第6話:あまりにも致命的な出来事
こうしてしばらくの間、俺たちは会うことはなかった。
でも勉強という繋がりはあった。
テストもどきがポストに入れられ、解いて答え合わせ。そして下駄箱に入れる。繰り返し。
毎朝、俺の家に入れに行くのはメンドクサイだろうと、せめて学校の下駄箱に入れた方が近くて良いだろうと、手紙を入れたこともあったが無視されたり。
お礼代として千円札を入れて出した事もあったが、次の日のテストもどきと共に返されたりもした。
人の好意をいったいなんだと思っているのだろうか。一方的に与えられてばっかりで何かムカついたり。
まあ、何というか、一緒に居ないだけでいつも通りの生活が続いた。
俺の気持ち、彼女に会ったら暴言を吐いてしまうだろうという気持ちも変わらないまま。
「……」
そして今現在。テスト前日。
「……ぁあ! くっそ!!」
俺は悪態をついていた。
テスト勉強は頑張った。頑張ったつもりだった。
でも実力はというと、平均80点台という所だ。
彼女がいるクラス。一番上のクラス。トップクラスに行くには平均95点は欲しいのに、足りない。
「少しでも多く、勉強しないと……!」
だから、俺は、勉強に更に励んだ。
だから睡眠時間を削った、削ってしまった。
@
「——起きて!!」
耳に響く大声で、俺は起きた。
ってこの声は、
「なんで、お前が――」
彼女だ。彼女がいた。
なんで、どうして。どうやって。
そんな疑問を問いかけるよりも早く、
「今8時、遅刻しちゃう!!」
絶望が提示された。
「え、寝坊!?」
「そう! だから早く!!」
朝ごはん、見た目。そんなものを気にすることなく、カバンを背負い外に出る。
最悪だ、なんでよりによってテスト日に寝坊だなんて。
うちの高校では、テストは時間内に着席できなくては受けられない。なんらかの用事などがあれば別だが、寝坊はそれに当てはまらない。
急いでペダルを漕ぐ。
赤信号であっても、車が通ってないなら突き進んだ。
足が悲鳴を上げる。辛い。
「何してるのよ! もっと漕ぐの!」
彼女が叫ぶ。はあはあっと荒い呼吸が聞こえる。
運動神経抜群の彼女であっても息が上がっているようだ。
「頑張るよ……!」
学校まで後もう少し。彼女の家を通り過ぎ、後は下り道のみという所。
ここでペダルを思いっきり漕いでもあまり意味はない。流れに身を任せる。
おかげか呼吸に少し余裕が出てきた。会話も何とかできそうだ。
「どうして?」
「え、何よ?」
「いや何で俺んちまで来たんだよ」
「貴方がなかなか学校に来なかったからよ」
「電話で「掛けたけど応答しないから」
「……そっか」
罪悪感。俺が全面的に悪い事なのに、彼女はここまでの事を俺にしてくれた。
俺がくだらない事で怒り続けているのに、彼女は俺の事を思ってここまでの事をしてくれた。
彼女自身が遅刻するリスクがあるっていうのに。
「……ごめん。ごめんなさい」
謝りの言葉しか出なかった。
「……どうせ遅くまで勉強していたのでしょう」
うなずく。
「だったら謝らないで。追い詰めた私が悪いから」
「お前が追い詰めたわけじゃあないだろ。俺が勝手に――」
「そうね、勝手ね」
「ああ、俺の自分勝手な感情だよ」
「……でも嬉しいのよ私のために頑張るっていうのが」
だからこうして手助けをしてるの。
そう言った彼女は美しく、
「……ありがとう」
俺は惚れ直した。
@
「じゃあ、がんばって!!」
「ああ!!」
キンコンカンコン。チャイムと同時に俺は席に着くことが出来た。
テストに間に合ったのだ。
昔「すイエんサー」で運動後の頭脳は通常よりも回転するとか言ってたっけ。なんて思いながら必死にテストを解いた。
だから気づかない。
俺のクラスは学校の玄関口に一番近く、彼女のクラスは逆に遠い。
俺がギリギリならば、彼女は――
そこまで気づかない。気づくことは無かった。
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