみたので、盾は持たずに魔法剣士みたいな感じで行こうかと思う。

クリスとのスティール勝負で貰った金は大分減ったが、一、二週間は食べていけるだけは残してある。

……とはいえ、やはり装備を整えてスキルも覚えたならば、クエストにでも行ってみたい。

そのような旨をパーティーメンバーに伝えたところ…

「それならば、沢山の雑魚モンスターがいるクエストに行きましょう!我が爆裂魔法で全てを消し飛ばすのを想像しただけで……!」

「いや、一撃が重くて気持ちいい……凄く、強いモンスターを……!」

「いいえ、お金になるクエストをやりましょう!クエスト終わりにこう、パァーッと宴会を開くの!」

「俺は別に何でもいい、そういうのはオメーに全部丸投げする」

ご覧の通り、ちっともまとまりがない。……間をとって、そこそこの数でそこそこの難易度、なおかつそこそこの稼ぎのアレでいいか。「じゃ、じゃあ……ジャイアントトードが繁殖期に入っていて街の近場まで出没しているらしいから-」

「「カエルはやめよう!」」

言いかけた俺に、強い口調でアクアとめぐみんが拒絶した。先程までとは打って変わって息ピッタリだ。

「……ん、なぜだ?カエルは刃物が通り易く倒し易いし、攻撃法も舌による捕食しかしてこない。倒したカエルも食用として売れるから稼ぎもいい。薄い装備をしていると食われたりするらしいが、今のカズマの装備なら金属を嫌がって狙われないと思うぞ。みんちゃすが遅れを取る筈もないし、アクアとめぐみんは私がきっちり盾になろう」

「あー、うん……こいつらオメーが加入する前に受けたクエストで無様にもカエルに食われてたから、大方トラウマにでもなってるんだろうよー」

「そうそう、頭からパックリいかれて、粘液まみれにされたからな。しょうがないから他のを狙おうか」

俺の説明にダクネスはなぜか、少し頬を赤らめた。

「……あ、頭からパックリ……。粘液まみれに……」

「……お前、ちょっと興奮してないだろうな」

「してない」

ダクネスは目を逸らして、赤い顔でもじもじしながら即答するが、凄く不安になってきた。

こいつ、目を離したら一人でカエル狩りに行ったりしないだろうな。

「キャベツ狩りは除くとして、このメンツでの初クエストだ。あまりみんちゃすに頼りすぎると、いつまでたっても駆け出しから抜け出せないだろうし、他4人でも十分クリアできる楽なヤツがいいな」

「ちと退屈だが、それが懸命だろーな」

俺の意見にみんちゃすも同意し、めぐみんとダクネスも特に異論を挟むことなく、三人で掲示板に手頃なクエストを探しにいった。

しかしアクアだけは、俺を小バカにしたように言ってくる。

「これだから内向的なヒキニートは……。そりゃあ、カズマは一人だけ最弱職だから慎重になるのもわかるけど、みんちゃす以外の私達3人も上級職なのよ?もっと難易度の高いクエストをバシバシこなして、ガンガンお金稼いで、あっという間にみんちゃすのレベルに追いついて、それで魔王をサクッと討伐するの!という訳で、一番難易度の高いヤツをいきましょう!」


…………。


「……お前、言いたくないけど……まだ何の役にも立ってないよな」

「!?」

心当たりがあるのか、俺の言葉にビクつくアクア。それに構わず俺はみんちゃすのようにネチネチと続ける。

「本来なら俺は、お前から強力な能力か装備を貰って、みんちゃすのように魔王討伐候補にその名を連ねて、勿論ここでの生活にはあまり困らないはずだった訳だ。そりゃあ俺だって無償で神様から特典を貰える身でケチなんてつけたくはないよ?それにその場の勢いとはいえ、能力よりお前を希望したのは俺なんだし!しかしだ、俺はその能力や装備の代わりにお前を貰った訳なんだが、今のところそれらのチート並にお前は役に立ってくれているのかと問いたい。問い詰めたい。お前が泣くまで問い続けたい。え?どうなんだ?最初は随分偉そうで自信たっぷりだった割に、ちっとも役に立たない自称元なんとかさん?」

「うう……、も、元じゃなく、その……。い、一応今も女神です……」

シュンとなりながらも反論してくるアクアに、俺はとどめを刺すべく声を張り上げ畳み掛ける。

「女神!!女神ってあれだろ!?勇者を導いてみたり、魔王とかと戦って、勇者が一人前になるまで魔王を封印して時間稼いでたりする!今回のキャベツ狩りクエストで、お前がやった事って何だ!?最終的には何とかたくさん捕まえてたみたいだが、基本はキャベツに転ばされて泣いてただけだろ?お前野菜に泣かされといて、それで本当に女神なの?そんなんで女神を名乗っていいのか!?え!?この、カエルに食われるしか脳の無い、宴会芸しか取り柄のない穀潰しがぁっ!」

