三章 王宮編

第58話 ご説明

 お初にお目にかかります。

 私、アデラ・ビアスと言う、エルズバーグ国の宮廷仕官に在籍する者です。

 

 現在は第五王子で在られます、ロジオン・イェレ・エクロース・エルズバーグ様の教育兼護衛を務めておりますが、新しい従者が決まるまで、その役目も兼用している次第にございます。


 ──護衛も従者も意味は同じではないか? と。


 微妙に役割は違うのですが、その辺りはケースバイケースと言うことで。

 元は私は従者でありましたが……従者に任命されてからも、ロジオン様にしばらく認めてもらえなかったり、ようやくお側にお仕え出来るようになったら、とんでもない化物と戦う羽目になったり──。

 

 化物?

 

 それは……ですね。

 あまり公には出来ないのお話ですが……。

 ロジオン様は王子でありながら魔法使いでして。

 

 魔法を使えない私は、魔法使いや魔導師と言う職業のことは詳しくはありませんが、魔法は各々『師』に教えを乞い習うようです。

 ロジオン様は生まれながらにその絶大な魔力を『水』の称号を持つコンラート・オーケルベリと言う魔導師に見出だされ、陛下と王妃様が目を離した隙に武者修行に連れていかれました。

 

 ほとんど誘拐、これ。


 エルズバーグの宮廷は大騒ぎでしたが、相手は高名で魔導師として名高いコンラート。

 しかも、バックには魔法を扱う者達を管理・統率する魔導術統率協会と言う、歴史はありますが何だか怪しい組織がおりまして、下手に戦やなんやと刺激させるわけにはいかなかったようなのです。

 

 何せ、魔法使いや魔導師達は、協会の意見や命令を最優先させるのは当たり前。

 例え自分達が国や個人に仕えていても。

 

 なので、国に仕えている魔法使いや魔導師達はおろか、国内にいる魔法の使い手達を敵に回してしまう恐れがあったわけなんです。

 

 そうしたら国が滅びますからね──。


 まあ実際は協会側も、チクチクと文句を言ってきたエルズバーグの書簡を読んで初めて気付いたとのことで……。

 国と協会の目を欺きながら、転々と放浪の旅を続けていたようですが、師弟間は非常によろしかったようです。

 それから時を経て、ロジオン様が十三の時にエルズバーグに戻ってきたわけです。


 え? だから化物って?

 

 その化物がコンラート師なんです。

 不治の病にかかっておしまいで、『職人と商人の国』と称されるロジオン様の故郷に戻ってきたのです。

 なかなか手に入らない珍しい薬もあるでしょうし、日進月歩している国ですから、治療法も見付かるかもしれないとお考えになったのでしょうね。

 

 こう言っては何ですが、随分身勝手な方だと思います、コンラート師は。

 散々逃げ回ってロジオン様をお離しにならなかったのに、自分が病にかかった途端ですもの。

 ……自分が亡くなった時、一人になってしまうロジオン様を思っての事もあるかも知れませんが。


 死ぬ間際に、発作的に開発中の薬を見境無く手を出し飲んで、お亡くなりになったそうです。

 その薬の複合作用か、彼の生きたいと言う強い思念かは分かりません。

 ロジオン様を襲う化物となってしまったのです。



 魔法に縁の無い私にも、新しい出会いもございました。

 コンラート師を倒すべく協会から派遣されてきた方達です。

 

 強固な結界を張れる魔法使いのエマ。

『地』の称号をお持ちの魔導師のルーカス殿。

 そして、魔承師補佐のドレイク殿。

 それから宮廷魔法管轄の筆頭・ハインとサマンサ、リシェル。


 短い間でほんとう、色々事が起きました。

 ロジオン様が凹んだり

 ハインと勝負をしたり

 勘違い野郎エイルマーが乗り込んできたり

 エマが××だったり

 ドレイク殿が実は竜だったり

 サマンサの正体は、実は魔法を扱う者達の間では悪名高いカーリナだったり。


 苦しい戦いでしたが、無事にコンラートを浄化に導けたのは良かったかと思います。


 感謝祭にも間に合いましたし。




 その後にも、私の知らなかった事実を知ることとなりました。


 私の住む世界には様々な種族がいます。

 大まかに分ければ魔力の持たない只人。

 魔力=能力を持つ人。

 分かりやすい例えは、先程からお話に出ております、魔法使いや魔導師です。

 他にも少ないながらにも、特殊な力を持つ方々もいらっしゃるのです。

 割合としては俄然只人の方が多いので、あまり目立ちません。


 何故、只人と特殊能力のある人が同じ世界にいるのか、なんて考えたことはありませんでした。

 それが、私の住む世界では当たり前の事だからです。


 只人と特殊な力を持つ人とは、生きる長さも違う。

 特殊能力を持つ人、は只人の助けにならなくてはならない。


 昔からの習いで、常識でございます。


 その代表格が、魔力というものを使う魔法使いや魔導師なわけです。


 さて、話を少し戻しまして、何故そうも特殊能力の有る者と無い者とで別れているのか?

 それは、ずっと古の時に起きた大転移が原因だそうです。

 大転移してきた者達は、何の力も術も持っていなかったそうです。

 転移した先は各種族、特化した能力を持ち、その姿・形もそれぞれだったそうです。


 力の無い者達を保護し、生活できるように導いたのが現・魔承師の兄君であるマルティン様でした。

 同じ姿・形をしている縁として手を差し伸べたということです。


 何と寛大なお優しいお心だと思います。


 だけど、

 少なからず、只人としての血が強い私としては、事実を聞いて胸が痛んだのも確かです。


 古の時にこの世界に運ばれた者達の世界で、兵器による戦争が起きていたそうで……。

 ある国が放った兵器は、世界を滅ぼすのに十分過ぎて、この世界にも腐蝕を始めたのです。

 腐蝕はある日突然広がり、空に亀裂を作りました。

 成す術もなく吸い込まれていく、世界を防いだのがマルティン様と現魔承師のイゾルテ様でした。


 それが魔導術統率協会の設立の理由だそうです。

 二人力を合わせて閉じることは出来ても、亀裂は修復は出来なかった。この世界に無いものだっからと……。


 亀裂に触れることが出来れば、解ると言うことですが、果敢に挑んだ者達は皆、帰ってこなかったそうです……。


 そんな日々が百年続いたある日、マルティン様がお倒れになってしまいました。

 命の灯火が消える前に、お話になったこと。それは

『亀裂を永遠に封じる魔法が出来た』

と申されたそうです。


 そして、この世界に元から住んでいた者達には、持たない観念『魂』を自ら魔法でお創りになり、何世代ものの時を越えて今──。


 ロジオン様が、マルティン様の魂を受け継いでいるとのことなのです。



 ロジオン様がマルティン様の魂の記憶を呼び覚まし、永遠の魔法

「イル・マギア」

を手に入れる事が出来るよう、微力ではありますが、私も手助けしたくお側にお仕えすることを決意したのです。



 ──だけど、ロジオン様は、私を遠ざけようと色々模索したようで。


 加えてコンラート殿と共に生活していたせいか、早熟と申しましょうか、単に女好きだともうしましょうか。

 隙あらば如何わしいことを迫ってくるわけでございます。

 あ、でも、王子と言う立場を利用して迫るとか、無理矢理とかは、皆様が心配する行為はございません。


 ……まあ、私も……人のことは……。


 い、いや、だって! あまりに男らしくない行動をお取りになったので!

 したいって素直に言ってくれれば、わたしだって──えっ? いえいえいえ!

『したい』ってそのような未成年の方に刺激させるものではなくて……! 皆様の世界では挨拶代わりにしているお国もあると言う──そう、あれです!

 そんな回りくどい言い方するなと言われましても……口に出すのは恥ずかしくて憚れるのです……。

 まだ昨日のことなので……その……。


 教育係も兼用しているので、実はその辺りのことをわたし、気にしていまして……。

 あ、申し訳ありません。つい溜め息なんか付いて。

 ロジオン様は庶民の暮らしをしていましたが、やはり王家直系ですから、色々制約もありますし、変な伝統もございます。

 変と言ったら王家を侮辱しているようなものなんですよね……でも……そこが悩みどころでして……。

 今度、陛下かロジオン様のご生母であられます第二王妃に突っ込んでお尋ねしなければ、と思うのですが……。


 変な伝統って何だ? と突っ込まれても私の口からはとても……。


 ああ! 世界を救うための魔法を巡るシリアスな内容なはずなのに、展開がずれている上に小さいことに悩む私なのです。


 とにかく!

 今日からロジオン様は、宮廷魔法管轄処の筆頭魔法使いとしてご出勤されます。


 私も身を引き締め、新たな気持ちでロジオン様にお仕えしなくてはなりません。


 では皆様、よろしければ今後ともお付き合いくださいませ。

 失礼致します。





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