第7話:喜んで良いのか分からないハッピーエンド
テストは午前中で終わった。
俺は急いで荷物をまとめる。そして彼女のクラスへ走った。
とにかく彼女に感謝の気持ちを伝えたかったのだ。
だからそれを少しでも早く伝えるために教室に入り――顔面を殴られた。
「――タッ?!」
よろける。倒れそうになるが、その前に服を引っ張られた。
「何で殴られたか分かる?」
殴って掴んだのは彼女の友達の、いつも元気いっぱいな女子だった。
「へ? 何でって分から「あなたのせいで彼女は一限目のテストが受けられなかったのよ!!」
「……受けれなかった?!」
「そうよ! チャイムが鳴った時点で彼女はまだ廊下に居たのよ! それで受けることが出来なかった!!」
頭が真っ白になった。
そっか、そうだよな。玄関口に近い俺のクラスでギリギリなら、遠いクラスに属している彼女は間に合うはずはないよな。
「あんたのせいで――」
「ちょ!? 何してるの二人とも!」
もう一発ぶん殴られそうになった時、彼女がやってきた。
「何って分からないの? この甘ったれた奴を――」
「私が勝手にやったことよ! テストが受けられなかった原因は私自身にあるの!」
「……だとしても、私はコイツを許せない!」
俺を離して、叫ぶ。
「許したくない!!」
そうして教室を出て行った。
俺の顔を彼女の方へ向ける。
「……」
彼女の雰囲気はいつも通り。本当に怒ってないのか? 俺のせいでテストを受けられなかったのに?
彼女はそんな俺の心情関係なしに言葉を出す。
「私たちも出ましょう。周りに見られちゃってるから」
「あ、ああ」
俺たちも教室を出て、そのまま帰り道へ足を進めた。
「……」
「……なぁ」
「なに?」
「本当なのか?」
「……うん」
「……そっか。……ごめんな」
本日二度目の謝罪。
つくづく自分がダメな奴だと自覚させられて嫌になる。でもしないといけない。しなくてはならない。当たり前の事だ。
「謝らなくて良いわよ。私自身の選択でそうなったのよ。貴方は悪くない」
「俺が悪い。俺がちゃんと起きていれば――いやそもそも」
「そもそも?」
「ほら俺ら最近、一緒に居なかっただろ。一緒に居た時だった今回の出来事は起こらなかった」
「……危ない時間になったら私が何時も起こしてたから?」
「まあ……そうだけど……」
我ながら酷い理由。でも、一緒にいた時ならば大丈夫だっただろう。だから、
「俺が悪い、悪い過ぎる。俺がしばらく離れようなんて言わなければ良かった」
「もしもな話なんて無意味だと思うのだけど」
「確かにそうだけど――ああ、糞」
頭を掻きむしる。
俺が言いたいのはこんなことじゃない。
「考えが纏まってなさそうな顔してるけど大丈夫?」
「大丈夫、もう結論だけ言うよ……」
目を合わせる。
「つまり、俺は謝りたいんだ」
「謝るって、だからそれは私が原因だと「いやそれもあるけど」
「あるけど?」
「ほらあれ、あれだ。……変なプライド燻ぶし続けて、会うのを辞めようなんて言い出してごめんなさい」
謝った。
顔を思いっきり下げたので、彼女の表情は分からない。言葉も無かった。
「……ふふふ」
あったのは笑い声で、
「こっちこそ、変な事で嫉妬して、貴方を傷つける真似してごめんなさい」
謝罪だった。
それを聞いて俺は、
「いや、こっちの方がごめんなさい」
「ふふふ。こっちの方が」
謝った。
お互いに謝って、謝り、謝りまくった。
そして、お互いに謝る種が無くなり切った後は――いつもの俺たちに戻った。
@
日は進む。
テスト週間が終わり、彼女の友達にまた殴られ、テスト返しを終えると、残す日は終業式。
「いよいよ明日から夏休みかぁ」
「二人で海行くの楽しみね」
「その前に水着を買いに行かなきゃな」
「私はスク水でいいけど」
「海辺にスク水とか周りから浮くぞ」
そんな会話をしながら自転車を進ませる。
……しかし、なんというか、
「人が多くないか? こんな朝早くから学校に人が来るんなんてな」
通学路の最終道である坂を下りながら、そう呟く。
「あれ、知らないの?」
「え、何が?」
「今日、クラス発表が張り出されるわ」
「クラス発表?」
「……まさか今年から学期ごとにクラスが変わる事、知らなかったりする?」
「……知らない」
笑われた。そりゃあもう盛大に。めっちゃ恥ずかしい。
@
そうして学校に着いて、クラス発表を見たのだが、
「マジか……」
俺は一番上より一個下のクラスだった。
一番上では無かった。
「まあ、平均が90点くらいだったしそうなるか……」
「あら、私と一緒のクラスになったの?」
「……え?」
「私も二番目のクラスね」
彼女は嬉しそうに答えた。
……そっか、彼女は一つテストを受けれなかった。つまりテストの点がその分下がったんだ。
だから彼女は一つ下のクラスに配属されたのか。
「ふふふ。これで二学期は一緒に授業を受けれるわね!」
彼女は嬉しそうだ。
でも、これは、
「……俺は喜んで良いのか?」
「私は嬉しいけど?」
「……そっかー」
俺は何ともいえない気持ちになった。
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