第7話:パーティー結成!⑦

【sideみんちゃす】


「何故ただのキャベツの野菜炒めがこんなに美味いんだ。納得いかねえ、ホントに納得いかねえ」

ギルドの中で出されたキャベツ炒めをかじり、カズマが複雑な表情を浮かべながら呟いた。

無事キャベツ狩りが終わった街中では、あちこちで収穫されたキャベツを使った料理が振舞われている。

一応金にはなるということで、結局カズマもキャベツ狩りに参加したのだが、明らかに後悔している様子だ。

まあ無理もない。ようやくスキルを覚えてこれからって時に、受けたクエストがキャベツ狩りだったら俺でもテンション下がる。窃盗スキルを見事に使いこなして活躍し周りから称賛されていたが、そういった反応はもっとこう、難関なクエストで活躍するときまで取っておいて欲しかっただろうな。 

「しかしやるわねダクネス!あなた、さすがクルセイダーね!あの鉄壁の守りにはさすがのキャベツ達も攻めあぐねていたわ」

「いや、私などただ固いだけの女だ。私は不器用で素早さも高くないから剣を振るってもロクに当たらず、誰かの壁になって守る事しか取り柄が無い女だ。……その点、みんちゃすとめぐみんは凄まじかった。後衛職とは思えない俊敏さでキャベツを素手で掴んで捕獲していったり、キャベツの群れを追って街に近づいてきたモンスターの群れを、爆裂魔法の一撃で吹き飛ばしていたではないか。他の冒険者達のあの驚いた顔といったら無かったな」

「そりゃどーも」

ぶっちゃけ本気になれば今回の五倍は捕獲できたけどなー。……いまいちやる気が出ねーから流したけど。

「ふふ、我が必殺の爆裂魔法の前において、何者も抗う事など叶わず。……カズマの活躍も目覚ましかったです。魔力を使い果たした私を素早く回収して背負って帰ってくれました」

「……ん、私がキャベツやモンスターに囲まれ袋叩きにされている時も、カズマは颯爽さっそうと現れ、襲い来るキャベツ達を収穫していってくれた。助かった、礼を言う」

……本当に感謝してんのかこいつ?本音を言えばもう少し袋叩きにされたかったんじゃねーの?

「確かに。潜伏スキルで気配を消して、敵感知で素早くキャベツの動きを捕捉し、背後からスティールで強襲するその姿はまるで、鮮やかなアサシンのごとしでした」

「カズマ……女神の名において、あなたに『華麗なるキャベツ泥棒』の称号を授けてあげるわ」

「やかましいわ!そんな称号で俺を呼んだら引っぱたくぞ!……ああもう!どうしてこうなった!」

カズマは頭を抱えたままテーブルに突っ伏した。こいつがここまで頭を悩ませてるのは、何もキャベツだけが原因じゃない。むしろ、それはあくまでオマケに過ぎない。

「では……名はダクネス。職業はクルセイダーだ。一応両手剣を使ってはいるが、戦力としては期待しないでくれ。なにせ不器用過ぎて攻撃がほとんど当たらん。……だが防御力だけならみんちゃすにも負けはしない。壁になるのは大得意だ、これからよろしく頼む」

そう、このポンコツ騎士が正式にパーティー加入してしまったことが最大の原因だ。

俺と同じ前衛であるこいつの戦力を真面目に分析すると、確かに駆け出しのレベルにもかかわらず防御力はこの俺と同等……いや、防御スキルやフルプレートメイルで武装した分を上乗せすれば、完全に俺を上回っている。魔法で防御を強化したとしても、僅かだがこいつに分があるだろう。

俺はこいつらのレベルが駆け出しを卒業する辺りまではサポートとバックアップをメインにするつもりだし、モンスターの討伐はカズマ達三人を主軸にして盾に専任するというなら、戦力としてはありっちゃありだ。……もうちょい性格がまともだったらの話だが。というかこいつがおとなしく盾役に専念するとは到底思えねーな。

アクアが満足そうに余裕の笑みを浮かべながら、カズマの方に向き直り、

「ふふん、ウチのパーティもなかなか豪華な顔触れになってきたじゃない?アークプリーストの私に、アークウィザードのめぐみんとみんちゃす。防御特化の上級前衛職である、クルセイダーのダクネス。五人中四人が上級職なんてパーティ、そうそう無いわよカズマ?感謝しなさいよ?」

表面上は確かにそうだが、実際は一日一発しか魔法が使えない魔法使いに、攻撃がまったく当たらない騎士、未だ何の活躍もしてないプリースト……それに自分で言うのもなんだが、血の気が多すぎるヤクザ魔法使いだけどな。

