第63話 タツマ → 新特技

 見た目はありがちな木の箱だった。タツマの世界のゲームのように蓋が丸みをおびているようなこともなく、ただたん60センテ四方の四角い箱。それが僕たちの世界の宝箱みたいだ。


「りゅーちゃん。なにが入ってるんだろうね、楽しみだね」


 リミは父さんたちから、ダンジョンで見つけ出されたとされるいろんな武器やアイテムの話をたくさん聞いているせいか宝箱に興味津々みたい。

 まあ、もちろん僕もわくわくしているから早く開けてみたいんだけど……問題は僕たちの中に罠とかを見つけて解除できる技能を持った人がいないっていうことなんだよね。

 リミは父さんたちから綺羅びやかなお宝の話しか聞いていなかったみたいだけど、僕は違う。いつか冒険者になるなら危険なことは知っておくべきだって言われて、ダンジョンの中で父さんたちが見たことのある罠や、モンスターについて聞かされている。

 だから、迂闊に宝箱を開けるのが危険な行為だというのはよく知っている。


『リューマ! リューマ! なにやってんだよ! 早く開けようぜ』

『そうはいかないよ。罠とかあったらどうするつもりなの』


 宝箱の周りを一周してみた限り、鍵穴のようなものはあった。だが、ダンジョン内でその鍵が見つかることはまずない。まさに『ダンジョンの気の向くまま』っていうやつ? ダンジョンの中ではなにがおこってもおかしくないし、どんな理不尽なことでもダンジョンの気分次第で簡単におこりうるってことで、理不尽なことを表すこっちの世界のことわざなんだけどまさに今がその状況。

 鍵がないのに鍵がかかっているだろう宝箱。そして仕掛けられているかも知れない罠……さてどうしよう。


『なんだそんなことか。俺に任しておけって!』

「え! タツマ?」


 モフの上から跳び降りて平然と宝箱に向かうタツマに思わず声を出してしまう。そんな僕をしり目にタツマはぬるりと宝箱の鍵穴から潜り込んでいってしまった。


「あの……リューマ様。リューマ様のスライムが入っていきましたけどよろしいのですか?」

「……よろしくないです」


 慌てて宝箱に駆け寄った僕は鍵穴の正面を避けつつ宝箱に近づき、こんこんと宝箱を叩きながらパスを通してタツマへと呼びかける。


『タツマ! なに勝手なことしてるの! 危ないから早く出てきなよ!』

『……心配すんなって。……ここを、こうすれば……で、これが……あれね』


 カチャ


『よし! いいぜリューマ。開けてみてくれ』

『え? 本当に開いちゃったの? 大丈夫?』

『大丈夫だって! 暗くて中身は見えないから早く開けろよ』

『わかったよ』


 タツマの自信たっぷりの言葉をちょっと不安は残るけど信じることにするか。


「リミとシルフィはちょっと下がっててね」


 念のためにふたりを宝箱から遠ざけると、後ろ側からそうっと蓋を開ける。幸い、タツマの言う通り鍵は解除されていたらしく、さしたる抵抗もなく蓋は開いた。罠の発動なんかもないみたいだ。

 それを確認してから宝箱の中身を確認するために覗き込む。


「……指輪?」

『やったなリューマ! ダンジョンでの初お宝ゲットだぜ!』


 自慢気にぷるぷると震えるスライムが一匹と小さな指輪がひとつ入っていた。興奮状態のタツマは取りあえず放っておいてその指輪を手に取ってみる。手の平で転がった指輪は銀色の金属で出来ていて小さな黒い石が埋め込まれているだけの簡素なものだ。見ただけではなにか効果があるのかとかはちょっと分からない。と、なれば当然【鑑定】の出番だよね。いや、いきなり填めるとかしないよ? 呪われてたりしたら危ないからね。


『吸魔の指輪   技能:魔力再生(魔力の回復速度が上昇する)』

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