第5話:お悩み相談とブチ切れ

 太陽は登り、日が窓から差し込んでくる。その日で目が覚める。

 時間は朝6時。朝ご飯を食べる時間ですらないが、目が覚めてしまった。

 目をこすると、ポロポロと目ヤニが落ちた。……いや、目ヤニと言うには白いし量が多い。昨日泣きながら寝たのでその跡だろう。

 ……彼のツイッターを確認しようとして、止まる。

 確認したら、ダメな気がした。

 昨日は肉体的な疲れもあってか、そのまま寝てしまった。

 でも疲労がない今確認したら一体どうなるのか?

 何だか取り返しがつかない事を言ってしまう気がする。

 ちょっと前に私の嫉妬でおかしなことになったように、しばらく彼と一緒に過ごせなくなるかもしれない。

 それは嫌だ。

 感情を押し殺せ。彼に当たるな。嫉妬するな。

 不幸中の幸い、今は旅行中。観光してれば気分が楽になるかもしれない。

 ならば、気が楽になるまでは確認しない方が良い。

 そう思って、ベッドから出て顔を洗いに行く。

 洗面所には先客がいた。姉さんだ。

「姉さん。おはよう」

「おはよ~……あれ、妹ちゃん具合悪い?」

「……え?」

「まぁ慣れない環境下に居るから仕方ないっちゃ仕方が無いねこれは。今日の観光休む?」

「……休まないわ。まだ見たい場所があるから……」

「そう? でも無理しないでね」

 気分が悪いままの観光ほど詰まんないものは無いからさ、なんて言いながら姉さんは洗面所から出ていく。

 ……今の私は見て分かるくらい、気分が良くないらしい。


 @


 バイト先の女性二人に相談してみたところ、

「はー。それ彼ぴっぴ確定でしょ」

「そおそお、写真でそんな嬉しそうにしてるなんて確定だよねぇ」

「ていか相手、白人でムキムキとか今彼捨てるしかないでしょ」

「は、はっ、そうでっ、すか……」

 心が折れた。

 彼女たちは軽快に、昨日のドラマの感想を言い合うかのように一方的に感想を投げてくる。心をえぐってくる。

 視界が濁る。体にかかる重力がグワングワン揺れる。片手を机に置いて体を支える。喉がかわく、きぶんがわるい。

「まぁ、今彼よりも良い相手が見つかったらぁ、そりゃあ――ってぇ泣いてるじゃん?」

「ありゃま、女々しいなあ」

 そんな俺を気遣っているのか、それともからかっているのかは分からないが、彼女らが背中を摩ってくる。頭を撫でてくる。

「しかし少年。人間は前に進める生き物なんだよ。彼女は前に進んだんだ。君も前に進むべきではないか?」

「……そうは……いっても……」

「はいはい、切り替えが大切よ。いつまでも立ってもナヨナヨしてない」

「……でも」

 これはどうしようも無いと思うんだ。この問題は合理とかそういう物を超越した問題だと思うんだ。

 喉の渇きを抑えるためにアクエリアスを口に含む。

「だったらぁ、私が恋人になってあげようかぁ?」

 むせた。

 ごっほごっほと唾を吐き出す。

 彼女はいったい何を言っているのだ? 

 ひょっとして俺を慰めるために言ってくれたのか? ……いや、多分からかわれているのだろう。そう考え、返答する。

「……はぁ、そういうのはいいです」

「はは! 振られてやんの!!」

「うわぁ傷付くなぁ……恋人って言っても今日の昼だけだからぁ」

「……なんで、ですか?」

「近くのカフェで、恋人限定メニューがあるから食べたいんだってさコイツ」

「そぉそぉ! ねぇ頼むよぉ、今彼とは遠距離恋愛中だからさぁ」

 ……俺を慰めるためじゃなくて、自分のために言ったのかよ。ちょっとムカついた。

 でも、まぁ、

「……良いですよ。一応、悩み相談してくれたので」

 俺は外出の準備を始めた。


 @


 狙い通り、観光をしていくうちに気分が少しずつ晴れて行った。

 最初の方では家族から休め休めと言われたが、ホテルに戻る時には「ご機嫌だね」っと言われるくらいになった。

「じゃあ、確認しても大丈夫よね……」

 そうして彼のツイッターを確認する。

『昼ご飯に恋人限定メニューのカルボナーラを食べたんだけど、取り皿が無いのが辛い』

「……もしもし私よ。恋人限定メニュー美味しかった?」

 私は彼に電話を掛けた。

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