キャベツ狩りの最中、ポンコツ騎士と意気投合しためぐみんとアクアが、ポンコツ騎士をパーティーに向かえ入れようと言い出したのだ。

なんで不器用を自覚してんのに装備がやや扱いづらい両手剣で、なおかつスキルポイントを防御系のスキルに全振りするかな……?せめて《両手剣》スキルとかに振れよ。

おまけにコイツ、やたらとモンスターの群れのど真ん中に突っ込みたがる。そんな使いづらい盾役がいてたまるか。まったく……

「んく……っ。ああ、先ほどのキャベツやモンスターの群れにボコボコに蹂躙された時は堪らなかったなあ……。このパーティでは本格的な前衛職は私だけの-」

「職業こそアークウィザードだが、俺も前衛だ」

「しかし、みんちゃすはめぐみんと並ぶ攻撃の主軸だろう?なら、遠慮なく私を囮や壁代わりに使いまわしてくれ。なんなら、危険と判断したら捨て駒として見捨てて貰ってもいい。……んんっ! そ、想像しただけで、む、武者震いが……っ!」

これだからドMって人種は……。 

「それではカズマ。多分……いや、間違いなく足を引っ張る事になるとは思うが、その時は遠慮なく強めで罵ってくれ。これから、よろしく頼む」

結局、一見完璧そうな布陣のパーティーだが、見事に問題児ばかりが集まったな。カズマの奴、どんな星の下に生まれればこんな愉快な面子が集まるんだ?






カズマ達と別れてから、俺はちょっとした用事でポンコツ騎士を呼び出していた。

「それでみんちゃす、話とはなんだ?わざわざこんな人気ひとけの無い場所に呼び出して……ま、まさか!レベル差にものを言わせて私を押し倒しそのまま-」

ちげーよバカ、気色ワリーからクネクネすんじゃねーよ」

「そ、そうか……」

「お前なー、仮にもいとこ同士なんだから残念そうな顔すんなよ……。だいたいそれでも貴族の娘なのか?ララティーナお嬢様よー」

「そ、その名前で呼ぶな!?」

そう、こいつの本名はダスティネス・フォード・ララティーナ。王国の懐刀ダスティネス家の当主の一人娘だ。ちなみに俺の母ちゃんこと『白騎士』アステリアはダスティネス卿の妹なので、俺とララティーナは従姉弟いとこ関係にあたる。

「まさかオメーが冒険者になるとはなー。五歳下の俺に苛められてべそかいてたような奴がなー」

「やめろ!?そういうのは私が望んでいる責めではない!」

両手で真っ赤になった顔を覆うララティーナ。ドMにも望む責めと望まない責めがあるのか、世界一どうでも良い知識だな。

こいつとの馴れ初めは俺が5歳の頃、ダスティネス卿に「甥の顔が見たい」としつこくせがまれた母ちゃんが、渋々俺をダスティネス邸に連れていった際に初めて出会った。

当時のこいつはやたらと姉貴風を吹かせた恩着せがましい性格で、「貴族としての心構えを教えてやる」だの「食べ方が下品でなっていない」だの、やたらと俺にまとわりついて非常にうざかった。当時から沸点の高くなかった俺は、結局ものの一日で我慢の限界に達し、泣きが入るまで苛め倒してやった。

その件で俺を目の敵にしたようで、それ以来会うたびに俺に突っかかってきた。……その度に毎回泣かしてやったが。ここ2~3年ほどコイツとは会ってなかったが、バカで鈍間で不器用なこいつが冒険者になっていたことには、流石の俺も驚いた。……こいつの性癖がこうなっていることは母ちゃんから聞いていたのでさほど驚きはない。げんなりとさせられたが。

「以前までの私と同じに思うなよみんちゃす。私は生まれ変わった……そう!以前まではただただ苦痛であったことも、今の私に取ってはご褒美に変換することが出きるようになったのだ!」

「どう考えても別方向に悪化しただけじゃねーか……」

まさかこいつがドMになったのって、俺が散々苛めたからじゃねーよな?違うよな?

……まあそれはともかく、俺がもっとも気になってるのはこいつの外見だ。

「つーかよ……随分と俺の母ちゃんとソックリじゃねーか?親戚だしもともと顔立ちは似ていたが、鎧の形状から髪型までも不自然なくらいによく似てるな。オメー、以前はショートだったじゃねーか」

「うむ……『白騎士』アステリア様は騎士全員のの憧れだ。私ももちろん例外ではない。いずれ私もあの方のような、立派な聖騎士になりたい。そのためにも、あの方に少しでも近づこうと髪型も変え、鎧もオーダーメイドで-」

「オメーみてーな雑魚が『白騎士』を真似る、あまつさえ『白騎士』を目指す……それがどれだけ烏滸おこがましいかわかってんのか?」

「……んっ…!面と向かって……雑魚……!」

はっきり言って、目の前で悶えているこの変態騎士のことが、俺は心底気に食わない。

こいつの生き様は、確かにオンリーワンと言えばそうなのだが、俺やめぐみんのそれとひと括りにされるのは断固として拒否する。

こんなものは決してフロンティアスピリッツじゃない……勝利へと向かっていないものを、覇道と呼んでたまるものか。

ましてや、そんな奴が俺の目標である『白騎士』と瓜二つで、挙げ句の果てにあの人のようになりたいとほざいている……これが厭わしく思わずにいられるか?

