第10話 皆既月食の色、街の明かり

時が流れ、ついに、その時がやってきた。


今、この時間、みんなが空を見ていた。



 月に地球の影がかかり、すべてを覆ってしまうと、その色は赤いような、茶色のような不思議な色になる。


それは、自分の住む地球が月と太陽の間になった時にだけ見せる月と地球の色だ。



宇宙から見ると、地球は青く見えるという。

でも、その青さは一部の人間以外は、写真や映像でしか見ることのできない色だ。

だが、今は、自分達の住む世界を、青くはないが、見ることができる。


月にかかる影は地球の影。

でも、それは、宇宙の広さからすれば、なんと小さいのだろう。

我々はそこでしか生きられない。


そう思って、何気なく、窓の灯りが少なくなった家々を見ると、何か、いとおしくも、感じられた。

 



「せんぱい……」

杏子が俺のそばに、歩み寄ってきた……。

だから、月を眺める自分のそばに、杏子が…………いる。


「みんなあの影の中で、生活したり、笑ったりしているんですよね……。


なんか、すごく不思議。


だって、あの影の中に……海や山も地球で生きている、全ての命があるんですよ」


なぜだろう……?

その言葉に、少し涙があふれそうになった。


「……そう、だね」


それだけ、やっと言葉にできた。

それ以上言葉を出せば、泣いてしまいそうだった。


感傷的になっていた。

受験、それが終われば卒業という、その前の気分からなのだろうか?

それとも不思議な現象の為だったのだろうか? 

杏子の感性を感じたからか?

自分でも、わからなかった。



「せんぱい……、今、私、先輩と一緒に月を眺めているんですよね……。

それで、あの影のなかに先輩も私もいるって思うとなんか不思議……」



そして……。


街の明かりに、杏子は俺を見つめて、言った。


「月の色……、とっても……」


「きれい」 


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