第11話 高校の夜、森下と林田の恋愛
みんなが月を見ている間、時間は流れ、地球の影は動き、またいつもの白い光を街に投げ掛ける月に戻っていった。
時間の流れだけは誰にも止められはしない。
そうなんだ……。
ほんの少し前までの、不思議な月の色。
だが、もう高校生の自分は見られない。
それは、当たり前すぎるくらい当たり前の事実だった。
月食がすべて終わってしまうと、周りはくつろいだ雰囲気になった。
何時間も同じ姿勢でいた森下は、ぼんやり気が抜けたように街明かりをカメラの後ろで眺めている。
写真部の他の連中は早速撮った写真を現像する為、暗室に引き上げる準備をしていた。
俺はカメラから抜いたフィルムを、写真部員の一人に「森下が暗室に戻ったら、必ず」と渡した。
今、森下に声をかけるのは気が引けた。
その部員も森下を少し見て「わかりました」と応えた。
杏子のとなりでまり子は小坂のラジオを興味深げにいじって、そのイヤホンから何が聞えたのか? 「あっ、ははは」と笑い声をあげた。
しばらく月を眺めていると、もう屋上には俺と林田だけになっていた。
自分も下に降りて何か飲もうと思ったとき、「ちょっと話があるんだ」そう林田が声をかけてきた。
非常灯の明かりだけが廊下を照らす、暗い二階まで下りて聞いた話は意外な話だった。
「森下さ、少し今日、変じゃなかったか?」
「そうかな? いつもと同じだろ」
俺にはあいつが、いつもと、どう違うのか?本当に分からなかった。
「そんなことないんだ、とにかく変だったんだよ」
「それが、どうしたっていうんだ?」
「実はな……、本当に、ここだけの話なんだけれど、森下のやつさ、失恋したんだよ」
これは、高校生活では興味津々の大ニュースだ。
「それで相手は? っていうか、お前、森下に恋愛の相談でもされたのか?」
「そうじゃねえんだよ。実はな……、本当に誰にも言うなよ」
「分かったから、早く話せよ」
「森下のクラスに牧野っているだろ」
隣のクラスだ。
「どんな顔だったかな?」
一度もクラスが一緒になったことが無かったので名前と顔が一致しなかった。
「ほら、美術部の部長」
そこでやっと顔がうかんだ。
「ああ、あの娘か」
「そう、その娘だよ。それでな……、実はその牧野、俺の彼女なんだ。それはさ、まだ誰も知らないんはずなんだけどな」
そっちの方が驚きだった!
「おまえ! いっつの間に、彼女なんか作ったんだよ!」
ここで「なんでそんな話するんだよ?」なんていうのは、無意味なことだろう。
林田は自分の抱えた思いを誰かに打ち明けたい……、そんな感情だけで話しているのだから。
少なくとも俺はそう感じた。
「だから、どうしたものかと思ってな……」
だから、俺にどうしろっていうんだ?
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