水羊火

 僕の頭部は阿部さんの両腕に包み込まれていた。

 僕は告白をされてから彼の腕の中で眠ってしまっていたようだ。上手く返事ができないまま二人で眠ってしまっていたのだが、受け入れたことになるのだろう。

 もう少しこのままでもいいか…。


「ん…林くん…」


 彼の寝言は僕を逃がさないようにする声ぶりだった。あれだけ僕は泣いたのに全く肌はカサついていなかった。おそらく、彼が拭いてくれたのだろう。

 阿部さんの頬に手を当てていることに気がついた。大人らしい肌だが、少し髭が出てきていて可愛かった。


「ん…あ…。」


 彼は目を覚まし、暫くの間お互いを見つめ合った。そして、


「風呂、入ろうか。」


 僕は無言で頷き、涙で汚れたシーツを回収しようとする。


「あぁいいよいいよ。俺がクリーニング出しとくし。ほら、服脱いで。」


 彼は気遣いに手安くあしらって僕のパーカーとシャツを脱がせた。まるで親子じゃないか…。

 次の瞬間、阿部さんも脱ぎ始めた。


「えっ一緒に入るの!?」


「うん。嫌かな?」


 しかし人の家に招かれている上に男同士なのだから全然問題ないはずなのだが、彼の背中や程よくついた筋肉を見て顔を赤くしてしまう。

 彼は振り向いてきょとんと眉毛を上げた。やっぱり入るそうな。


「うん…分かった。」


 彼は僕の身体を両手で脇から持ち上げて椅子に座らせた。後ろからシャワーを取り出すが、鏡に映った彼の表情は少々やりづらそうだった。


「椅子もうひとつ要るな…。ん、いいや。」


 彼は妥協した様子で僕をまた持ち上げて彼が椅子に座り、僕を片足の太股に座らせた。

 それを颯爽と当たり前のようにされると恥ずかしくなる。右手で持ったシャワーから水を出し、僕に浴びせてくる。それと同時に左手で髪を触る。十分水が浸透すると、シャンプーを取り出す。


(これが阿部さんがいつも使っているシャンプー…)


 彼は両手の指の腹で優しくシャンプーで僕を洗ってくれた。とても気持ち良い…。ただ指使いが何かを狙っているような動かし方で何かをされるんじゃないかと少し不安だった。


「目瞑って。」


 彼の一言出た指示に、風呂に入ってから全く話していなかったことに気がついた。そんな事を考えている内に僕の髪の毛は綺麗に洗われていた。

 鏡に映った彼は僕を少し観察しながら作業をしているのだが、何を考えているのだろう。


「よーし次は身体。」


 彼は淡々と作業を進めていくが、僕はこの先が心配でならない。

 泡立てられたボディーソープをタオルで僕に押し当てる。タオルではなく泡で洗うように優しく触ってくれた。


「あっ…下は僕がする!」


「いいよ。全部してあげるから。」


「いいって。」


「あっ…」


 彼は僕の股関節にタオルを通してじわじわと泡と共に迫ってくる。

 ついに触られてしまい、僕は両手で顔を覆い隠すよ。顔は林檎のように真っ赤になり、泣いていてしまいそうになる。


「そこばっかり…」


「大事なとこなんだから。念入りにね。」


 こういう時どうしていればいいんだろう。泡のせいで余計に気持ちいい…。

 いつの間にか僕の身体は羊のような泡だらけの身体になってしまっていた。


「壁に手ついて立って。」


 僕は抵抗する術なく指示に従うと彼は僕の背中に密着し、顔を僕の肩に乗せ、後ろの割れ目に泡立てたタオルを滑り込ませた。形状、一直線に洗っていくのだが、とある場所で止まって撫で回す事が何度かあった。


「も…いい…いや…」


「駄目。ここも大事なところでしょ。もっと洗ってあげるから。」


 耳元で囁かれ、壁に手をついていたので顔を隠しきれず真っ赤な顔を見られてしまう。今彼と僕は何をしているんだろう。


「もう…脚いっていいから…。えっ」


「どうした?」


 後ろに一瞬硬い物が当たったような…。まさかとは思うけど…。


「なんかあったなんか…。」


 頭の中が混乱しながら僕はとにかく報告する。彼は両手で僕の腰を掴む。

 また当たった。次は擦り付けられてる。


「林くん可愛すぎる。でも責任はちゃんと取らないといけないんじゃない?」


「責…任…?」


 まだ彼は硬い物を押し付け擦り付けてくる。太股の裏を洗いながら、よく形を分からせるように様々な角度から泡で滑る身体に何かを押し当てる。


「ん…も…それやめ…て…」


 言っても分からないようなので、僕は後ろに逃げようとした。しかし、すぐさま彼は僕の背中を身体で壁に圧して逃げられないようにする。必然的に硬い物は完全に僕の後ろに密着した。


「逃げないで。これだけ熱くしておいて放っておくのは良くないよね。」


 密着しているせいで彼の胸の鼓動がよく伝わってくる。

 彼は僕の腰にまた両手を添えて角度を指導する。

 僕の脚の間は硬い物がゆっくりと行ったり来たりして擦れていた。それと同時に口を塞がれ、身体の自由を奪われていく。


「んっ…くっ…」


「はっ…はっ…」


 速度が大分上がってきた。一向に彼の勢いが止まる気配はない。

 だが僕は立っていられなくなり、背後から力を奪われ、座り込んでしまう。彼は真顔で僕に水を浴びせて泡を取る。

 彼は僕を横にして持ち上げて濡れたまま風呂場から持ち去った。

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