夏休み編

海水浴

第1話:初日は記念に徹夜カラオケとか行ってた

 夏休み初日。

 俺たちは近くのデパートに行って、

「これカッコよくない?」

「……男がピンクって恥ずかしくない?」

 水着を選んでいた。……なぜか男の俺の水着だ。

「ピンクは自身の現れらしいわ」

「……だから?」

「プライド高い男にはぴったりなものじゃあないかしら?」

「……ごめんなさい」

「何について謝ってるのかしら?」

「……変なプライド燻ぶってしばらく会うの止めようとか言ってしまってごめんなさい」

「ふふふ!」

 テストの件はこんな感じに冗談に出来るくらいになった。

 ただし、彼女の友人の前でやると殴られるが……まぁ、この件でギスギスすることは一切なくなった。

 だからと言って何回も何回もこの件でいじられるのは流石に疲弊する。

「じゃあ、これなんてどう?」

「なんでアンパンマンがプリントされてる奴なんだ?!」

 しかも彼女のセンスは何処か可笑しい。

 何が可笑しいのかは具体的には分からないが、とにかく可笑しい。

 と、いうか。

「それより、お前の水着選びたいんだけど」

「貴方の水着を選んでからで良くない?」

「俺は最悪、家にある奴で良いけど、お前はスク水しか持ってないだろ? 優先順位はそっちが高い」

「うぅ……」

 そして決していう事が出来ない理由が一つある。

 ——ペアルックならぬペア水着。

 何を言っているんだとか言われそうだが(彼女に言われたら辛い)そこには理由がある。

 うちの高校は制服は無く、自由だ。

 俺は基本ユニクロ装備だが、彼女は制服――俗にいうなんちゃって制服だ。

 なんで制服なのかは両親の勧めらしく、その制服を作るのに俺のユニクロ換算にして、約10倍のお金がかかってるなそうな。

 だから私服にしずらいらしく、休日どっかに行くときですらその制服を着ている。ゆえにペアルックなんて無理だ。

 でもペアルックしたい!!

 学校でペアルックカップルを見ると、その欲がバンバン出る。夏休み前というカップル大量成立デーだったのでその比率は半端なかった。「俺らは出来ないのに……」っと嫉妬もヤバかった。

 だからペア水着。

 別に俺が女性ものの水着を着るとかではない。なんとなくデザインが似ているとか、色が一緒程度で良い。

 それを彼女に気づかれずに達成するには、彼女に先に買わせて、後から買うしかないのだ。

「で、でも。先に男水着コーナーに来ちゃったから……」

「優先順位を考えよう!!」

 だから、多少乱暴かもしれないが、彼女の腕を引っ張って女性水着コーナーへ向かった。

 ……しかし何故、彼女はここまで俺の水着にこだわるのだろうか?

  「……ペア水着したいのに、どうしようかな……」


 @


 女性水着コーナーで、彼女のセンスは爆発していた。

「これ可愛いくて良いわね」

「……」

 手にしたのは黄色のビキニだ。

 なんか一杯フリフリしたものが付いているけど。右胸にあたる所に謎のゆるキャラ(カガミモチ君?)が印刷されているけど。

「もうちょっとシンプルなモノにしない? なんかさ、ほら、この水着ってゴチャゴチャしてる気がするんだ」

「でも可愛いわよ?」

「……」

 ごめん。ものすごく子供っぽい。

 というかこの水着売り場何なんだよ。なんでこんな子供っぽい水着が大人サイズで売ってるんだよ。

 でもそれを彼女に言うのは止めた。もし言ってしまったら彼女が「わたし……子供っぽい……?」って悲しみそうだからだ。

 だからこちらから提案して、なんとかするしかない。

「俺はこういうシンプルな物が良いかな……」

 そう言って黒一色な水着を選んでみる。

 クールな見た目な彼女にはこのくらいシンプルな物が似合いそうだ。

 しかもペア水着にするとき、楽に水着を選べそうだし。

「えー。それ地味過ぎな――良いわねそれ!」

「へ?」

「竜じゃん竜!」

 慌てて見てみると全体に広がる黒に隠れるように、竜が若干薄い黒で印刷されていた。

「……小学校のときに使う裁縫道具セットみたいなデザインだな」

「ああ! それカッコいいデザインだったよね!!」

「……」

 気付かなかったとはいえ俺の提案。引っ込めずらく、これにするなとか言えず――それが購入された。

「じゃあ、貴方のを選ぼうね」

「……あぁ」

 俺の水着も裁縫道具ドラゴンデザインとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る