第3話

フウコは俺の幼なじみです。


陸上をしていて、真っ黒に焼けた肌に黒々としたショートヘア、あと、爛々と光る黒瞳が印象的な少女です。


俺は彼女をとても素敵でとても綺麗だと思います。

ああ、や、恥ずかしいですね、こんなの。

はは、みなさんに言うんじゃなかった。どうか、ここだけの話にしといてください。


その、勘違いしないで欲しいのですが、彼女の顔立ちや見た目のことを言っているのではありませんよ。

そりゃまあ、彼女は見た目も良い方だとは思いますが、心が…… 。そう、心が素敵なのです。


まず第一に、彼女は毎日俺を見舞いに来てくれます。

ええ、どうですか、立派だと思いませんか。

できますか、あなたは。

いくら幼なじみだからといって毎日電車に乗って、病院なんて湿気たところに行けますか。


あ、ああ、俺は無理ですとも。俺は無理だ。

ヴァンパイアのような、痩せこけて色白で地味でつまらん奴のために、俺は自分の時間を使えそうにないです。


あなたはどうですか、あなたはできますか。幼なじみのために、毎日毎日足繁く…。


第二に、彼女はとても優しいのです。

彼女は俺に気を使って、俺の好きなクラシック音楽の勉強をしてくれます。


この前なんか、ショパンの曲をなるだけたくさん覚えて来たみたいで、どの曲が好きだとか、この曲はこうだとか、2人でずうっと話していました。


どうですかね、フウコの魅力が伝わったでしょうか。フウコのことを素敵だと思ってくれる人が増えることを、俺は俺の幸せだと思います。

なんたってフウコだけが俺の世界で、俺のやすらぐ場所なんですから。


ええ、みなさんには分からんでしょうね。あなたはありますか?

俺のように暗闇に束縛され、世界と遮断され、なにもなく植物かのように、生きてるのか死んでるのか分からない日々を過ごしたことが、あなたには……。


いや、すみません。こんなことを言ってもなんにもなりやしませんね。今のは忘れてください。


まあ、とにかくフウコはえらく気立ての良い中学生で、明るくて、優しくて、とにかくフウコが俺の世界の9割を占めてます。


フウコが、俺の世界の大部分をたった一人っきりで支えています。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る