第3話 COLOR「タクトとカノン」

僕は、サークルの全体会議で皆が集まるタイミングを見計らい、タクトたちの背中を押すことにした。タクトとカノン二人のために一肌脱ぐことにした


まずは、今度の学祭の舞台装飾チームに二人を組み込むところから始めた。


二人にはそれぞれ、「カノンが真面目に取り組んでくれるタクトと一緒になら安心ってさ。」

「いつも丁寧に仕事を進めてくれる器用なカノンと一緒にできたらってタクトがさ。」

と伝えて、二人には大学の夏フェスで美術チームへの参加希望を出させようとした。


決して嘘ではなく、実際、それぞれが言っていたことだはあったし。



不器用な二人は、告白するとかしないとか関係なく、一つの目的のために力を合わせることで、距離を徐々に縮めて行くだろうと思った。

で、流れでなんとなく付き合っているような状況になるのだろうと、僕は信じ、しばらく様子を見ることにした。



全体会議が無事に終了し、二人は美術担当になった。

それから一カ月が経ち、サカエ通りの焼き鳥屋で飲んでいると、タクトが聞いて来た。


「お前さ。やっぱなんかすごい力持ってんだろ。」


「なんだよ、いきなり。その『なんか』ってなんだよ。」


「冴えない癖に、何か力を隠しているというか。」


「冴えない冴えないって、おまえしつこいな。まあ、いいけどさ。」

「で、どいう意味だ?僕に超能力やスーパーヒーローの素養があるとか?」


「結構真面目に聞いてんだぜ。やっぱり人と違う力を持ってるんじゃないかって。」

「例えば人の心が読めちゃうとか。」


「まさか。」

僕は思わず声を出した。


「まあ、いいだろう。じゃあ、特別に教えてやろう。」

「僕には、人には見えないものが見える不思議な力があるのです。」

ビールジョッキをトンとテーブルに置きながら、僕はふざけたように答えた。

どうせ信用されないだろう、と思いながら。


「お前、それ本当か。」

タクトが真剣な顔をして俺の目をのぞきこんできた。


「ほ、ほんとうだったらどうするんだ?」

その迫力に思わずどもってしまった。


「本当だったら、お願いしたいことがある。」

「結構マジな話。」


僕は少し悩み、間をおいた。

タクトになら、いいか。


「こちらも結構マジな話しするわ。」

そして、僕は生まれて初めて、人に自分が見える「色」の話をすることにした。

小さい時から見えてきたもの。それに何の意味があるのか全くわからず、人にも言えずに来たということ。


タクトは真剣な顔で、黙って話を聞いてくれた。


「なるほどな。」

タクトは理解してくれたようだった。

普通だったら疑うか笑うところなはずが、タクトはきちんと受け止めてくれたようだった。


「なあ、さっき言いかけたんだけどさ。」

タクトがボソっと話し始めた。


「どうしても俺には乗り越えられないことがあるんだ。」

「もしかしたらカノンに告白できないのもそれが影響してるかもしれないし、いつまでたっても自分自身の殻を破れなのもそのせいかもしれない。」

「イベサーに入って自分を変えたいと思ったのだって、、、。」


「なんだよ。もったいぶらずに話せよ。」

僕は段々イライラしてきた。自分が過去を思い切って伝えたと言うのに。


「あ、ゴメン。」

「口に出して言うって、時には勇気がいるもんだろ。」


タクトは姿勢を直して話し始めた。

「実はさ。」


「俺には2個下の妹がいたんだ。」


「俺が小学校5年、妹が3年の時に死んじゃったんだ。交通事故で。」

タクトは真剣な表情で話を続けた。


「俺たちは毎日一緒に学校に通っていた。行きも帰りも。」

「学校までは徒歩で20分くらいかかったから、いつも親に『妹を任せる』って言われて仲良く手をつないで通ってたんだ。」


「俺たちはすごく仲が良かった。」


「で、俺が5年生の時、帰り道に家に向かう最後の横断歩道で、妹はトラックにひかれちゃった。うちがもう近いと思って駆けだした妹を俺は止められなかった。」

「そこはめったに車が通らない道だったから、まさか車が来るなんて、と俺も油断してたんだ。」

無表情に話すタクトの心境はなかなか読めなかった。


「でもお父さんもお母さんも、俺のことを一切非難しなかった。」

「きっと俺を恨んでたはずなんだ。でも言わなかった。なんにも。」

「きっと、妹だって。」


「それから家族で笑いあうようなこともなくなっちゃってさ。明るい家族だったはずなのに。」


「俺は、あの場所にまだ妹が残ってるんじゃないかって、とずっと考えてるんだ。」

僕は、タクトの真剣な表情に圧倒されながら耳を傾けた。


「ずっと、心に残っちゃってるんだ。」

「だからさ。一緒に行ってくれないか、その場所に。」

「その日以来、遠回りして学校に通ってたから、あの場所にはずっと行ってないんだ。でも、お前とだったら行ける気がしたんだ。付き合ってくれないか。」


俺は即答した。

「いいよ、もちろん。」


「でも、そこにまだその子がいるっていう確証はないし、仮にいたとしても話すこともできない。ただいることを確認することしかできない。」

「それでも意味あると思うか。」


「わからない。」

「でも何かをしたいんだ。でないと、これからもずっと悔いを残したまま生き続けるしかない。」


「東日本大震災とか大きな災害があるとさ。家族を失い生き残った人たちが報道されることあるでしょ。あれ見るたびに悲しくて仕方がなくなるんだ。」

「どうしてあの時、あの子を助けられなかったんだって。なぜ自分だけが生き残っているんだろうって。きっと思ってるんだろうなって。残されて人たちは。」

「きっとみんなそう感じていると思うんだ。」


「俺にはそういう人たちの気持ちがよくわかる。というかわかっちゃうから苦しいんだ。」


「そしてお前には見えないものが見える力がある。」

「俺はお前が嘘をつかないやつだって良く知っているし、頭がおかしいやつじゃないとわかってる。」

「だから俺はお前を心から信じてる。」


「なあ。信頼した上でお願いしたいんだ。面倒かけてすまん。」


そんな風に頭を下げられ、僕に断れるはずがなかった。

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