第14話 その後……

 …………あれから、もう随分と長い時間が過ぎてしまった。

 でも、丁寧にプリントされた白黒写真の中では今も杏子はあの時のままだ。



 あの後文化祭に展示された天文部の後輩達の作成した写真は最高の出来だった。

 

 それにも増して、森下の写真はカラーで執念の一枚というべきものだった。

 街の上に時間ごとに変化する月の姿が何段階にもわたって始めから終わりまで正確な間隔で写しとられていた。

 森下は、それを、どんな思いで、展示したのか?

 その、本当の、想いは、どんなものだったのだろう?   


 森下が好きだった、牧野がそれを見て何を感じたのか?

 俺には、わからない。

 あるいは見てないかもしれない。

 林田が俺にそのことを話すこともなかったし、俺も訊かなかった。 

 ただ、牧野と森下が互に避けあっているのが、なんとなく分かった。


 天文部を引退してからは、受験勉強に追われる毎日が過ぎるだけで杏子とゆっくり話す機会は無くなっていた。

 今思えばつくろうと思えば杏子と過ごすそんな時間もあったのだろうけれど。

 だがそうした努力もしなかった。


 それが悔やまれる……。


 

 夏の旅行は雨で天体観測どころではなかったらしいが、それでも文化祭で展示の説明をする杏子は生き生きと輝いていた。

 

 当たり前に杏子はそこにいるものだと思っていた。

 だから、高校を卒業したら思い切って、自分の思いを伝えるつもりだった。



 けれど自分の思いを伝えることは、できなかった。

 もう、杏子が、「せんぱい」と呼び掛けてくれることも、彼女と過ごせる時間も……、ない。





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