第127話 決着 → いつか

 僕がスキルをちゃんと制御できなかったせいだ……。


『リューマ! 落ち込んでいる場合じゃねぇぞ! これ以上あいつが強くなる前に一気に倒せ!』


 う、そうだった……いまは足が痛いとか言っている場合じゃない。あいつがこれ以上強くなる前に倒す。スキルを使いこなせていない僕の体が壊れて動けなくなる前に。

 僕はまず槍先に意識を集中して【付与魔法】で火属性を付与。同時に視覚効果を優先した火球を生み出してゴブリンエンペラーに放つ。

 だがその火球はエンペラーを狙ったものじゃない。放たれた火球はエンペラーの手前に打ち込まれ、そして爆発を起こす。


タツマ曰く、魔法はイメージがすべて。その考えのもとに魔法を練習してきた僕は、同じ火球でもいろいろなものが生み出せる。火球の大小、温度、速さ……そして爆発力。今回の火球の設定は大きさと爆発力重視。とにかく派手に爆発させて、あいつの周囲から他のゴブリンたちを追い払うのが目的だ。

 さらに巻き上がった砂煙に隠れ、【音波探知】でゴブリンエンペラーらしき反応を探し、【隠密】で接近して槍を突く。


 ずぶりと肉を貫く感触が伝わってくる


「やったか?」

『馬鹿リューマ! そりゃフラグだ!』

「クキャキャキャ!」


 タツマの叫びに、あ! と思ったときには楽し気に笑うゴブリンエンペラーが盾にした同胞で僕を殴り飛ばしていた。


 殴り飛ばされた僕は、すぐに起き上がってゴブリンエンペラーに向かって構えるが、追撃をしてこないゴブリンエンペラーは周囲に集まってくるゴブリンをゆっくりと楽しそうに殺している。


やばいな、【眷属支配】と【眷属吸収】に気が付かれた……でなければ、あれだけの爆発に普通のゴブリンたちが一体も逃げ出さないなんてことはない。ゴブリンエンペラーのレベルも10まで上がっている。

 目くらましからの【隠密】攻撃は僕の一番の必勝法だったんだけど、あいつを確実に倒すならへたな小細工はしないほうがよさそうだ。


 【神速】と【怪力】に馴染んでいないから、ほんの少し動きをセーブする感じで動く。それでもいままでよりも速く強い、でも体は軋みをあげる。だけどこれなら低ランクのスキルばかりになったうえに、まだレベルも低いゴブリンエンペラー相手になら有利に戦える。とにかくこれ以上あいつを強くしないのを優先しないと。

僕はあいつに近くのゴブリンを殺される前に先回りして、周囲のゴブリンを龍貫の槍を力任せに一振りして一掃すると、邪魔をされて逆上するゴブリンエンペラーに連突きを放つ。


「グギャぁ!」


 ゴブリンエンペラーは僕の突きを腕で振り払おうとするが、セーブしているとはいえ【怪力4】。素手で簡単に防がれたら困る。それでも多少狙いは逸れちゃったけど、しっかりと左肩を貫く。悲鳴をあげるゴブリンエンペラーから即座に槍を抜き、さらに追い打ちをかける。ゴブリンエンペラーは自分が殺したゴブリンファイターが持っていた長剣を拾って、吸収したらしい【剣術】で僕に斬りかかってくるけど、その程度なら負けない。

それは必ずしもスキルの違いや、レベルだけの問題じゃない。とにかくゴブリンエンペラーはまだ幼すぎたんだ。産まれたばかりで、戦闘経験なんかがまったくなかった。だからスキルで動きは鋭いけど、攻撃は単純で読みやすく、防御はフェイントに対応しきれない。


僕はゴブリンエンペラー攻撃のすべてを完璧にいなす。そして僕の虚実を混ぜた攻撃をやつはまともに受けることすらできない。もしも、【神速】と【怪力】がトレードされていなければ、そのスキルだけで技術や経験の差などひっくり返されていたかも知れないけど、ゴートさんのおかげでその仮定はもう意味がない。ただただ時間とともにゴブリンエンペラーの傷が増えていくだけ。


なにもかもがうまくいかないゴブリンエンペラーは、ひとつ傷を受けるごとに大げさな悲鳴を上げ、血走った眼で僕を睨む。でも、動揺があるのか【威光】の効果は感じられない。強力な【威圧】や【威光】を発動するには強い気持ちが必要なんだ。でも、動きの速さ、純粋な力、そして戦闘技術で僕に圧倒され、初めて痛みを感じているいまのゴブリンエンペラーには、無邪気に周囲を見下していたときの絶対的な自信はない。

 むしろ、その目の奥には恐怖すらあるのかも知れない。


『リューマ、周囲のゴブリンたちはほぼ片付いた。だが、そいつがいるかぎり嬢ちゃんたちを下ろすわけにはいかないぜ』


 わかっているよ、タツマ。弱っていてもこいつはなにをするかわからない。そんな危険なところにリミたちを来させるわけにはいかない。

 僕はそろそろ限界が近い体を、自分の【回復魔法】で誤魔化しながら龍貫の槍を構える。


「ウギッィ……」


 僕の気配が変わったことに気が付いたのだろう、ゴブリンエンペラーが初めて弱気な声を漏らし、僅かに腰が引けた。


「ごめんね、きっとキミは産まれてくるはずのなかった存在なんだ。僕たちの勝手な都合で生み出しておいて、そして僕たちの勝手な都合でキミを倒す。いつか……いつか君たちとも共存できる日がくるといいね」

「ウギ?」


 思わず話しかけてしまった僕の言葉。その意味が理解できないだろうゴブリンエンペラーは、急に話しかけた僕に怪訝そうな声を漏らすが、僕は槍を構えたまま踏み込み【神速】の突きでゴブリンエンペラーの喉を刺し貫いた。


咄嗟に出てしまった言葉だけど……いつか、僕たち人間も獣人も亜人も人魔族も同じとして仲良くできて、僕とモフみたいに魔物とも友だちとして一緒に暮らせるようになれたらいいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る