晩夏に鳴く

里見 祭

第1話

8月31日、夏が終わる。



正確にに言えばもう秋なのかもしれないけれど、私達にとっては夏休みが終わる今日こそが夏の終わりなのであった。


明日は始業式。宿題もはじめの辺りに済ませた私は、今頃家でスイカなんか食べながらゆっくりした昼下がりを送っているはずだった。


「あーあ、なんで夏休みの最終日なんかに補習なんて入れてみるんかね。」


ナッちゃんが隣で呟く。手に持っているフラペチーノもナッちゃんも、この暑さで参っているみたいだった。


『まぁ、もう帰れるんだしいいじゃん。』


私もフラペチーノをすする。ベリーの酸味とクリームの甘さが、喉にどろりと絡み付いた。


補習という名の全員参加の授業は最終日ということもあって、午前中に終わった。そこでナッちゃんの「新作、飲みに行こーよ」という提案に、私は2つ返事で快諾した。


駅のホームのベンチに二人並んで座る。日陰とはいえ、蒸し暑い空気が私達を包んでいた。


『明日、始業式だね。』


「うん。」


『宿題、終わった?』


「全然。」



会話はそこで途切れた。お互い暑すぎて喋る気力も残っていない。私たちはホームに立っている仕事帰りであろうサラリーマンや、上品なおばあさまや、半袖半ズボンの小学生を見つめていた。


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