『雨ヲ待ツ理由』

ビニール傘を広げると雨がパチパチパチとはじけて音をあげた。


この音を聞くと俄然、元気が湧いてくる。


家の目の前にある坂を15分ほど登るといつも利用しているバス停がある。


木とトタン板で作られた簡素なバス停だが、それなりにしっかりとしている。


時刻表を覗くと次のバスは7時10分となっていた。腕時計に視線を落とすとあと6分ほどで来ると教えてくれる。


ベンチに腰を下ろして待つことにした。


トーストもあと半分ほど残っているので、食べ終わる頃にはきっと来るだろう。


そう思ってトーストを食べ進めていると、ふと坂の下から大きめの黒い傘をさした人影が歩いてくるのが見えた。

一瞬、ドキッとしてトーストを落としそうになったがどうにか口と手でささえてそのまま大急ぎでトーストを口に詰め込む。


説明を後回しにしてきたが、朝ガッツポーズをした理由や急いで家を出た理由、それは部活の朝練のためなんかではない。

むしろ雨なんて降っていたらそれこそサボる理由にするものだろう。


喜んでいた理由、それはたった今私のいるバス停へ向かって来ている男子高校生に会うことが出来るからだった。





彼と初めて出会ったのは高校に入学して4日後の4月9日ことだった。


通学にバスを使い始めてからはじめての雨が降った日、雨音だけがただひたすらに響き続けるバス停で少し憂鬱に浸りながらバスを待っていると雨を全身に浴びながら急ぎ足で向かってくる人影が見えてきた。


私と同じ時間にバスを利用している人を見かけたのはそれはじめてだったのでしっかりと覚えている。


走っていたにも関わらずあまり息がきれていなかったので多分運動部なのだろう。

そんなことを思いつつ横目でチラチラと観察していた。


父親と同じぐらいだったので170cm程だろうか、制服はブレザーを来ていた。


そして、切れ長の綺麗な目をしていたが、それ以上に目元や耳にかかりきっている無造作な長い髪が特徴的だった。



正直、わたし的には結構すきなタイプだ。


その長い髪から垂れた雨の雫が彼の鼻や頬を伝って流れ落ちる。

直後、彼は犬のように頭をぶるぶると動かし髪に着いた水滴を飛ばそうとした。


「ひゃ、冷たっ…」


彼の飛ばした水滴が私のほう目掛けて飛んできたため、反射的に声を漏らしてしまった。



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