第6話 屋上での夜空、星ぼしのきらめき

 

 夜になると街はこれほど姿を変えるものなのだろうか。

 

 普段も、それほどうるさくは感じない街だが……。

 なにか、そうした具体的な音、ではなく、感覚的に昼間のざわつきがおさまり、静まり返っているようだ。

 

 普段、通学に使っているバスが大勢の帰宅客を乗せ、高校前の停留所に停まるとそこだけが明るくなり、走り去るとまた街灯の薄緑色の冷たい光だけが闇に道を浮かびあがらせる。

 普段なら参考書を机の上に拡げて、受験勉強をしている時間だ。 


 住宅地、しかも都会に隣接した街。

 そんな所にある高校の屋上からの星なんて、確かに高が知れている。

 光害で夏の天の川を見るなんて、どんなに晴れた日でも無理だ。

 だが、今、自分が見ている星の光は本の上ではない。

 今輝いてる、そこにある、でも、遥か昔の……光なのだ。 


 図書室では机の紙の上だけの星ぼしが、今、何百年、何千年の旅を経て空に輝いている。  



 宇宙を旅してきた遥か昔の光、それは時間という不思議なものに、どうしても思いを馳せさせる。


 遥か昔の光が今あるのだとすれば…………、向こうから、もし今のこの時間、地球を見れば、どんな姿が見えるだろう?

 それは、ここに生きる自分たちの知らない昔の光景だ。

 それならば、遥かな未来、どこかの遠い星の進化した生物が地球を見ることができたら、そこに、なにを見るのだろう?

 


 そんなことを星を眺めぼんやり考えていると、顧問の武田先生が集合をかけた。

「今日は、みんなも知っているとおり、皆既月食の日だ。だから普段は星の観測に適さない満月だが、今夜は思う存分月を見るように。写真は失敗しても、まあ、構わないから」

 

 自分がこの部活、この学校に入って良かったと思うのは、先生たちに良い意味での良い加減さがあるからだ。どこか自由な雰囲気があった。


「あ、そうそう、急に決まった話だけれど、今日はせっかくだから写真部も観測に参加するから」

 それなら森下も来るわけだ。あいつは月食ですら、秒間五コマで撮影するんだろうか?。 

 写真部は三年生は森下だけで、あと二年生が二人、一年生三人という構成だった。全員が男で。

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