雨恋

天井香織

ー 雨宮 リノ ー

『待チワビタ雨』

5月14日、雨のち晴れ。


天気予報をみて私は無意識に小さくガッツポーズをして喜びを噛み締めていた。

最後に雨が降ったのは4月28日のこと、じつに2週間ほど前のことだ。


私が言えることじゃあないが、きっと雨が降って喜ぶ人間がこの地域にいたとすればその人間は農家さんか、そうでなければ相当な変わり者であると思う。


というのも、私の住むこの地域はわりと田舎なので山道が多かったり夜になると街灯が少なく安全のために懐中電灯片手に外出しなくてはならなかったりと、とりあえず都会とはかけ離れた場所なのである。


こんな地域では大抵コンビニが少なく、自転車なんかが活躍するのだが、あいにく今日のように雨が降っているような日にはすぐスリップをおこして事故の元となる凶悪な乗り物と化けるため、残念ながら無用の長物となってしまう。


(やっぱりバスが1番マシかな)


そんなことを考えながら制服に着替えて、湿気でまとまらないくせ毛たちにアイロンを当てていく。


その後、ダイニングキッチンに行ってトーストを焼き始めているとちょうど父親も起きてきたようだった。

おはようと声をかけると少し驚いたようにして、また眠そうな目に戻りおはようと返してくれた。


「なんだ、もう起きてたのか」

「うん、今日は早く学校に着きたいの」

「部活の朝練でもあるのか?」

「まぁそんなところかな」

「高校生も大変だなぁ」


そう言って父は「うまい牛乳」と書かれている紙パックを傾けてコップに注ぎこむと、一気に飲み干した。


そういえば牛乳の残りも少なくなっていたはずだ。午後は晴れるらしいので学校帰りにでも買って帰ろう。


父が別のコップに注いでくれた牛乳を飲みながらそう思う。


少ししてトーストも出来上がったのでスライスチーズをのせてから、口にくわえたまま玄関へ向かう。


「朝飯ぐらい落ち着いて食べたらどうだ」

「急いでるから、行きながら食べる」

「まったく、気をつけなさい」


はーいと間延びした返事を返してから、

くまのキーホルダーがついた家の鍵を

白いエナメルバッグにいれて、

それからビニール傘を持って家を出た。

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