第4話 黄昏時の写真
「よう、お前も来たのか」
森下は不愛想に言葉を口にし、しかし、すぐに俺のカメラに対抗意識に満ちた視線を向けた。
「お前も来たかじゃねえよ、ここは天文部以外立ち入り禁止だぜ」
「そこは、ちゃんと、お前の所の武田先生からも許可はとってあんだよ」
「受験生がなんでこんな所で遊んでるんだよ」
「お前だって、そうだろうが」
そう、二人とももう部活は引退なのだ。
「それにしても、こんなとこでモータードライブなんか必要があんのか? 一コマ、一コマ撮るんだったら手巻きでいいだろ?」
「いつ、何が起こってもいい様に備えるのがプロってもんだろ」
プロ? プロじゃないだろ。
「森下、それは見栄じゃねえのか?」
「うるせーな、お前は、写真、撮らねえのかよ? お前だって、カメラぶら下げてるんだろ」
「俺のは白黒なんだ。色の無え夕暮れ写真なんか撮ったってしょうがねえだろ」
「じゃあなんで、カメラなんか持ってきたんだ? 俺も、今はカラーだけど、俺だってさっきまでモノクロで撮っていたんだぜ」
「モノクロって、白黒って言えばいいだろ?」
「だから、いちいち、うるせえんだよ。
それに俺はモノクロって言葉が気に入ってるんだよ」
森下は、今、フィルム代だけで千円近くの金が掛かっているはずだ。
そんな会話をしながら、俺は夕暮れの太陽に輝く住宅街の屋根やその向こうに見えるシルエットになりかけた鉄塔を眺めてはいたが、やはり、カメラを持ってきたものの、写真を撮る気はしなかった。
一枚の写真を撮るたび、それだけ金がでることも考えると、シャッターを押すことも躊躇してしまう。
俺には、今カメラに入っている三十六枚撮り、一本のフィルムが今日の全てだった。
真剣にシャッターを押している森下に「こんなつまんねえ眺めの、なにを撮っているんだよ」と訊くと「俺の今だ!」と、こっちを見ることなく答えた。
「なに、わけの分かんねえこと言ってるんだ?」
夕暮れの感傷的な時間、森下は人の価値観ではない自分にとって大切な時間を切り取っておきたいとでも思ったのだろうか?
俺には森下が何に感動してここまで写真を撮るのか理解できなかった。
ただ、森下との会話は、残り少ない高校生活を考えると、意味が無くても楽しかった。
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