「パーティーリーダーは俺じゃねーから、オメーが加入すること事態に文句は言わねーよ。……だが覚えとけ、俺はオメーを騎士とは認めてねーってことをな」

ドM拗らせて興奮しながらも、心なしか寂しそうな表上をしているララティーナを捨て置き、俺はその場を後にした。

……チッ。八つ当たりなんてらしくもない上にダセーことしちまった……俺もまだガキだな、我ながら幼稚極まりねー。

せめてアイツがもうちょい母ちゃんと似ていなかったら……そうでなくても、せめてもうちょいまともな性格、もしくは性能だったらな……。もやもやした気分を振り払うように、俺は『転送魔法』の詠唱を唱え、


「……『テレポート』」


アクセルを後にした。






   

俺が転移した場所は治外法権都市『クリアカン』。かつては暗黒街と呼ばれ王国随一の治安の悪さを誇っていた、愛読書『仁義なき貴族達』の舞台にもなった大都市だ。

現在この町はベルセルグ……否、世界一の任侠一家『月代組つきしろぐみ』が取り仕切っている。王族や貴族の権力、並びにそいつらが取り決めたルールなどこの町では一切通用しない。かといって無法都市ではなく、この町の住民達は『月代組』が定めた取り決めに従い、それを破る者は法を破る以上の代償を支払う羽目になる……つまりここはベルセルグ領でありながらも、事実上の独立国家と言っていい。

何故俺がこんな裏稼業が幅を効かせている町にテレポートしたかと言うと……


「「「みんちゃすの兄貴!お勤めご苦労様です!」」」

「んー、ご苦労」


月城組本邸の門を開けると、左右きっちりに整列した厳つい外見のおっさん達から出迎えを受けた。俺はそいつらの間を通り奥の方で佇んでいる、白髪混じり金髪をオールバックをした、物腰柔らかそうな初老の男に近寄る。 

「わざわざ御苦労様ですみんちゃす殿」

「マルチェロか。リュウガがわざわざこの俺に頼みてーことって何なんだ?」

「実は傘下である『白虎組』が今日、ウチの資金を持ち逃げし、都市の外にある砦に立て篭ってましてねぇ……」

「『白虎組』?……あー、ベテラン冒険者を結構抱えた、少数精鋭で有名な組だっけか?」

「組長はここのところ体調が芳しくなく、幹部も軒並み多忙で手が回らなくてですねぇ……。かといってかの武闘派組織に半端な戦力では、余計な痛手を負う恐れがありまして。そこでリュウガ様はみんちゃす殿に……」

「手伝って欲しいって訳ね。……別にオメーが加勢するだけでどうにかなりそうじゃね?」

「ご冗談を。貴方やリュウガ様と同じ『六鬼衆』とは言え、私は後方支援専門のしがない薬師くすしですので」

「いやオメー暗殺のスペシャリストだろうが……」

ただの後方支援専門が実力重視の『六鬼衆』に抜擢される訳ねーだろ。真正面から戦えば俺の方が強いだろうが、こいつは下手すれば街一つ滅ぼせかねない殲滅力の持ち主だからな……。

「……ま、オメーは親分についてなきゃダメみてーだし、兄弟の頼みなら断るわけにはいかねーよな。了解、それじゃあさっそく行ってくるわ。……仁義を欠いた馬鹿共に、落とし前をつけさせによ」

「いってらしゃいませ」

「「「お気をつけて!」」」

マルチェロや舎弟達の声をバックに、俺は懐から取り出した『修羅』のお面を顔にかけ、砦に向かって歩き出す。

……紅魔の里にいた頃からヤクザ魔法使いとか揶揄されてたが、あの頃はまさかガチでそうなるなんて全く予想してなかったなー……まあサイガの親分やリュウガと盃こそ交わし、『月代組』の中でも最精鋭である六人、『六鬼衆』の一角『修羅』の称号を受け取ったたものの、実質はただの協力関係だけどな。

そうじゃなきゃ冒険者を続けられねーし、ましてやアイツらとパーティーも組めねーしな。


その後砦についた俺は、兄弟分であるリュウガと共に『白虎組』をものの30分で全滅させ、組の資金を奪い返した。確かに前評判通りかなりの実力者揃いだったが、流石に俺とリュウガの敵じゃねーな。

『白虎組』の構成員達の処遇はリュウガに任せたが……まあウチに上等かましたからには、ろくな結末にはならねーだろうな。

ヤクザを舐めた罪ってのはな、とんでもなく重いもんなんだよ。

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