第64話 宝箱 → 考察

 凄い! まさか四階層程度の低階層でマジックアイテムが出るなんて! しかも魔力の回復量がアップするなんていう凄い効果のアイテム。たぶんだけど売ったら物凄い高く売れると思う……物々交換が主だったポルック村出身の僕にはお金の相場とかがわからないから騙されそうで怖くて売れないけど。


 ……それはさておき。


「こら! タツマ! なに勝手なことしてるの? 普通の罠だけの宝箱だったからよかったものの、宝箱に擬態していた魔物だったら自分から食べられにいくようなものだったんだよ!」

『は? なに言ってんだよリューマ。もしかしてお前宝箱【鑑定】してなかったのか? お前くらいの【鑑定】能力がありゃ、宝箱なのか魔物なのか、罠があるのかないのかくらいわかんだろ! おりゃあてっきりなんも言わないから魔物じゃないってことだと思ってたんだが…………まさか、違ってたのか?』


 あ………………言われてみれば確かに。僕の【目利き】つきの【鑑定】ならわかったかも。


「ねぇ、りゅーちゃん。どうしたの? なんでスライムに怒鳴ってるの? なにが出たのかな」

「あ、うん。すごいのが出たよ。これでリミの魔法の熟練を上げられるかも知れないよ」


『……逃げたな』


 タツマのつぶやきは僕の耳には届かないのだ。まあ脳内に直接だから耳には届かなくても聞こえるんだけどね。


「え? なになに。リミに(・・・)その指輪をくれる(・・・・・・)の?」


 なんかリミの強調している部分が気になるけど……まあいいか。リミの右手を取って指輪をはめてあげようしたら、なにかを期待するようにさりげなく左手に変えてきた。しかも薬指限定だ……。

 この世界にはそんな風習はないんだけど、前にタツマの世界の風習をぽろりと漏らしたのをしっかりと覚えていたらしい。確かにそのときは『とっても素敵だねりゅーちゃん!』って興奮気味だった。ちょっと顔を赤くしながら大人しく指を差し出すリミが可愛くて思わずくすっと笑ってしまった僕はそのまま薬指に指輪をはめてあげた。仮にそういう風習があったとしてもリミとなら別に問題ないしね。


「きゃぁ! ありがとうりゅーちゃん。リミ大事にするね」

「ちょ、ちょっと待ってよリミ。大事にしてくれるのは嬉しいけどそれはマジックアイテムだから、仮ってことにしておいて。そういうのが欲しいならいつかちゃんとしたのをあげるから」

「本当! わかった! 絶対だよ。約束だからね」


 指輪を握りしめてピョンピョンと跳ねるリミにストップをかけると、指輪効果について説明しておく。獣人であるリミはレベルを上げても魔力の絶対量がどうしても他の種族よりも少ない。【魔術の才】があるので威力は十分だし、使い込めば消費効率も良くなっていくと思う。でも今まではスキルレベルを上げるために使い込む魔力自体が足りなかった。でもこの指輪で回復速度をあげておけばいままでよりも魔法を使っていくことができるはず。


「だから、これからは魔法もどんどん使っていこう。せっかくの才能なんだから伸ばさないと」

「うん、わかった。がんばる!」


 笑顔で頷いて、さっそく【水術】で水の球を生み出してうにょうにょと変形させる練習を始めるリミ。


「それにしてもリューマ様。ずいぶん良い物がでましたね」

「うん、そうなんだよね……もしかすると」


 そんなリミを微笑みながら見ていたシルフィの言葉に頷きながら僕は考える。

 普通はダンジョンから得られる宝物は低階層から深階層へ行くほど良くなっていくというのが常識らしい。だけど、それは統計学的な話だ。

 これは僕の仮説だけど、低階層のアイテムのランクが低いのは入手が容易で手に入れる冒険者が多すぎるからだとしたらどうだろう。ダンジョンの詳細はよくわかっていないみたいだけど、そんなにレアの物ばかりを生み出すのはダンジョンだって大変だと思うんだよね。だからアイテムも頻繁に何度も取られるとだんだん質が落ちていくんじゃないかな?


「そうすると、全く手つかずだったこのダンジョンではいいアイテムが出やすい可能性がある。と?」


 僕の仮説を聞いたシルフィの問いかけに、もしかしたらだけどねと応えて頷く。いずれにしろ検証のしようもないし、僕たちは出てきた宝箱を開けて中の物をもらうだけだから検証にもたいした意味はないのかも。


「とりあえず、四階層のマップもこれで完成だし一度戻って明日はボス部屋を攻略して五階層へ向かおうか。でも、また宝箱が見つかるようなら、ちょっと楽しみだね」

「はい」

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