第十六話
扉の先には子供、子供、子供、子供…………
談笑する娘達、人形遊びをする娘達、絵を描く娘達、それぞれだ。
そしてその人種も、人から獣人からエルフから、見たことの無い種の者まで多種多様。
そんな彼女達の視線が開く扉に注がれ、必然的に俺の事も視界に入る。
「「「?」」」
「……おとこの人?」
皆一様に疑問符を浮かべていたが、俺が男であると一人が見抜くと一ヶ所に集まりこそこそしだす。
「…で……も」
「…て……し……」
「え…か……よ」
「「「彼氏だ!!」」」
「シスターが彼氏連れてきた!」
皆が口々に『彼氏』と叫び、わらわらと寄ってくる。
「髪サラサラ~まっくろ~」
「お肌もすべすべ~」
「女みたい~キレイな顔~」
「おっぱい無い~おとこだ~」
きゃっきゃと騒ぎながら、よじ登って来る幼女達。総勢12人、流石に重たい。
「全部まっくろだ~あくまだ~」
「あくま~」
「「「「あくま~、あくま~」」」」
こんなに美人な悪魔は居ません。何故か始まった悪魔コールを楽しそうに唱える幼女達。
シスターに助けを求めるべく、視線を向ける。
「か、か、か、かれ」
……そっとしておこう。羞恥とかで一杯一杯のようだ
取り敢えずシスターの事は置いておき、幼女達を手懐けよう。
「よっと、ほれほれ」
その場に胡坐を掻き、幼女達をバランス良く膝や肩の上などに乗せていく。
12人なら乗らない事も無い。きついけど。
「「「わ~、きゃっきゃ」」」
「よ~し、お前ら。まず俺の名前はグレンだ。グレンお兄さんと呼びなさい」
「グレン」「グレン兄さん」「グレン兄」「グレン」「グレン」「グレン~」
どうやら半分以上は俺を兄と敬う気などないらしい。
「まあいい。それから俺はシスターの彼氏じゃありません」
「え~嘘だ~」
「「「嘘だ~」」」
「どうしてだい?」
「うーんとね、ここはだんしきんせいだから。おとこの人が来たときは、だれかの家族か彼氏だって」
ああ、それでシスターの彼氏だと思ったのか。
「残念だけど本当に彼氏じゃないよ。俺は姫様の奴隷さ」
「わたしも奴隷~」
「「「わたしも~」」」
どうやら数人奴隷がいるようだ。
「グレンも姫様の為に働くの?」
「そういうことになるね。それとグレンお兄さんね」
「わたしも姫様の騎士になるんだ~。トリア様みたいにかっこいい騎士になるの」
「トリア様かっこいいよね~」
「「「「ね~」」」」
トリア様……ヴィクトリアのことか。彼女はこの娘達に人気のようだ。
「皆は姫様達の事は好きかい」
「「「好き!!」」」
「優しくて~」
「かっこよくて~」
「キレイだもんね~」
「「「ね~」」」
子供は時として、善悪に関して鋭い感覚を持つことがある。そんな子供達に好かれる姫様達は、噂通りの評判と見て良さそうだ。
「ね、ね。グレンは強いの?」
「あんまり強くないかな。戦えないからね。それとグレンお兄さんね」
さっきから積極的に話してくれるこのエルフの娘は、俺を敬う気はゼロらしい。
「そっか~。弱っちいのか~」
失望の気配が強まった。彼女の中の俺の株は暴落中です。
「弱っちいは言い過ぎ……」
「みんな、せんとうよーい」
エルフの娘が号令を掛ける。彼女がリーダー格なのか。
ん?戦闘?
見ると幼女達皆が俺から離れ、不格好ながら拳を構えている。
「おいおいまさか」
「かかれ~」
エルフっ娘の号令と共に、幼女達が襲い掛かって来た!
