第7話 エルフの村。

 無事あの大犬を退治する事が出来た俺達は、村で残りの時間をのんびりと楽しんでいた。

 期限は一週間と決められている。

 この村からもそろそろ帰らないとならない。

 村の人達も積極的に話しかけてくれたり、子供達も俺達の登ったりと、全員が良い人だと報告出来そうだった。


 万が一の事があるかもしれないと、軽い鎧と武器をつけたまま、時間をかけて帰り支度をしている俺達に、あのリーファが用事があると、服を引っ張るのだった。

 まあ、引っ張ってるのは主にラクシャーサの服なのだが。


「’$%$##(%()!!」


「えっ、何んだ? ついて来いって言ってるのか?」


「お前さんは気に入られていたからなぁ、礼でもしてくれるんじゃないのか? 一夜で良いから抱いてくれとな」


「な、何言ってんのドル爺、そんな訳ないだろう! リーファとはただの友達だって、変な事言うなバカぁ!」


「ハッハッハッ、照れんでもいいわい」


うるさい、もう黙ってろ!」


「ラクシャーサには残念だろうが、どうも違うらしいぞ。俺達にも来いといっているらしい」


 手招きされた俺達もそれに同行し、村の中心にある一番大きな家屋に案内され、そこを通された。

 長老でも居るのかと、少し緊張した俺だが、


「うっ、これは…………」


 どうもそうではないらしい。

 外のエルフ達とは違い、葉っぱ程度の服も来ておらず、身長は他のエルフよりも頭一つぐらい高い。

 耳は倍ぐらいに長く、目は黒目ばかりで、体毛は全身を覆い尽くし長い。

 人というよりは猿…………いや違う、これはどう考えても魔物にしか見えない!

 まさかエルフとは人ではなかったのか?!


「魔物を飼っている…………という訳ではなさそうだな」


「そんな訳があるか! どんな理由かなど知らんが、このわしが退治してくれるわ! 遅れるなよガルス!」


「このぐらいの猿なら別に怖くないから平気だよ! 任せてくれドル爺!」


「………………」


 ラクシャーサだけがそれを躊躇ためらっている。

 友達だと思っていたリーファに裏切られたと思ってしまったのかもしれないな。

 しかし状況は黒で、言い逃れなど出来ない状況なのだ。

 床には食い荒らされた人の骨と、生きているのが不思議なほど衰弱した裸の女が転がっている。

 そして俺達と同じ鎧が床に散らばっている。


 それはつまり、この村に来たのが、俺達が最初ではないのだ。

 あの大隊長が魔物と繋がっていて、俺達を餌にしようとするとは思えない。

 たぶん居なくなっていたこの兵士達の調査を含んでいたのだろう。

 だったらもう少し情報をくれても良かったものを。

 俺達は剣を抜こうと構えるが、リーファがその魔物の前に跳び出した。


「*+‘‘)!|#(’¥=^%’()#(’’#*#%%&&&&’!」


「ギャアアアアアアアアアアアアアアン!」


 何を話しているのかも、そもそも会話が成立しているのかも知らないが、その会話は決裂したらしい。

 猿の魔物はリーファの体をドンと突き飛ばし、俺達の前へと進んで来た。

 リーファはというと、壁に打ち付けられて気絶している。

 その行動を見ても、とても友好的とはみえない。

 いまだに信じようと武器も構えないラクシャーサの為に、俺達はまだ手を出さず、相手の出方を待つが、猿の腕が大きく振り上げられると、一気に戦闘状態へと移行した。


「…………あっ……」


 狙われたのは立ちすくんでいるラクシャーサだ。

 爪を立てた大きな掌が頭から振り下ろされようとしていた。


「防御は任せて!」


 そのラクシャーサの前に跳び出たのがガルスだ。

 盾に打ち付けられた爪は、ガルスの体を少し沈ませている。

 力はそれなりに強いようだが、あの犬よりは全然弱い。

 グッと踏ん張るガルスを潰す事は出来ない。


「ぬおりゃああああああああああ!」


「うおおおおおおおおおおおおお!」


 俺とドル爺は武器を抜いて斬り掛かり、猿は攻撃を諦めて壁を上って高い屋根近くにひそみ、天井の草の中に隠された石を取り出し、俺達に向かって投げつけた。


 その速度はなかなか速く、頭にでも当たれば無事には済まない。

 だが、その程度だ。

 大地を踏みしめ、体の捻りもないそれは、人の投げるものよりも遅い。


「ラクシャーサ、矢を放て! お前の弓でしか攻撃が届かないんだ、何時までも放心しているんじゃない!」


「…………うっ……うああああああああああああああああ!」


 裏切られた悲しさをも乗せ、幾つも放たれた矢は、猿の魔物へ目掛けて発射さる。

 ラクシャーサが冷静ではないとはいえ、その命中率が下がる事はなかったのだ。

 屋根の近くを移動しようと跳びまわる猿だが、その進路すらも予測され、殆どがその体や腕に突き刺さった。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 手を撃ち抜かれた猿の魔物は、物を掴めなくなり上から落ちて来る。

 そして運が悪い事に、捨てられていた鎧に頭を打ち付け、昏倒してしまう。


「終わりだよ!」


 ラクシャーサが残った最後の一矢をその頭に打ち込むと、猿は完全に死に果てた。

 残りの問題は、倒れているリーファだけである。


 このエルフ達は魔物の子供で、これからあの猿と同じような魔物になる可能性がある。

 ただ、それはタダの可能性にしかすぎない。

 姿が似ているだけで、魔物に利用されていただけなのかもしれない。

 だが言葉が違う為、俺達は彼女の言い訳も聞いてやれないのだ。

 それを決められるのは俺達だけだ。


「このリーファをこれから如何するのか、この村をどうするのか、ラクシャーサ、お前が選べ。俺達はそれに従おう」


「……私が…………?」


 本当なら隊長である俺が選ぶべきだが、どうにも選びきれなかった。

 丸投げして悪いが、リーファと過ごして来た彼女なら、この状況を選べるんじゃないかと思ったのだ。


「…………友達を、友達を殺せる訳がないだろう! 変な事を聞くなマルクス!」


「そうか、悪かったな。だったらリーファが目覚めない内に、この森から脱出するぞ」


「ああ、分かった…………じゃあさよならだリーファ、魔物にはならないでくれよ…………」


 そして床に倒れていた女性を助け出し、俺達は村から脱出したのだった。

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