裁縫の心
本命の料理を食べ終わった後、私と阿部さんはソファに座って互いに話し込んでいた。
外の夕焼けは刻々と色を濃くし始めていた。私の両親は今は私の行いに寛容で阿部さんの家に行くことも軽く許可をしてくれた。これが昔であればとにかく引き止められただろう。
「林くんって、学校だと格好良いというよりは可愛がられるタイプじゃない?なんていうか男というより男の子って感じ。」
彼は身体を横向きにして座り、肘をソファの背もたれに置いて聞いてきた。
「そうかな…?」
「うん。そう見える。女子からも積極的に話しかけられそうな感じだし。先生って基本は生徒が男ってだけで世話の焼けるように感じて面倒そうな対応するけど林くんは対等に接せられてそう。」
「あ…それはあるかも…。むしろ心配されてたかも…。」
思わず自分の心境を通して過去の情報を少し吐露すると、阿部さんは横に座っている私の背もたれに腕を回してきた。
こういったことが初めての私は、暫くの間沈黙してしまった。真っ直ぐ座っても居たので、彼の寛容的な姿勢に対して距離を感じてしまう。
「阿部さんって、結婚しないの?」
「え?」
しまった。急に不躾な問いを投げかけてしまった…。おそらく私の中では彼はまだ謎のままなのだろう。無意識にずっと裏でぐるぐると彼の素性についての謎が回っていたのでないか。
「そ、そうだなぁ…。良い人はいるんだけど…」
「こんなに優しい人に良い人って言ってもらえるのは羨ましいね。」
私は心底そう考えた。これだけ立派な人に好かれるのはそれなりのスペックがあるのだろうと。
「でもね、安易に心に触れたら俺の前から消えちゃうくらい弱くなっちゃったんだよね。」
その話を聞いて私は納得した。彼がなぜ私にこれ程まで優しくしてくれるのか。しかし、最初に会ったときは私の状態なんて分からないだろう。そこは多分フィーリングかな。
「その人、無事に治ると良いね…。」
「うん。俺の手で助けてあげたいよ。」
私はここから眠くなってうとうとしてしまった。生活リズムが悪い上に運動不足でもあるので外出しただけですぐ疲れてしまうのだ。阿部さんに申し訳ない気持ちでいっぱいなのだが、この気持ちさえも夢に包まれてしまう。
初恋の人の家以外で寝ることも元々あった一途の恋に対する裏切り行為に他ならないというのに。昨日しっかり寝ておけばよかった…
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