握られた拳も飛んでくる足も、小さくて可愛らしい。が、その攻撃力は可愛さの欠片も無い。
「えいっ」
「たぁ」
「とぉっ」
戦闘のせの字も知らないであろう幼女達の攻撃は、可愛い掛け声と共に加減無しに急所を狙ってくる。
「ちょっ、あぶなっ。って、痛い痛いっ!?」
一撃一撃を全力で放ってくるため、急所は本当に危ない。しかし、ここでも戦えないと言った手前いなすことも出来ず、顎や股間などの急所への攻撃を他の場所で受けつつ一方的に殴り蹴られ続けること数分。
「こ、こら~!あなた達は何をしているの~!」
救世主の登場だ。
幼女達一人一人に、軽いげんこつが落とされていく。
「だ、大丈夫ですか~?」
「あはは。大丈夫ですよ。子供のすることですから」
「グレンよわーい」
「「「よわーい」」」
やはりあの程度のげんこつじゃ反省なんてしないらしい。
「あなた達は反省しなさい~!いいですか~、いつも言っている通り騎士というモノは弱い者イジメでは無く、守るために力を振るうものです~。それをあなた達は~……」
弱い者イジメ……狙ってやっているとは言え突き刺さるぜ。
「ぶ~ぶ~」
「リナ~!ちゃんと聞きなさい~」
シスターの説教が始まる。しかし、彼女独特の雰囲気のせいでちっとも怖くない。現にリナと呼ばれたエルフっ娘を初め、ほとんどの娘が聞いていない。
ここで暮らすことになった以上、俺が鞭の役目を担うべきなのだろうか。そんな事を考えている間も、説教らしくない説教が続いていく。
―――ちゃぷん
所変わって浴室。俺は幼女達を順番に洗っていた。
シスターの説教が終わるや否や、幼女達に引っ張って連れて来られ『洗え』とのことだった。先程の一件で俺の序列は最底辺に決まったようだ。
「ふぁ~」
今洗っているのは妖精族セイレーンのセリーヌちゃん5歳。魚のヒレのような耳と水掻き、そして水陸で変化する下半身が特徴の所謂人魚。普段は人の足で生活しているが、風呂場などの水場では人魚らしく下半身が魚になる。
「うぉぉ、あったかい……すげぇな」
こうして洗いながら触らせて貰っているが、見た目も触り心地も魚のそれでありながら人肌の如く暖かい。
異世界凄ぇ。
そんな感じで自己紹介と共に、俺の前にやってくる幼女12人を順番に洗っていく。中々に大変な作業だったが、耳や尻尾やらと色々触れて心安らぐ時間だった。
「グレンをわたし達を洗う係ににんめいします」
妙に尊大なリナの言う事には、俺の洗い方は最高に気持ち良かったとの事。喜んでくれるのならと謹んで拝命した。
尚、変態だのロリコンだのの誹りは受け付けないので悪しからず。
「じゃあ、最後はシスターだね」
爆弾が落とされた。シスターの体がピクンと跳ねる。
「いや、それはさすがにマズいだろ」
幼女達を洗っている間、隅に隠れていたシスター。彼女も強引に引っ張って連れて来られていたのだ。
必死に抵抗していたが、結局幼女達に力負けしていた。
「ダ~メ。グレンは新入りだから皆にほうしするの!一番えらいシスターにもね!」
その一番偉い人の説教中、欠伸の回数が断トツだったよ。えぇ?リナ嬢や。
「え、あの。やっ」
皆に連れて来られるシスターは、羞恥から体まで薄っすら赤み掛かっている。肌が白いためその変化は分かり易い。
とうとう目の前まで来てしまった。
さてどうするべきか。逃げるのは何と言うか失礼なような気もする。だからと言って彼女を洗う訳にはいかないだろう。正確な歳までは聞いていないが、確実に子供じゃない。そうお互い子供じゃないのだ。
だからと言って何もしない訳にはいかない。これまでのリナの行動を考えると、少々乱暴だが俺をこの孤児院に馴染ませようという思惑が見える。この善意を袖にするほど俺も鬼畜じゃない。
それに姫様の元でも、この孤児院でも針の
「あの~。わ、わたしなら大丈夫ですから~」
「そうは言ってもですね……」
彼女も子供たちの思惑に気付いているのだろう。
「は、恥ずかしいですけど嫌じゃありませんから~」
……女性にここまで言わせたんだ。俺も覚悟を決めよう。
「分かりました。それじゃあ、失礼します」
俺はスポンジと石鹸を手に取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます