優秀な何か

ぶるすぷ

優秀な何か

 ほんと、ダメなんだから。

 そう言って君は笑う。放課後の図書室。夕暮れの光がちょっと差し込んで、眩しい。

 何がダメなんだって言えば、全部って返ってきて。

 ひどいこと言うなって言えば、事実を言ったまでですって返ってきて。

 何も言えないでいると、やっぱり笑っている。

 成績だけは優秀な彼女がそうやっていたずらっぽく笑うのが、なんだか馬鹿にされているようで気に食わなかった。

 でも、不思議と嫌いにはなれなかった。


 帰ろうとするとついてきて、帰り道も同じで、家は隣で。

 僕は話したいなんて一度も思ってないのに、何度も何度も話しかけてくる。面倒。

 優秀なのに、それ以外が微妙だ。そんなこと言ったら怒られるだろうから、言わないけど。



 宿題を忘れた。

 隣の席の彼女は、また忘れたのとニヤリ。

 悔しいけど、彼女のノートを借り、写し。

 毎度お世話になるノートの字はいつも綺麗だ。

 これで性格も優秀なら、よかったんだけどなあ。

 なんて思いつつ、今日も僕は過ごす。



 帰り道、ふと買い物をするのを忘れていたことに気づいた。

 明日行かないとな、と口にすると、彼女が一緒に行きたいと言った。

 何に行くかも分かってないのに、よくそんなこと言えるねと言うと、彼女はにへらと笑ってごまかしてきた。

 男子と二人で買い物なんて普通行くかと聞いたら、いいの! と強引に押し切られた。

 優秀なのに、やっぱり彼女の性格はおかしい。

 もうちょっと女の子らしくしたほうがいいと言ったら、それ前も言われた、と言う彼女。

 そんなこと言った覚えはない。そう言うと、少し寂しそうな表情の後、彼女は誤魔化すようにまた笑った。

 結局断ることもできず、僕は明日、彼女と買い物を行く約束をしてしまった。

 ちょっと面倒だけど、まあ、こういう日もあってもいいかなと思った。



 あれ、なんで制服着てないの? と言う。

 すると彼女は、今日は休日だよ? と。

 そういえば、今日は休日だった。平日だと勘違いしていた。

 その後、なんで制服着てるの、今日は休日だよ? とからかわれた。ちょっと怒ったけど、笑う彼女の姿がなんだか懐かしくて、まあいいかと思った。

 でも、今日はなんで僕の家の前に? と問う。

 彼女は少し寂しそうな表情の後、別にいてもいいでしょ! と強引に誤魔化し笑った。

 それより買い物しなきゃないんじゃない? そう言われて、そういえばそうかと思い、僕は買い物に行く準備をして家を出た。

 なぜか彼女は僕についてきた。

 なぜ女の子と二人で買い物しなきゃいけないんだと思ったけど、意外と楽しかったから、まあいいかな。



 花火見に行こうよ。と言われて、急な話だな、と返すと、昨日約束したじゃーん、と彼女は言った。

 そんな約束した覚えはないのに、彼女に強引に連れて行かれ、僕は近所の公園に言った。

 浴衣姿の彼女は思っていた以上にかわいかった。直視して顔が赤くなりでもしたら彼女にいじられるので、できるだけ見ないようにした。

 花火が打ち上がる場所から結構離れた公園で、僕たちはベンチに座った。僕たち以外に人はだれも居なかった。

 なぜか懐かしく感じて、前にもここに来たことあるっけ? と言ってみると、彼女はなぜか寂しそうな表情で笑った。

 そんなわけないか、と呟くと、そんなこともあるかもしれないね、と曖昧な答えが返ってきた。

 浴衣を着てるのに走ろうとする彼女を止めたり、公園の滑り台に登ろうとする彼女を止めたり、ニヤニヤする彼女に怒ったり、そんな感じで時間はすぐに経っていった。



 誕生日だからケーキを買ってきたのだけれど、誰の誕生日だったか忘れた。

 ちょっとボケすぎだな、僕。

 なんて思っていると、家のインターホンが押され、勝手に玄関に入ってきて、勝手にリビングに入ってくる彼女の姿が。何か期待するように笑っている。

 まったく、一体なんなんだと思いながら、今日誰かの誕生日だったんだけど、誰だったか忘れちゃったんだよね。と言ってみる。

 彼女は珍しくうろたえて、少しして、誰か誕生日だったかな? と小首をかしげた。

 優秀な彼女も知らないようじゃ、僕にも分からないな。僕がそう言うと、彼女は、ちょっとごめんと言って、玄関から家の外に出ていった。

 どうしたんだろうと思ったけど、まあ彼女ならよくあることかと思い、僕はとりあえずケーキを切って皿に分けた。


 五分くらい考えても、誰が誕生日だったか思い出せない。

 するとリビングの扉が開いて、彼女が入ってきた。なぜか、彼女の目の下は若干赤くなっていた。

 実はねー、私今日誕生日なんだー。

 そう言って彼女は、勝手に机につく。

 だからケーキちょうだい! と言葉が追加される。

 そのケーキ君のために用意したんじゃないから、と、ちょっと不満気味に言ってみる。


 すると彼女は、ちょっと寂しそうに笑って、唐突に涙を流した。

 ごめん、ごめんと繰り返して、その姿があまりにかわいそうだった。

 僕はどうしようもなく、とりあえず彼女にごめんと謝り、ケーキの乗った皿を彼女の前に置いた。

 彼女は、涙を止めてケーキを貪った。そして、嬉しそうに笑った。

 僕の分まで食べられてちょっと不満だったけど、彼女はとても幸せそうで、不思議と僕は嬉しくなった。



 目を開けると、なぜか病院のベッドの上で寝ていた。

 なんでだろうと思ったけど、まあこういう日もあるだろうと思って納得した。

 そういえば昨日何したっけと思ったけど、特に何も思い出せなかった。

 でも、何か大切なものを忘れているような気がして、それを思い出したかった。

 優秀な何か。

 でも、全部優秀じゃなくて、でも、優秀な何か。

 うまく思い出せずにいると。部屋の扉が開いて一人の女の子が入ってきた。

 かなりかわいい顔をした女の子に一瞬見惚れたけど、僕は何考えてんだと頭を切り替え、こんにちは、どちら様ですか? と言った。

 すると彼女は、なぜか寂しそうな表情をし、誤魔化すように笑った。

 お見舞いに来ました。そう言う彼女は何か優しい感じがした。

 優秀な何かを、探してるんです。思い出したいのに、思い出せないんです。そういう何か、無いですかね。そう言ってみた。

 すると彼女は、もしかしたらあるかもしれないですね。そう曖昧に答え笑った。

 いたずらっぽく笑う彼女は、不思議と嫌いになれなかった。


 窓から夕暮れの光がちょっと差し込んで、眩しかった。

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