第5話:私はいつも通り行動するだけで良い

 「ごちそうさま」と言い終わって何分経過したのだろうか。

「本当に感動的なんだって、その映画。一度見てみたら?」

「ははは……機会があれば行こうかな……」

 クラスメイトの話は長かった。

 興味がない話へ、興味がない別の話へ。どんどん移り変わって止まることはない。むしろ加速してる。人間そこまで口が回るのかと驚くばかりだ。

「だったらさ、一緒に見に行かない?」

「え?」

「俺がその機会になってやるからさ」

「えーっと……」

 何回目なのだろうか、こういうお誘いは。

 そう彼は、私と一緒にどこか行こうと何度も何度も誘ってくる。

 そのたび何らかの理由をつけるのは非常にめんどくさい。彼氏の事を盾にしても、

「彼の事は忘れてぱぁっと友達同士で遊ぶことも大切だよ。彼氏の事ばかりじゃあ視野が狭くなっちゃうだろう?」

 なんて事を言って誘うのを辞めてくれない。

「なぁ良いだろ? 一緒に行こうぜ!」

 この映画の誘いはどうすれば良いのかな? なんて事を考えている時だった。

「なーに、話してるのかっなぁあ!!」

 生きよいよく走る音と声。振り返る瞬間抱きつかれる。苦しい。ので手で押し抜けた。

 抱き着いた相手は、私に「ばぁっか!」とか言った知り合いの女子だった。

 いつも元気はつらつな彼女だが、今回の抱き着きは何なんだろうか。

「なんで急に抱き着き「うあ! なんか変な人が居るけど誰?!」

 彼女は私の言葉を無視して、クラスメイトの彼の方を指さした。

 しかし変なのって。クラスメイトも困惑しているわよ。

「ひどいなぁ。流石に変なのって言われると傷付いちゃうよ」

「いや! 変なので十分!! 私の友人を狙っている奴はみんな変態です!」

「え? いやっ狙ってなんかないよ!! ただ、なんか寂しそうだったから話かけてただけだって!!」

「『一緒に見に行かない?』……だっけ?」

「はぁ?」

「ふふん。貴方が5回ほど友人にデートを誘っているのは全てオミトオシなのだよ!!」

「いや、それは「やかましいやい!!」

 彼女はカバンをぶんぶん振り回し、クラスメイトに当てる。「いげぇ!!」なんて面白い悲鳴を上げて彼は逃げていった。

「どうだ! まいったか!!」

「いや……あなた何してんのよ……?」

「害虫駆除よ!!」

 鼻息を上げてそう宣言した。

「いや害虫って……」

「害虫だよ! あなたを狙う男は全部、害虫!! そして私は貴方のボディーガード!! 脇がゆるゆるでスキ入る隙間を埋める貴方のボディーガード!!」

「そ、そうなのね」

「そうだよ! 私が防げなかった害虫は一匹しかいないよ!!」

「……その一匹って?」

「もちろん――!」

 私の彼氏の名前を言ったので、彼女の首をしめた。

「ぐえぇええ……。酷いよぉ」

「彼の事を虫扱いされた罰よ」

「くぅう……! でも私は変わらない!! 害虫から守る!! 貴方が変わっても私のやることは変わらない!!」

 彼女はそう自分自身に言聞かすように宣言した。

 貴方が変わっても私のやることは変わらない……ね。

 ……そっかぁ。

「ふふふ」

「うわっ。なんかいきなり笑い出した?! ……ひょっとして私の言葉がそんなにオカシイの? それはあんまりだぁ!!」

「いや違うわよ。逆」

「逆?」

「うん」

 私に気づきを与えてくれて嬉しくなったの。ありがとう。

 そのように言葉を発した。

 そうだ。やることは変わらない。貴方との関係が少し捻じれたとしても、やることは変わらない。


 @


 朝6時。夏の日光が目に刺さり起床した。

 学校に行くために支度を進める。朝ごはんなんぞインスタント味噌汁一杯で十分。

 ただ見た目には少し気を入れる。変な格好をして彼女に笑われたくな――いや彼女とは多分、しばらく会えない。

 会いたいと言われれば会いたい。だけど会ったら暴言を吐くだろう。一晩経った今もそれは変わらない。変わることはなかった。

「……もうどうでも良いや」

 服は適当に。ぼさぼさな髪の毛も直さずでいいか。

 それで玄関へ向かう。

 玄関に着くと、ポスト入れに何かが入っているのが見えた。

 中を見てみるとそこには茶封筒。中身を見るとそこには、

「テストもどき?」

 その答えと解説、そして手紙。

「今日の勉強内容……ね」

 そこにはテストの自己採点が終わったら下駄箱に入れておいてくれと書かれていた。

「ははは!」

 やっぱり見た目には気を遣おう。

 そう思って自分の部屋に戻った。

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