第二十五話
「――――と言う訳です」
「むぅ、なんと……」
「……む」
「それはそれは……」
「そのせいで俺の事がすぐばれたのか!!驚かす為、この魔道具まで買ったのに!高かったんだぞ、これ!!」
俺の話に三者三様の反応が返ってくる。
親父の反応はなんか違うが。やっぱりあのローブは魔道具だったか。使い勝手が良さそうだし、是非とも欲しいな。
「今の話は本当なのだな?」
「はい」
「むぅ、難しいな。ユーゴよ、どう思う?」
唸るように声を漏らしながら、ユーゴへと問う王様。
「下手に動くと大変な事になるかもしれません。麒麟に目を掛けられている以上、直接聞きに行く事が最善でしょう。教国の二の舞は御免です」
二の舞―――『麒麟の怒り』に触れるという事か。確か300年程前に、それで聖エレノア教国――当時はエレノア教国――は一度滅んでいたっけ。
「ふむ。グレンよ、今の話を聞くにその指輪は神具だろうと思われる。しかし断言は出来ぬ。麒麟の仰る通り、指輪やそれの関する事は直接聞くのが良かろう。それとゲッコウ達がこちらに来た時もそれとなく教会や教国に聞いてみたが、元の世界に帰った迷い人の記録は無いとのことだった」
「そうですか」
やはり鍵は麒麟か。アレともう一度戦うなんて勘弁して欲しいのだけど、そうも言ってられないようだ。
「そなたは元の世界に帰るつもりなのか?ゲッコウはどうだ?息子が気掛かりだからと帰る術を探していたようだが、グレンが残るならそなたも残るのか?」
「「……」」
親父と互いに見つめ合う。
「俺は、俺達は紅蓮に合わせる。母さんは紅蓮と会えなくなった可能性を考えた瞬間、取り乱したからな」
「その母さんは?」
「第二王妃と末姫の二人と遊んでる。何でも『母親を放っておいて、他の娘と仲良くする息子の事なんて知りません』との事だ」
参ったな。拗ねているのか。全く会いたいのか会いたくないのか。
ホントに両親が居るとは思っていなかったからな。仕方がない部分もある気がするが……。
「参ったな」
「で、どうするんだ?」
「そうだな……俺は正直どちらでもいい。こっちでもできる事はあるからな。ただ残るにしても一度は帰りたいと思ってる」
「……そうか」
俺が何を考えているのか、親父には分かっているのだろう。こちらを気遣うような雰囲気がある。
王様達も疑問を感じている様だが、こちらの雰囲気を察してか何も言ってはこない。王様を見た後に親父に視線を戻す。
「……」
静かに首を横に振り、否定が示される。
良かった、春香の事は話していないようだ。この事に関しては、自分の与り知らぬ所で勝手に話されても不愉快なだけだからな。
「良く分からぬ話もあったが、そなたらは今しばらくはこの世界に留まるという事で良いのか?」
「ああ」
「はい」
「そうか。なら今はそれで良い。込み入った話はここまでにして、食事をしながら友誼を結ぶとしよう。後の話はそう重要なものでもないからな」
思いがけず固くなった場の雰囲気を、王様がほぐす様に声を上げる。そこからは和やかな雰囲気で、食事が再開された。
まずは改めて互いに自己紹介をする。王様やジョゼ、セバスは言わずもがな。オスカーも予想通り、近衛騎士団団長・ヴィクトリアの父・ガルシア伯爵家当主。
そして最も驚いたのが、この2人。
ユーゴ・ルゥ・ヒューイット。王家に次ぐ大物でこの国の宰相を務め、四大公爵の一つヒューイット公爵家当主。そしてクロエの父。彼女何でメイドなんてしているのだろう?
夜桜月光。親父だ。何でも異世界ファーストコンタクトが王様で、盗賊の襲撃から守るのを手伝ったらしい。その縁で保護を願い出、そのまま工作・諜報・暗殺等を担う王国暗部の隊長に。
ちなみに母さんはジョゼの専属護衛メイド。母さんのメイド服姿……結構似合うかもしれない。
皆が皆、要人だった。公的には奴隷である俺の肩身が狭い。……気のせいか。
「ではグレンは、暫く正体と言うか本性は隠したままで行くのか」
「あぁ、その方が警戒されずに済むしな。だから今日見た俺の事は秘密にしといてくれ」
「相分かった。監視の名目で、そなたに信用の置ける暗部の者を影に付けさせる。緊急の連絡はそこを通じて行ってくれ」
自己紹介の後に話すのはこれからの事。俺の大まかな目的を話し、もしもの時の協力を取り付ける。
言葉遣いに関しては自己紹介の時に、公の場でなければ気にしないとの言葉をもらった。今思えば親父は全く敬語を使っていなかった。器の大きさを感じる。
他には娘に手を出すな的な事をマジ顔で言われたり、麒麟との戦闘に関して(オスカーの食い付きが凄かった)だったり、穏やか?に話が弾んだ。
「今日はここでお開きとしよう。セバス送ってやれ」
「はっ」
「儂とユーゴはすぐ仕事に掛からねばならぬ故、先に失礼する」
食事が終わり次第そう言うと、王様と宰相は早々に行ってしまった。恐らく無理して時間を作ったのだろう。
それにしてもユーゴとはあまり話せなかったな。壁があると言うより、猫を被って距離を取っているという感じだった。
ん?今変な音が。あっちは王様達が向かった方だが……気のせいか?
「……また手合わせを頼む」
「!!はい、当分先になると思いますがその時はお願いします」
オスカーも行ってしまった。折れた槍を持って。他の方法が無かったとは言え申し訳ない事をしたな。
「んじゃ、俺も行くか。母さんに何かあるか?」
「そうだな。心配かけて御免。もう大丈夫だから、と」
「ん。分かった。がんばれよ」
「おう。……は?」
消えた。パッと。
魔力を感じた。何かしらの魔法か魔道具か。そう言えば先制で不意打ちパンチ食らわしたから、親父の力知らないな。
「今のは?」
「空間魔法と聞いております」
「なん…だと……」
なんという事だ。如何にもカッコよさげな魔法に、親父が目覚めているとは。俺が使えるのなんて、復元魔法ぐらいしかないのになんという格差だ。
久しぶりに親父に対して敗北感を感じた。中学生の頃以来か。
消えた先で得意げな顔を浮かべているのが目に浮かぶ。ちくしょー。
「グレン殿」
軽くショックを受けていると、セバスから声が掛かり最後まで残っていたジョゼの方へ促される。
あれから何度か話し掛けたが、彼女は落ち込んだままだった。
理由は分かっている。
「ジョゼ、今度は母さんも入れて3人でお茶でもしよう」
誰も怒っていない事、呆れたり嫌いになっていない事などを伝え慰めた後、そんな提案をする。
「まぁまぁまぁ、それは素敵ね!」
どうやら元の調子を取り戻したようだ。
その後は一言二言言葉を交わして別れた。
一人で大丈夫なのかと心配になったが、気付けば部屋の外に複数の気配を感じる。彼女付きのメイドだろう。母さんも居たりして……いや、考えない様にしておこう。
「では、行きましょうか」
来た時と同様、セバスの案内で姫様の屋敷へと向かう。
途中、豪華な服を身に纏った人達がこちらを見ながら、ヒソヒソとしている姿が見受けられた。どうやら貴族たちにも順調に、俺に関する噂が届いている様だ。強化された聴力で容易く聞こえるその内容は下卑たもので、気分の良いものでは無いが予想していた事なので我慢できる。
「手合わせの時の事ですが……本気ですか?」
セバスの突然の質問。他人の目がある為、他の人が聞いても分からない様に問われる。
勿論俺には分かる。そしてセバスも、俺がどこまで考えているか理解している様だ。
「こう見えてアリシア殿下の事は気に入っていますから。彼女に仕えている以上、敵になったら容赦するつもりは無いです。ただ、暫くは陛下に頼まれた件に集中するつもりです」
「そう…ですか……」
人目がある為言葉は丁寧にしているが、その言葉に本気度を感じ取ったのだろう。セバスはその後、姫様の屋敷に着くまで一言も喋らなかった。
「随分と長かったのね」
セバスと共に姫様の元へ行くと、ヴィクトリアとクロエと共にお待ちだった。
「心配し……いえ何でもありません」
ヴィクトリアが怖い。だいたい予想はつく。大方流れている噂を聞いてしまったのだろう。姫様大好き騎士様としては認められない筈だ。
ただある程度は分かっていた事なので、俺に突っ掛かって来ることは無いのは有り難い。視線には人を殺せそうなほど殺気が込められているが。
「シア様、帰る前に一つ」
セバスがそう言い、姫様に何やら耳打ち。
「……それでは私はこれで」
「へ~……」
姫様の纏う雰囲気が、絶対零度を感じさせるぐらいの温度に下がった。
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