「わ、わああああーっ!」

テーブルに突っ伏してワッと泣き出したアクアを見ながら、小バカにされた事に対する逆襲が完了し、ちょっと満足する。

だがアクアの方はこれで終わらせておく気にはなれなかったらしく、キッと顔を上げ小賢しくも言い返してきた。

「わ、私だって、回復魔法とか回復魔法とか回復魔法とか、一応役に立っているわ!なによヒキニート!このままちんたらやってたら魔王討伐なんてどれだけかかるか分かってんの!?何か考えがあるなら言ってみなさいよ!」 

ウルウルした上目遣いで下から睨みつけてくるアクアに、ふっと鼻で笑ってやる。

「いいかアクア。俺にはみんちゃすのような凄い力なんてどこにも無い。……だが、日本で培った知識はある。そこで俺でも簡単に作れ、かつここの世界に無い日本の物とかを、売りに出してみるってのはどうかと思ってな。俺は幸運だけはやたらと高いし、商売でもやったらどうだって受付のお姉さんに言われただろ?だから無理して冒険者稼業だけで食っていくだけじゃなく、他の手段も考えておこうかの思ってさ。金さえあれば経験値稼ぎだって楽ができるだろ?キャベツみたく、食べるだけでも強くなれる食材もあるんだしさ」

正直言って、俺は冒険者なんて割に合わないと思ってきている。どれもこれも命懸けの内容の割に報酬はとても安い。

この世界での命の値段は笑えるほど軽い。

アクアの手前では魔王がどうとか言ってるが、ぶっちゃけ俺は魔王討伐なんて視野に入れてない。何より優先するべきは、俺がこの世界でいかに楽して生計を立てて行けるか模索することだ。

「と、いう訳でお前も何かお手軽にできて儲かる商売でも考えろ!それからお前の最後の取り柄の回復魔法を、とっとと俺に教えろよ!」

「嫌ーっ!回復魔法だけは嫌!嫌よおっ!私の存在意義を奪わないでよ!私がいるんだから別に覚えなくてもいいじゃない!」

言ってテーブルに突っ伏し、おいおい泣き始めるアクア。と、そんな俺達の元に三人が帰ってきた。

「ちょっと目を離したすきに何やってんだオメーら……」

「カズマはみんちゃす並にえげつない口撃力がありますから、遠慮なく本音をぶちまけていると大概の女性は泣きますよ?」

「うむ。ストレスでも溜まっているのなら……アクアの代わりに私を口汚く罵ってくれても構わないぞ。クルセイダーたるもの、誰かの身代わりになるのは本望だ」

「オメーは今すぐ世界中のクルセイダーに謝れ、土下座で」

やがて三人の視線は、テーブルの上で泣き続けるアクアに注がれる。皆の注目を集めているのを自覚したのか、泣きながらも顔を埋めた腕の隙間から時折こちらをチラッチラッとうかがうのがイラッとする。

「こいつの事は気にしなくていい。しかし、それにしても……ダクネスさん、着痩せするタイプなんですね」

今日のダクネスはタイトな黒のスカートに、黒のタンクトップと皮ブーツ。その格好で大剣を担ぐ姿は、騎士と言うより剣士にしか見えない。

先日のキャベツ狩りで袋叩きにされて際に着ていた鎧が痛み、今は修理に出してるらしい。

薄着のダクネスに、俺は思わず敬語になってしまっていた。

締まるべき所は締まり、それでいて全体的にむちっとした身体。……端的に言えやたらとエロい身体付きだ。

美人で身体も良いとなると、多少の性格の破綻には目を瞑ってもいいかもとすら思えて来て……

「……む、今、私の事をエロい身体しやがってこのメス豚がと言ったか?」

「言ってねえ」

アクアとめぐみんの方もチラリと見て……やはり一番大事のは性格だと再認識する。

「おい、今私をチラ見した意味を聞こうじゃないか」

「俺にロリコン属性が無くて良かったと思っただけだ」

「カズマも学習しませんね、紅魔族に喧嘩を売るとどうなるか……よろしい、表に出ようじゃないか」


その後いくらかゴタゴタした末に、攻撃に不向きなプリースト職でレベルが上げにくい(なおかつ現状ではクソの役にも立たない)アクアを鍛えるべく、プリーストが浄化できるアンデット系モンスター討伐のクエストを受けることに。レベルが上がってこのバカの知力が少しでもマシになればと、一縷の望みをかけて。

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