第128話 その後 → 報酬
あれから、一週間が過ぎた。
あのあと、ゴブリンエンペラーの攻撃を受け止めてくれたゴートさん、僕を助けるために身代わりになってくれたモフ、そして強すぎるスキルを行使しすぎて体が動かなくなった僕たちを、高所から援護してくれていたリミたちが助けにきてくれた。
リミの【回復魔法】でなんとか動けるようになった僕たちは、ゴブリンエンペラー、ゴブリンキング、ゴブリンクイーン、ゴブリンジェネラルだけをアイテムバッグに回収して街へと戻った。ギルドに着くとそれらをギルドへと引継ぎ、東の森でなにがあったかの報告や、その後処理も含めてゴートさんに任せて宿に戻ると体も拭かずにベッドに倒れ込んだ僕は、丸一日以上寝てしまった。
途中でリミやシルフィが心配して部屋を覗きにきたみたいだけど、あんまりにもぐっすりと寝ていたからそっとしておいてくれたらしい。ただ、いつの間にか着替えさせられていて、体も綺麗になっていたのが問題と言えば問題? リミたちに聞いたら「あくまでも治療の一環だから!」と顔を赤くしながら逆切れされた……なんでだろう。
僕が目を覚ました翌日、冒険者ギルドに行くとギルド内はまだ慌ただしかった。僕たちの姿を見つけたレナリアさんから、ギルドもしばらくばたばたしているし、僕たちもしばらく休んだほうがいいということだったので、僕たちはまだしていなかったフロンティスを観光するためにここ数日は楽しく街を散策していた。
冒険者になることに目がいきすぎていて、逆に周りを見る余裕がなくなっていたらしい僕たちにはこの数日はとても実りが多かった。いろんな美味しい料理をいろんな屋台が売っている『屋台通り』、ドワーフの頑固な職人さんがやっている鍛冶と武具のお店、魔女みたいな怪しい雰囲気なのに実は優しいお婆さんの薬屋さん、マッチョなおじさんの雑貨屋さんに、ちょっと変わった店員さんが集まる服屋さん、あとは美味しいお料理を出してくれるお店とか、いろんな場所を知ることができた。
だけど見えたものはいいことばかりじゃなくて、ほかにもいろいろなものを見て……考えなくちゃならないことも増えた気がする。でも、それはすぐに答えが出ないことだから、いまは目の前のことをひとつずつ頑張るしかない。
「体のほうはどうだ、リューマ」
「はい、ゆっくりさせてもらったのでもう大丈夫です」
ギルド二階の個室で待っていた僕たちに、レナリアさんを連れて部屋に入ってきたゴートさんが軽く手を上げて挨拶をしてくる。
「そうか、リミ嬢ちゃんのお陰で俺もすぐに動けるようになったのはいいんだが、この一週間を思えば寝込んでたほうがましだったな」
疲れた様子で肩を鳴らすゴートさんは、うっすらと目に隈ができている。どうやらしばらくまともに寝ていないらしい。
「なにを言っているんですか! まだ初級(Fランク)のリューマくんたちを無理やり調査に連れ出したあげく、ゴブリンエンペラーまでいるような集団と戦闘させておいて! その後始末に奔走するくらい当たり前です!」
「ばっ、そうは言ってもな。こいつは
「そんなこと言ってもダメです! リューマくんたちは確かに強いですが、まだ冒険者としての経験が全然足りてないんです。しっかりと基礎を身に付けるためにも、ちょっとずつランクを上げる必要があるんです!」
「あぁ! わかった、わかってるって。こいつらに関してはお前に任せたんだ。一番いいように便宜をはかってくれ」
そんなゴートさんに、どうやらお怒りの様子なレナリアさんが噛みつかんばかりに食って掛かると、ゴートさんは即座に全面降伏をして両手を上げた。
「そんなに言うんならお前が冒険者に復帰して、リューマたちを助けてやりゃあいいんじゃねぇのか?」
「なっ………………そんなこと、できません。私のせいで……リューマくんたちに迷惑をかけるわけにはいきませんから」
軽い口調でゴートさんが落とした爆弾に、レナリアさんの表情が一気に曇る。レナリアさんの特殊スキル【戦渦の不運】。これがある限り冒険者は出来ないと思っているんだろう。でも、こんなデメリットしかないスキルが本当にあるのかな? もしかしたらこのスキルにはまだ隠された効果があるのかも。でも僕の【鑑定】【目利き】のコンボでもそんな情報は読み取れないんだよね。
『……あの受付嬢は早々に冒険者を引退した割に、レベルもまあまあ高いし、スキルも多い。もしかしたらそのスキルのお陰で成長率なんかに補正があるのかもな』
『あっ……なるほど。あり得るかもね』
『まあ、でもあくまでも予想だ。迂闊なこと言ってぬか喜びさせんなよ』
『うん……わかった』
「そうか……やりようはいくらでもあるような気がするんだがな。まあいい、とりあえず仕事を済ませちまうか」
