第8話 無言のあいつは通信中


「希志君?……ああ、覚えてますよ。あんまり喋らなくて、友達の少ない奴だったな。どうして覚えてるかって?いつも机の上にカードとか広げてて、異様な感じだったんですよ」


 希志幸人の自宅があった地区のカフェで、級友だったという男性は早口で語った。


「じゃあ、ずっと付き合いがあるわけではないんですね?」


「つき合いも何も、学校の中だけですよ。たしか女子で一人、いつも占ってもらってた子がいましたけどね。何か家庭に問題があるらしくて、占いの結果を真剣に聞いてたな」


「北条美咲さん?」


「そうそう、その子。まあつき合ってたかどうかはわからんけど。でも俺のところに来たってことは、やっぱり大人になっても友達とかいないままだったんだな、あいつ」


 私は頷かざるを得なかった。幸人の生家はすでに取り壊されており、両親の消息はつかめなかった。小中学校の担任に聞いた結果、この男性が唯一、連絡のついた同級生だった。


「じゃあ、高校を中退した後のことなんていうのは……」


「全然、わからないです。一度、別の同級生がショッピングモールで見たって言ってたくらいかな」


「ショッピングモール?」


「イベントの一つで占いをしてたみたいです。でももう十年くらい前の話ですよ」


「十年前か……」


 私は途方に来れた。隣では雷郷が何やら携帯をしきりに操作していた。


「どうもありがとうございます。……何か聞き忘れたこと、ない?」


 私が囁くと、雷郷がふいに「……おっ、あったぞ。ショッピングモールの占い」と子供のように声を上げた。


「ちょっと、何やってんのよ」


「占いのコミュニティでそれらしい人を知ってないか呟いてみたのさ。そしたら希志って名前に聞き覚えがあるって人がいたんだ。……なになに、『その人はたぶん十年くらい前にプルートっていう名前でお店を出していた男性です。線が細くてはかない感じだったんで印象に残っています』だって」


「仕事が早いわね……でも聞きこみ中はやめて頂戴。失礼よ」


「僕のことなら気にしなくていいよ。一気に集中して片付けるスタイルだから」


 私は呆れ果て、男性に詫びるとそそくさとカフェを後にした。


「……じゃあ、その人に会いにいくのね」


「そういうこと。三途之市の『浮遊空間』っていうビルだってさ。仕事中だけど時間を裂いてくれるって」


「なんて人?」


境麻美さかいあさみさん。お店ではベラドンナっていう名前で仕事してるみたい。お店の名前は「宵闇模様」。とにかく行ってみようぜ」


 雷郷はそういうと、最寄り駅の方向にすたすたと歩き始めた。


 ――まったく、有能なんだかポンコツ何だかわかりゃしない。


 いつも後ろでぼやいている雷郷が背中を見せているというだけで、私は妙に新鮮な気分になりかけていた。


             〈第九回に続く〉

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