第十五話
「私貴方の事とても気に入らないわ」
いきなりのカミングアウト。直前の感傷など消え去った。ちょっとショックです。
「えっと、私はどういった反応をすれば宜しいので?」
「知らないわよ」
困ったな。この感じ、マジらしい。職場の人間関係が上手くいってないって最悪じゃないか。
「あ~、気に入らない点を挙げて頂ければ改善いたしますが……」
「そうね、何故また仮面をしているの?」
「素顔は目立つかと思いまして」
「男の貴方がここに来ている時点で既に目立っているわ。それに失礼よ」
ご尤もです。
指輪に収納する。
「首飾りの時もそうだけど、どこに収納しているの?」
「指輪です。この世界に来た時に拾いました」
指輪を手に入れた経緯に合わせて、この世界に来た時の状況を説明する。
「ふ~ん、貴方も扉なの。建国王も扉だったそうよ」
「……そうですか」
だからと言って俺にも、建国王並みの働きを期待しない事を切に願います。
「それと、妙に肝が据わった貴方の態度も気に入らないわ」
「度胸があると褒めてくださった覚えがあるのですが……」
勘違いか?凹むぞ。
「確かに言ったわ。だけど限度があるのよ。私自身気にしていなくても、部下の手前余りに行き過ぎた態度は罰さなくてはいけなくなる。貴方今、首の皮一枚よ」
「気を付けます」
仮面を被りふざけて惚け、図々しくも条件を出す。なるほど、確かにやり過ぎてるな。
地球で会った某国の王家の方々は、俺が何やっても「ジャパニーズニンジャー、サムライ」とか言って、フレンドリーだったけどな。懐かしい思い出だ。
「それに大言壮語も気に入らないわ」
「大言壮語?」
「三ヶ月の間に何が出来るというの?エリーにも半年以内に会いに行くと言っているし。噂はもう広まり始めてると言っても過言じゃないわ。女の中に男一匹、早く深く広まり根付く。本当に掻き消せるの?」
そうだった。大して重要視している訳でもなかったから忘れてた。
「そうですね……私の存在は餌のようなものです。男という面でも、迷い人と言う面でも必ず食い付く者が現れます」
「迷い人と言うのは広めても構わないのね」
「はい、寧ろ広めるべきでしょう。僅かですが噂の緩和に繋がるでしょう」
信憑性なんて無いから、ほぼ意味なんて為さないと思うが楔にはなるかもしれない。
「その何かが食い付いた時には、貴方が先頭切って事に当たる必要があるのは分かってる?」
「勿論です」
要は俺の存在を、世間に認めさせるという事。姫様の配下として。
「……そう。トリア、クロエ、貴方達の見立ては?」
「はっ。不可能かと。そもそも荒事に関しては全くの素人でしょう。槍を刺した時、思ったより硬さがあったことからそれなりに鍛えているようですが、立ち振る舞いを見ても武人のそれではありません」
そう言えば、トリアさん今は大人しいな。商会の時のように突っ掛かってこない。それどころか意識すらされてないな。それはそれで寂しいというか何というか。
「実力を隠しているという事は?」
「ありえません。私もクロエもそれなりの実力がありますから、素人のふりをする実力者というのは確実に見破れます。どうしても動きなどに不自然さが表れますから」
隣でクロエも静かに首肯している。
「それでもやれるのね?」
「勿論です」
必ずしも武力で解決する必要はない訳だし、その辺は頭を使っていこう。まだこの人達を信用している訳では無いので、実力を明かすのはもっと後だな。
「マフション商会でも言った通り、能力自体は認めているわ。頑張りなさい」
「はい」
殿下にも本気で仕えたいと思わせるだけの器を示して欲しいものです、なんて思ってみたり。
「それじゃあ、今日はもう下がっていいわ。クロエ、グレンを案内なさい」
「畏まりました」
書斎を出てクロエに付いて行く。背後からはヴィクトリアが付いて来る。
「部屋へ案内致します」
部屋と言っているのに、向かっているのは屋敷の外。まさかの野宿?
