第十七話
結論から言おう。
ギリギリの戦いだった。
ひたすら無心でシスターの体を洗っていたのだが、頭から順番に足に向かって洗っていくと「んっ……あっ……はんっ」と喘いでいるかのような艶のある声が聞こえてくるのだ。そんなシスターは途轍もなくエロかった。だからと言って
感想としてはCカップぐらいの彼女の胸も含め、とにかく柔らかかったとだけ記しておこう。
そして無事に洗い終えたと思ったら、一緒に湯船に浸かる事を幼女達に強要され、その後は又も全員の体を拭きドライヤー型の魔道具で髪を乾かして、漸く解放された。どっと疲れが溜まった。
今は皆と食卓を囲んでいる。ワイワイと楽しそうに食べながらも、マナーなどはちゃんとしている。手伝いも皆が進んでやっていた事から、その辺の躾はしっかりと為されているようだ。少しシスターを見直した。
そんな夕飯のメニューはくず野菜とくず肉の炒め物に堅めのパン。どれも安くで手に入る。くず野菜はいわゆる規格外野菜の事、くず肉は挽き肉だ。
この世界の挽き肉は、動物や魔獣の肩などの主要部位以外をまとめて挽いたもので、合挽肉となり一般的に庶民の食べ物らしい。商会に居た時も8割方このくず肉だった。
こうしてよくよく考えてみると、この世界の文化レベルのちぐはぐさが目に付く。
料理においては基本的に焼いたりするだけで、時間を掛ける手の込んだ工程が存在しない。男の手料理と言ったら分かり易いだろうか。そんな感じだ。
それでいて、風呂で分かるように他の生活水準は高い。水道は整備されているし、石鹸どころかシャンプーやリンスが存在する。過去の迷い人の偉業らしいが、誰も料理に手を出さなかったのだろうか。普通、シャンプーやリンスの作り方なぞ知らんだろ。
そんな事を考えている間に食事が終わる。一人一人が自分の食器を自ら下げ、洗っていく。微笑ましくも感心する光景だ。
「遊べ~!」
「ぐふっ」
食器を洗い終わったところで、数人が突撃してきた。
正直かなり疲れが出ているからご遠慮願いたい。肉体的と言うよりも精神的に。
だが彼女達にそんなことは関係無く、結局何人かお
眠ってしまった子を寝室に運ぶ。皆でここに雑魚寝するのがデフォルトらしい。流石に俺が一緒なのは宜しくないと思ったが、またしてもリナを初め数人にごねられ疲労から逆らう気力も湧かず大人しく従った。
この際何故かシスターが隣だった。尚、風呂から上がってから今までまともに彼女と話せていない。
話し掛けようとするとそれとなく逃げらられ、かと思えば時折顔を赤くしながらじっと見つめてくる。入浴中のあれこれがまずかったのかもしれん。
布団に入って暫くは眠れない娘も居たようだが、やはり疲れていたのだろう。数分と経たないうちに静かな寝息が聞こえてきた。
「まだ起きていますか~?」
隣のシスターがひっそり声を掛けてくる。
「起きてますよ。どうしました?」
返事をしながら横向きになると、彼女もこちらの方を向いていた。
若い男女が布団の上で横向きに向かい合う。言葉にすればイロイロと勘繰りたくなる状況だが、実際はそんな色っぽさなどは無い。なぜなら時折腕やら足やらが飛んでくるからだ。
隣に寝る寝相の悪いリナの手足がぺちぺち、ぺちぺち。今日は寝られないかもしれない。
「今日はすみませんでした~」
「?何がです?」
「この子たちが思った以上にはしゃいじゃって~。嬉しかったのでしょう~。あまり遊んでくれる大人は居ませんから~」
「子供は元気な方が良いですからね」
そんな感じの話をしていると、ふとシスターの手が伸びてくる。そして、そのまま顔を撫でてきた。
シスターの表情は聖母の如く、慈愛に満ちている。
俺を照れた表情で見ていた彼女の面影はそこにはない。
「えっと……シスター?」
「あなたはここの子達と似た目をしています~」
「はぁ……?」
子供達と同じ無邪気な目と言う意味だろうか。
「この孤児院の居る子達は皆家族が居ません~」
「……」
「事故や病気で親を亡くし、売られて来た子に拾われて来た子ばかりです~。あなたはそんな子達と同じ目をしています~。とても寂しそうな目を~」
「っ!?」
「最初はその綺麗な顔にドキッとしました~。好みだったので~。でも~、暫く見ているうちに気付きました~。グレンさんも誰か親し「シスター」」
彼女の言葉を遮るように言葉を挟む。
「皆もう眠っています。起こしてしまったら可哀想です。私達ももう寝ましょう?」
暫く見つめ合う。
「……そうですね~。寝ましょうか~」
やや強引だったが、下手な話題転換に付き合ってくれた。俺がこの話題を続けるつもりが無いのを察してくれたようだ。
「それじゃ、俺は別の部屋で寝ますので」
そう言って布団を持って立ち上がる。
その際何か言いたそうな顔をするが、結局何も言わなかった。
「おやすみなさい、シスター」
「はい、おやすみなさい~……あの~、グレンさん~!」
「何か?」
「わたしは味方ですから~。いつでも頼ってくださいね~」
「……ありがとうございます」
それだけを言って部屋を出た。
幼女達と遊んだ広めの部屋に布団を敷き横になる。
「はぁ~、疲れた……」
それにしても、シスターは何と言うかズルい人だ。触れて欲しくないとこに触れてきたわけだが、不快感などは一切無かった。ただそこには優しさがあった。すべてを包み込むような優しさが。あのまま色々話したくなってしまいそうだった。
流石シスターと言うべき包容力。だからこそ彼女はここの娘達に慕われているのだろう。
そして最後、部屋を出るときに見せたあの表情。あれは以前ナンシーにも向けられた。『守らないと、と思った』というセリフと共に。
ナンシーに魔法の事を教わり始めて一週間ほど経った頃、雑談の流れで思い切って聞いてみたのだ。彼女の中にある、好意とは別の熱さを持った僅かな熱について。
照れながらのナンシーの言によると、
「看病してる間ずっと見ていたけど、怪我の有る無しとか関係なく、今にも消えてしまいそうだったのよ。今思えば寝顔もどこか寂しそうだったわ。だから私が守らないと、と思って」
との事だった。
前半については兎も角、後半に関しては春香の事を話したからだと思った。寂しさみたいなものを表に出しているつもりは無かったから。補正が掛かっているのだと。
しかし今回何も知らない筈のシスターにも指摘されたという事は、どこかそう言うモノを感じさせる雰囲気と言うかオーラと言うかが、滲み出てしまっているという事だ。無意識のうちに。
「参ったな……」
どうやらこの世界に来てから、久方ぶりにがっつりと人と絡んだことでイロイロと緩んでいると言うか、甘えたくなってしまっているようだ。
だから俺はナンシーにあんなに好意的で、姫様にも好感を持ち、シスターの事も気に入っているのだろう。これじゃあ、ナンシーをチョロイなんて言えないな。
「悪い事じゃないし、このままで行くか。前に進んでいる証拠だ」
そんな小さな決意を胸に、自分に言い聞かせるように意識を夢の世界へと飛ばした。
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