第3話


汗っかきだったナッちゃんの汗と、蒸し暑い夏の空気と、飲みかけのフラペチーノが混ざりあってひとつになる。けたましい警笛、人々の悲鳴、好奇の目。腕、制服だった布きれ、どこだか分からないような肉片が飛び散っていた。


乗っている電車が少しずつ速度を上げる。


振動で胃の中のフラペチーノが、ぐわんぐわん揺れる。気持ち悪い、吐きそうだ。寒気がする。汗だくの体に冷房が直接当たって、体が震える。座席にも座らず、床にそのままへたり込んだ。乗客は私の他にはいないのが不幸中の幸いだった。



電車の中で何を考えたか、よく覚えていない。



ただただ震える体を抑えてどうにか家に帰って、ご飯も食べず、お風呂にも入らず、ただベッドに潜り込んで目を閉じる。当然寝れるわけもない。なぜだか、大事な友達が、死んだのに、涙は一滴も出なかった。


何時間かして、始業式を一日延期する一斉メールが高校から届いた。そりゃそうだと思ってしまう。今頃学校では、対応なんかで大変なことになっているんだろう。


『なん、で』


独白。頭の中が大混乱している。もう夕暮れが近づいていた。

窓も開けずに布団に潜っていたから、布団と私は汗でぐっしょりしていた。


朦朧とする体で、窓を開ける。昼間はあんなに蒸し暑かった風が、今ではありえないくらいに涼しい。火照っていた体がひんやりとした。


あぁ。


16歳、ナッちゃんは電車に飛び込んで死んだ。ほとんど手付かずの宿題も、完成したばっかりの絵も、私のことも、次もその次の次の次も来るはずだった夏も、全部、全部、置いてって。






ヒグラシの泣き声が、止んだ。






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