うつむくレナリアさんをしばし見下ろしていたゴートさんは、小さな溜息を漏らすと頭を掻きながら椅子に腰を下ろした。ゴートさんはきっと冒険者をやりたいという想いを捨てきれていないレナリアさんに、冒険者をやってほしいと思っているんだろうな。でも、特殊スキルのせいで普通の冒険者よりも、レナリアさんが怪我をしたり、死んでしまう可能性が高いから強く勧めることができない。きっと歯がゆい気持ちがあるんだろうな。
「はい、お願いします」
「まずは先にお前たちへの報酬を渡しておくか、レナリア」
「はい」
ゴートさんが仕事の話を切り出すと、敏腕受付嬢のレナリアさんはすぐに気持ちを切り替えたらしく、すっと僕たちの前のテーブルに布袋四つを差し出した。
「まず、副ギルドマスターに拉致されたリューマくんたちは、結果として東の森調査クエストを完璧に達成したことになります。そちらの成功報酬として、金貨5枚。これは最初の依頼書にあった額ですので……少なくてすみません」
小さく頭を下げるレナリアさんに僕はとんでもないですと手を振る。もともと受ける予定のなかった依頼だし、事情はよく分かるから問題はない。
「ありがとうございます。それとゴブリン討伐のクエストを全員達成したとみなしますので皆さんは中級(Eランク)冒険者へと昇格になります。討伐証明の提出がないので報酬は出せませんが……」
僕たちが中級に上がるには1パーティで10体のゴブリン討伐だったから、今回200体近いゴブリンを倒している僕たちならひとり10体で計算してもお釣りがくる。報酬に関しては達成しても銀貨数枚とかだったはずだからそれは問題ない。それよりも中級になったことで初級ダンジョンへの挑戦資格を得たことのほうが嬉しい。
「かわりにゴブリンジェネラル2体、ゴブリンクイーン、ゴブリンキング、ゴブリンエンペラー。こちらの討伐報酬としてジェネラルに金貨20枚、クイーンに金貨40枚、キングに金貨100枚、エンペラーに金貨200枚。その他に今回の貢献度を考慮して金貨35枚。調査の報酬を合わせて合計金貨400枚が今回の報酬になります。申し訳ありませんが、これは提出いただいた死体から得られる素材や魔晶をギルドがすべて買い取るという前提での金額になります」
「よ! よんひゃくまい……ですか」
「すまんな、本来なら素材をどうするかは倒したお前たちの判断に委ねるべきなんだが……さすがにこれだけ騒ぎになるとギルドマスターに秘密にしておくのは難しくてな。いつもは無関心なあのハゲがしゃしゃり出てきたせいで素材は買い取りになっちまった」
「そ、そうですか……」
申し訳なさそうな顔のゴートさんを見れば、なんとなく状況がわかる。本来であればもっと交渉の余地があって、もっと好条件での取り引きができるはずだったってことなんだろう。でも、僕たちにしてみれば金貨400枚でも十分な報酬額なんだけどね。
「副ギルドマスターは、素材をどうするかは討伐者に確認するようにと申立てたのですが、ならば私が説得するから会わせろと言われて……」
「まだお前をあいつに会わせたくないと思っているのは俺の勝手な判断だ……」
「いえ、ゴートさんがそう判断したなら僕たちに問題はありません。ゴブリンエンペラーの魔晶は出来れば持っていたかったですけど」
本当は、僕たち人間のエゴで産まれたようなあのゴブリンエンペラーの魔晶は、今度のことを忘れないように手元に置いておこうかと思っていたけど、そういう事情なら無理を言うつもりはない。
「でも! 副ギルドマスターは素材を無料で接収しようとするのだけは阻止してくれました。ただ、討伐報酬と素材の売却益をちゃんと計算すれば金貨500枚は軽く越えたと思いますが……」
「あぁ! 大丈夫です、僕たちはこれで十分です。そもそも半分はゴートさんが倒してますし」
いまのところお金をどこに使えばいいのかとかよく分からないし、昨日までに見つけたようなお店で使うなら今回貰ったお金で十分賄える。
「冒険者は成果をあげてなんぼだ。そうである以上、成果には正当な対価を支払わなければならん。そんな当たり前のことすらわからん奴がギルドマスターをやっているのがそもそもの……いや、お前に愚痴っても仕方ないな。とりあえず報酬に関しては以上だ。あとは、あの場所の調査の結果でいくつかわかったことがあるが聞きたいか?」
あの場所でなにがあったのか……本当に人魔族が関わっていたのか、苗床にされていた人たちがどうなったのか、それを知ることは僕たちにとってはあまり気分のいいものではないと思う。でも、僕は知りたいと思う。シルフィやリミに視線を向けると二人も静かに頷いてくれた。それを確認した僕はゴートさんの目をまっすぐに見て口を開く。
「わかったことは全部、僕たちにも教えてください」
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