曙の関係
僕は祐一郎さんに抱き締められてお互い横になって寝ていた。
あの行為が終わった後は二人ともシャワーを浴びてお互い身体を綺麗に拭いた。まぁ、僕は手こずる部分があったのだが。阿部さんは謝ってたけど。
「ひで。良かった…」
「ひでって呼ばれるの初めてだから少し違和感ある。」
"祐一郎さん"の文字数が多く、その名を呼び終えるまでの間が恥ずかしい。かといって"ゆうさん"、と呼ぶのは単調すぎて気が向かない。仕方ないので"祐一郎さん"で。
「祐…一郎さんで。」
「分かった。」
その応答と同時に額や頬に矢継ぎ早に口づけをされた。これほど人に求められたのは初めてで、僕の心の中は欲求に押し潰されそうになる。
「あっ、もう帰らないと親が心配する。」
「送ってく。」
ふわっとした表情で事情を話すと、彼はすぐさま返事をしてベッドから起き上がり、着替えを取ろうとする。
「いいよ電車乗って帰るし。」
「お付き合いするときは彼氏が送迎するのが当たり前なの。」
往生際の悪い僕に文句を言うような素振りで返答してきた。どうしても送りたいらしい。
「分かった。僕の服どこだっけ。」
「あぁこっち。持ってくるからちょっと待っててて。」
何気ない会話の雰囲気だが、状況を考えれば普通ではない。男同士であんな事やこんな事を…。
考えている内にまだシャツしか着ていない彼が僕の服を持ってやってくる。そら下着もちゃんと持ってくるよね…。
「ありがと。あっ自分で着るから…」
無言で全部着させられてしまう。彼は僕のことが好きなのであって、何でもかんでも抵抗するのは良くないと思い、僕は一緒に動いて服を着ることに。
好きな人に中途半端な抵抗されるのは嫌であることは僕にも分かる。
「玄関で待ってて。すぐ行くから。」
「うん。」
僕は荷物を全て持って、玄関の段差に座り、靴を履いた脚を降ろす。つま先を動かして暇を潰す。まるで小学生のようだ。
「よし、行こっか。」
僕は彼に手を引かれてエレベーターに乗り、地下駐車場へ向かうが、その道中で彼と同じ職場の容姿端麗な女性に会った。
僕は彼の迷惑にならないように近づかれる前に手を離そうとしたが、むしろ彼は僕の手を握った。彼女に挨拶を交わすのだが、彼女も平然と返事をした。
何とも思っていない様子だった。
「はい。お姫様はこちらにお乗りください。」
「男なんですけど。」
真顔で事実を述べる。彼は一瞬笑顔の状態で固まるが、ゆっくりと運転席に乗った。
彼は座ると突然自身の両足を両手でポンと叩き、何か忘れているかのような顔で声を出す。
「あっ。水分補給したい。」
「ん?僕が買ってくるよ。」
財布を取り出して車から出ようとすると、肩を捕まれ思い切り引き寄せられ、顎も親指と人差し指で挟まれ角度を変えられた。
「ん…」
突然の対面に驚いて固まってしまう。彼は少し吸い込むように口を塞いできた。口内が初めての感覚に陥る。
「ふぅ。よし、行くぞー。」
僕は顔を真っ赤に染めてうつ向きにしていたが、彼は明るい表情で車を発進させる。まるで車内はオセロのような雰囲気だった。
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