第6話 三つ首をもつ炎の大犬。

 村に帰った俺達。

 色々と作戦を練っているのだが、あの大犬を倒す為には、出来る限り広い空間が必要だ。

 広い森の入り口まではかなり遠く、あそこまで誘導するのは大変そうである。


「さてと、どうするか?」


「ふむ、面倒だのう。いっそこの村で戦ってみるのはどうだ? この場なら充分に広いだろう。戦えぬものは避難させればいい。それなら被害も最小限に済むだろう」


「いやいや、駄目でしょう。もう住める家も少ないんだから、これ以上家が焼けちゃったら、村人全員外で寝ないとならなくなっちゃいますよ! こんな所で外で寝て居たら、正直危ないと思いますって」


「ほほう、ガルスにしては考えておるではないか。だが確かに後は面倒そうだな。住居を作るのも重労働だしな。」


 住民の生活が脅かされる事は避けたい。

 入り口に誘導するのも不可能なら…………


「だったらいっそ作ってみるか。村人にも手を貸してもらえれば、そこそこの広場も作れるだろう。ラクシャーサ、リーファに伝えてみてはくれないか?」


「ん、分かった。いいかいリーファ。えっとこれをこうして…………」


 地面に絵を描いて説明している。

 これである程度は伝わるだろう。

 エルフとの意思疎通はラクシャーサに任せ、俺達は六日を費やし広場を完成させたのだった。

 出来る限り草も引き抜かれ、邪魔な木は切り倒し、住宅の材料として利用している。

 広場が出来る間に入り口近くに来てくれないかとも思ったが、一度矢に当てられたからか、移動する事はなかったらしい。


 しかし六日もかかるとは、帰ったらもう一度休暇届を出したい所だが、受け付けてはもらえないだろうな…………


 作られた広場の周りには消化の為の水も用意してある、戦いの準備は整った。

 

「%$$#’)”(%%(”””!!##!」


「マルクス、たぶんあの犬を連れて来たっぽいぞ」


「お前リーファの言葉がわかるようになったのか?」


「いや、何と無く」


「そうか。 ……まあ状況からすればそうなんだろうな。なら来る前に全員戦闘準備だ!」


 俺達が構えて待っていると、グルルとうなる、大犬の唸り声が聞こえて来た。

 もう近いらしい。

 俺は一メートルもの長さを誇る大剣クレイモアを持ち、あの犬が出て来るのを待っている。


「ガルスよ、敵の姿が見えてもいきなり突っ込むんではないぞ。いいか、炎が森に当たらない中心部にまで引き込むのだぞ?」


「そ、そのぐらい言われなくても分っていたよ! あッ…………! き、来た!」


 逃げているエルフを追って、大犬が追跡して来ている。

 犬の足は速いが、エルフ達の足も相当早いらしい。追いつかれずに俺達の元へ駆けて来た。

 人がこれ程の速度を出せるのかという疑問もあるが、今は敵を倒さなければ。

 


 近くで見る敵の姿は、かなりの大きさである。

 地に足をついたままでも二メートルを超える


 広場の中心部にまで達した大犬に、盾を持ち走るガルス。


「はああああああああああああああ!」


 大盾とランスでガンと首を一つ打ち付けるも、大犬は怯まなかった。


「え、あの…………もう少し怯んでくれたら嬉しいんだけど…………」


 頭の一つを押さえているが、残りの頭二つが、ガルスに向かって牙を見せている。

 押さえている頭の一つに盾の端を噛みつかれ、牙をむいた二つの頭がガルスへと襲い掛かる。 


「嫌ああああああああああああ!」


「動けんのなら盾から手をはなさんんかい、馬鹿者が!」


 ハッと気づき盾から手を引き抜くも、タイミング的に間に合わない。

 それでも噛みつかれなかったのは、ラクシャーサが矢を放ったからだろう。

 盾をくわえたままポンと跳びあがり、それを避けると、くわえた盾をバッと投げ捨てた。


「ああ、俺の盾が!」


 後を向き、盾を求めて走り出すガルスに、大犬が襲い掛かろうとしている。

 俺とドル爺が支援に向かおうとするのだが、それを見た大犬が、ガルスを諦め距離を取た。

 

