夏祭り
第1話:美しかった
この高校に入学して初日の事だ。
俺は中学時代の友達と2人で自分が入るクラスを確認していた。
確認方法は上位から下位のクラスへ順々に確認していく感じ。
「真ん中のクラスに僕の名前があったよ。君は?」
「……俺の名前は真ん中のクラスには無かったよ」
「そうか。となると、上位ではないことが確定したね。君は馬鹿だからなぁ」
「そうだけど正面から言われるのはムカつくわ」
そう吐き出しながらクラスを確認していく。
そして確認できたのは、
「俺、最下位のクラスかよ……」
「あらら。それは残念だ」
そう言う友人は今にでも笑いだしそうな笑顔。
「だったら、もうすこし悲しそうな顔をしろよ」
「善処するよ……ぷぷうぷ!」
「言ったそばから笑い出すなよ!」
クラスが確認できたので、教室に向かう。1年生の教室は他の教室よりもかなり遠い場所にあるらしく、しばらく友達とだべりながら進んだ。
「しかし、お前が真ん中のクラスとはな。中学だと上位じゃあなかったっけ?」
「上位って言ってもギリギリという感じだよ。あの中学だと平均70点くらいでも上位に入れてしまう感じなの忘れていた?」
「まぁそうだけどさ……なら一番上のクラス。それも学年1位とかだと、どんだけ頭が良いんだろうなぁ」
「どうなんだろうね。まぁそれを確認できる立場に僕らは立ってないし分からないや」
「ああ、でも。学年1位は今日見れるかもしれないよな」
「……そうか、成績優秀者は1年生を代表として何か言うんだっけ?」
そんな話をして、別れる。
その後は担任の先生の話などを聞いた後、体育館へ向かって入学式。
入学式で俺らが入場する際、壮大に歓迎された。生徒数が多い分、力を入れることが出来たのだろうか。
その後はなんか色々あった。
雑すぎる説明かもしれないが、そのくらい雑に説明しないとつまらなくて死にそうになるからだ。皺がびっしりと書き込まれた人間たちがぐちぐちと何かを吐き出しても、その言葉は右から左に耳を通り抜ける。頭には何も残らない。時間のムダだと自然に分かってしまう。
眠りそうだ。だけど態度ぐらいちゃんとしとくべきだろう。
そう思って今日の夕飯を考えることで時間を潰す。……スマホ触りてぇ。
『続いては、1年生代表――』
そんな声が耳を刺す。カタン、カタンっと床を踏みしめる音が左から中央に向かっていく。
1年の代表っという事は、学年1位ってことだろう。どんな人間だろうか?
そう思って正面をしっかりと見る。
女の人だった。綺麗な人だった。美しい人だった。
『——』
その人が声を出す。内容は覚えてない。だけども先ほどの大人たちのどうでもよい話と違い、俺は彼女の話をしっかりと聞いていた。
しばらくすると彼女は一歩下がり、お辞儀する。周りからパチパチパチと拍手が鳴る。そうして彼女は退場していく。
俺はその姿をぼぉっと眺めるしかなかった。
@
懐かしい夢を見た気がした。彼女と出会った日の事だ。……いや出会いと言うには遠距離すぎるし、彼女は俺の事を認識していないだろう。一目ぼれした日というべきか。
そんな事を考えながら俺は浴衣に着替えていた。
今日は地元の夏祭りの日であった。
いつもは浴衣で行くなんて事はしない。普段着で行くことが普通だ。当たり前だ。
ただ、彼女の家は違うらしく浴衣を着る。
つまり祭りを回る際、彼女は浴衣で俺は普段着になり、とてもミスマッチ。マッチさせるには俺が浴衣を着るしかないのだ。
数日前にレンタルした浴衣をネットを見ながら着替える。着替える知識は俺には無い。ネットに頼る、頼り切る。
彼女ならばこういうのを見なくても着れるんだろうな。夏祭りのたびに浴衣になってるんだから。っと思ってから気づく。
「彼女に手伝ってもらえば良かったじゃん」
そうすれば苦労も減るし、なにより彼女と触れ合うことができる。だが、その考えが出たときにはもう着替え終わっている自分が居た。
あえてここで浴衣を脱いで、今から彼女に電話で「手伝ってくれ」と頼むことを真剣に考えながら、俺は家を出た。
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