第3話 前検日

 前検日とはいっても、どの斡旋でも初日は1レースの6号車が定位置の僕のところにインタビューに来る物好きなどいない。

 だから、ただ入って、ただ食べて、ただ練習して、ただ寝るだけだ。

 今日もそうあるはずだったのだ。


 大して美味しくもない食事を腹いっぱい食べて、僕は寝ようとしていた。

 食う寝る育つ、それが競輪選手だと信じて。


 ところが今日は、寝るのを邪魔するお客様があった。

 が1人。


 ふん、どうせこのままじゃデビューから1年やそこらでクビになるから、僕を笑いものにしようと思って来たんだろう。

 前検日インタビューなど、それこそよほどの物好きでなければ見ないし、僕が出ていたところで、お前誰だよと思って聞き流すに違いないんだ。


 僕は眠そうな目でインタビューに不真面目に答えた。


「明日の競走は、四国ラインの3番手ですかね?」

「いえ、四国ラインの先頭ですね、3番手でもよかったんですが、僕なんてどうせいてもいなくても変わりませんし」

「先頭を任せられて、プレッシャーは?」

「ありませんね。いつも通り走ります。番手の先輩のためになんてこれっぽっちも思ってません」

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