「チッ、面倒だな。如何にかして、まず足を封じるしかないか」


「さて如何するマルクス、このままでは攻撃も出来んぞ」


 この広場に大犬が来た所でエルフの皆が囲んでいるのだが、そもそもあの木の矢が効かない。

 俺達が持って来た予備の武器を渡してあるのだが、あまり期待は出来なさそうだった。


「ラクシャーサ、お前は一度離脱しろ。森に潜んで、エルフ達と一緒に矢を放て。エルフの矢に紛れさせて、鉄の矢で脚を狙うんだ」


「ああ任せろ! 行くぞリーファ!」


「%$%”!!」


 森の中に消えて行く二人を後目しりめに、大犬に迫ろうと動く俺達だが、近づけば離れられてしまう。

 その状況に、ごうやした大犬の体から激しい炎が轟轟ごうごうほとばしった。

 三つ首の全てが息を吸い込むと、轟炎ごうえんの渦が野を焼き払う。


「うおおおおおおおお!」


「ぐぬぬぬぬ!」


「ぎゃあああああああああ!」


 必至で逃げ、それを回避してみるも、背中の鎧に熱が伝わる程だ。

 じんわり温かくなっている。

 地面にある土や砂は、熱を帯びて空気が揺らめいて見える。

 真面に受ければ一発で死ねそうだ。


 だがこの攻撃を放つには、少し溜めが必要なのだ。

 ならばそれは、此方にとっての勝機! 


 そろそろラクシャーサ達の準備が出来ただろう。

 この次の攻撃のタイミングで、ラクシャーサは動きをみせるはず!


「ガルス! 盾を寄越せ、矢の軌道を確保するから俺一人で突っ込む! 二人は待機していてくれ!」


「えっ?! 一人で行くの!」


「ぬ、了解だ! 仲間の矢で死ぬなんて間抜けな事はするなよ?」


「ああ、分かっている」


 ガルスの盾を受け取った俺は、敵の正面から真っ直ぐと駆けだした。

 大犬は動かず、もう一度息を吸い込み、待ち構えていた。

 その攻撃範囲を見極め、一歩を踏み出すと、急激にブレーキをかけた。

 大犬の轟炎が目の前を覆うと、一気に後方へジャンプした。

 左腕に構えた盾が、焼きごての様に熱く、俺の腕を焦げ付かせる。


「ぐおおおおッ!」


 そしてエルフの矢が放たれ始めた。

 それを見ても大犬は動じていない。

 効かない事が分かっているのだ。

 その全てが体に当たる直前に墨とかし、体に当たると砕け散るが、その中の何本かがラクシャーサが放ったものだった。


 連射された矢は、とどまったままだった大犬の後足に殆どが命中すると、木製の部分が燃え尽きるが、矢尻の鉄は燃え尽きず、足の肉を抉って突き抜けた。

 外れた矢の一本が、俺が構えた盾を突き抜け、頬に傷をつけて後方に抜けて行った。

 熱で耐久力が無くなってしまっていたのだろう。

 もうこの盾は使えないと、俺は地面へと投げ捨てた。


「あああ、俺の盾があああああああ!」


「諦めるんだなガルス。ああなってはただの鉄くずだ。帰ったら新しいものをマルクスに買って貰え」


「そんな起きもしない未来の話はどうでもいい。脚を引きずった今が勝機だ。行くぞ二人共!」


「マルクス、今買わない宣言したよね?! 後で絶対買って貰うからね!」


 あの炎は厄介だったが、それでも足を止めてしまったこの魔物に勝ち目はない。

 俺達三人の攻撃と、ラクシャーサがによる支援により、大犬は少しずつ弱りだす。

 もうそろそろとどめを刺してやろう。


「さあとどめだ! 行くぞ二人共!」


「おうよ!」


「い、行ってやるさ!」


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」


 ドシュ! ザン! ゴッ!


 一気に接近した俺達三人の攻撃は、三つの首を同時に貫き、ぎ払らう。

 完全なる静寂と共に、力を失った大犬は、ドシャっと崩れて肉塊へと変わり果てた。


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