第2話


しばらくホームで黄昏ていると、それほど時間が経たないうちに私の乗る電車がやってきた。



「ハルちゃん、電車来たよ。」


『ほんとだ。一緒の電車だったらよかったのにね。』


「しゃーないよ。家、逆方向だもん。」


ナッちゃんはそう言ってベンチを立った。もう片方のホームに特急列車を告げるアナウンスが響き渡っている。



私は電車に乗る。ナッちゃんがすぐそばまで来て、見送りをしてくれる。

田舎だからか、私以外に乗客はいなかった。


『また明日ね。ナッちゃん。』


「バイバイ、ハルちゃん。」


お互いに別れの挨拶を交わし、電車のドアが閉まる。ぼうっとナッちゃんを見ていると、ナッちゃんはベンチに座らず、もう片方の、特急列車が来るホームの方へ歩いて行った。

飲みかけのフラペチーノは、手に持ったまま。




2番ホームに特急列車がまいります。白線の内側に立ってお待ちください。




無機質なアナウンスが、耳の中でこだまする。ドアが閉まっている。開けられない。止められない。頭が真っ白になる。叫べない。


ただ、見つめるしかできなかった。ゆっくりと地面がずれていく。電車が発車したみたいだ。



ナッちゃんは振り返らなかったから、どんな顔をしていたのかも分からない。何を思っていたかも分からない。




ナッちゃんは、飛び降りた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る