第15話 杏子の死、残された手紙

 

 俺が高校を卒業してすぐに、杏子は事故でこの世を去ってしまったからだ。


 遺影には、杏子に渡したあの日のもう一枚の写真が使われていた。

それは杏子の残した表情で、一番素敵な表情だと、母親が話してくれた。

 それまで知らなかったが、前の中学校で、杏子はひどくいじめられていたようだ。

 だからか杏子の過去を知るもののいない、あの高校のある街に引っ越してきたらしいことも、また母子家庭だったことも、その日、知った。


 天文部としてできたのは、母親に杏子の声で録音された観測記録のテープを母親に渡すことぐらいだった。

 

 この街、特に高校での杏子の短い時間はとても楽しく、とても充実したものだったという。

 

 家では学校、天文部の話をいつも楽しそうに話していたようだ。


 そして、あれほど明るい笑顔で笑っていた、まり子の顔が涙に濡れるの初めて見た。

 ずっとハンカチを手にしたまり子を家まで送りドアが閉まった直後、大声で泣く、その声がドアの向こう、俺の後ろから……聞えた。



 杏子の母親から手渡されたものがある。

 それは俺が高校を卒業したら渡そうとしていたという、まだ切手の貼られていない手紙だった。

 

 開封すると、柔らかい言葉で俺に対する思いが可愛い丁寧な字で綴られていた。

あの夜の感謝の言葉とともに。

 

 封筒の色と便箋の色は、あの夜のハンカチに似た淡いピンク色だった……。

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