「えっと、ここですか?」
「ここです」
連れてこられたのは、敷地内に立つ教会だった。
戸惑う俺を余所に扉を叩くクロエ。
―――ドンドン
「……は~い」
暫くして出てきたのは修道服に身を包んだ女。シスター、それもエルフだ。
「あ、クロエさん~!こんにちは~」
「以前話していたお手伝いを連れてきました」
お手伝い?何のこと?
「わ~、本当ですか~。助かります~。そちらの黒髪の方ですか~?綺麗な方ですね~。惚れちゃいそうです~」
「……グレンと言います。よろしくお願いします」
何とも独特な雰囲気の人だ。
「はい~、よろ……グレン?え?」
「?」
―――ボッ
何故か顔がどんどん赤くなっていく。肌が白いためその変化は顕著だ。
「おとこのひと?おんなのひとじゃなくて?」
「えっと、男です」
「!?すみません~」
慌てて教会の中へ戻って行ってしまった。男に免疫が無いのか、恥ずかしがり屋なだけなのか。
「「……」」
どうしたと言うのか。どうしろと言うのか。
「……ここは先程のシスターが運営する孤児院です。屋敷の敷地内にあるのは、姫様の庇護下にあるからです。現在、6歳までの十数人の少女たちの面倒を見てもらっています」
クロエは一切を気にせず、説明を始めた。
6歳まで。だからエリーは領地の方に連れていかれたのか。
「グレン様には今日からここで暮らして頂きます」
「様も敬語も要りませんよ?奴隷ですし」
「メイドですので」
メイドと奴隷。奴隷の方が下だと思うんだけどな。
「それでは、私はこれで」
そう言うと、クロエは足早に去っていった。
最後まで無表情で、興味の無さそうな態度だった。
「……」
「……え~と」
何故か俺の傍を離れないヴィクトリア。
はっ、まさか遂に俺の魅力にメロメロに!?
「私は弱い男が嫌いだ。だから貴様の事も嫌いだ」
ですよねー。
「あー、ごめんなさい?」
「だが……だが姫様の役に立つのなら何も言わん。だから姫様の顔に泥を塗るような真似をはするな。もしもの時は覚悟しろ」
「はい」
「ふんっ」
しっかりと目を見て答えたのだが、気に入らないようだ。返事を聞くや否や、さっさと行ってしまった。
彼女は姫様の事が何よりも大事なのだろう。だから商会での事も含めて、俺という不穏分子に過剰に反応するのかもしれない。
単純に嫌われているだけだからかもしれないけど。
「さて……」
どうするべきか。
シスターを待つか、待たずに入ってしまうか。
そんな事を思案していると、再び扉が開きシスターが出てきた。
「あの~、クロエさん達は~?」
「もう戻られましたよ」
「そうですか~……ではどうぞ~」
中に招き入れられ、礼拝堂の奥の方へと進むシスターに付いて行く。
その間時折こちらを盗み見ては、もじもじとしだす。
「?」
トイレか?
「あぁ~、そう言えば自己紹介がまだでした~。わたしはジェシカと言います~、よろしくお願いします~」
扉の前で歩みを止め振り返るも目、というか顔を合わせようとしない。
これはもしかすると、もしかするかもしれない。
「よろしくお願いします、ジェシカさん」
顔を覗き込むようにしながら返事をする。
「ふぁ~。ダ、ダメです~。見ないでください~」
俺の顔が好みだったのだろう。先程の一件も照れや恥ずかしさが、襲ったせいのようだ。
新鮮さと初々しさが、何とも微笑ましい気持ちにさせてくれる。
「んんっ。こ、この扉の向こうが生活スペースとなります~。みんないい子たちなので仲良くしてください~」
「子供は大好きですよ。よく懐かれますし」
エリーで実証済みだ。
「ふふふ~。それでは行きますよ~、覚悟してくださいね~」
覚悟?どういうことだ?
そんな疑問を口にする暇も無く、扉が開かれた。
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